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Ⅱ.拓かれる秘境国
内戦状況1
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騎馬隊の後ろに乗り、俺達は海岸近くまでやって来たのであった。
「これより先は我々では踏み込めません」
「ありがとう。ここからは徒歩で行く」
連れてきてくれた騎馬隊はニコリともせずに去っていく。
引き返して城に戻るのかと思ったら、別の方向へと駆けていった。
海岸では剣や槍を使って敵軍を押したり引いたりの交戦がされているが、ここは休息地点である。
物資の木箱に囲まれたスペースには、楽しく世間話を交わしながら飯を食う兵士が見受けられた。
そして指定の時刻になれば早々に席を立ち、気張った顔をして戦場へと出ていくのである。
「戦い慣れしていますね」
その前を通過していたらカイセイが耳元で言う。
「アルバートとは大違いだ」
俺は、本物の剣を持たせただけでプルプル震えていた男のことを急に思い出した。
大河は横に大きく伸びており一国を真二つに分断しているのである。
いくつかあっただろう橋は、シャーロットの言っていたとおり全て砲弾で撃ち落とされていてひとつも無い。
「どうやって向こう岸に渡りましょうか」
「普通に考えれば、船を使うか泳ぐかだな」
遠目に見ると浅い川のように見えなくもない。だが浅い場所ではすでに戦いが起こっていた。
人気が少ない場所は戦いづらいところで、おそらく川の流れも早いのだろう。
「泳ぐにしては寒いしな」
火薬の香りを運んでいるのは、まだまだ冬を忘れていない春の風である。
考え見回していると、ふと談笑する戦士たちの服装で気になる部分があり、俺の方から「ちょっとすまんが」と声をかけた。
「ああ視察の方か。どうされた?」
俺とカイセイは城で身につけさせられていた黄色のタスキのおかげで、戦士たちから快い返事をもらうことが出来る。
「その紫色のワッペンが南部兵の証なのか?」
「ん? これのことですか」
その兵士は胸のところにつけた大ぶりの勲章を外して持たせてくれた。
布地に国章を刺繍しただけのもので即席で作ったとされる。裏は安いピンを縫い付けてあった。
「敵部隊は赤色のものを付けていますよ」
その間サンドウイッチを頬ぼった兵士は、もにゃもにゃ口を動かしながら言う。
俺はそれを聞きながら不思議だった。
赤色は汚れなき血の色。セルジオの誇りだと言うが、それを裏切り部隊にぶんどられていても悔しくは無いのか? と。
逆撫でになることは避けようと思い、ここではその疑問は口には出さないでおく。
よく見た勲章はすぐに返した。兵士は慣れた手付きでそれを胸元のところに戻した。
この辺りの者たちは全員紫チームである。
たとえばここに赤い勲章を付けた人物が紛れていたとすれば、すぐさま城に連行されるに違いない。
「妙案が浮かんだぞ、カイセイ」
「それって本当に妙案ですか?」
カイセイは俺からの吉報にすぐさま反対の意思を示していた。
「悪い予感しかしませんけど」
「お前も少し同じことを思っていただろ」
「まあ、可能性として、ですけどね……」
優秀な側近は言う前から何かしらをすでに察しているらしい。
嫌々言っていても最短で動くには最良な作戦だ。
「その勲章の余りはあるか? 三人分分けて欲しい」
言えば同じものはすぐに入手することが出来た。
黄色のタスキをつけていれば視察者。国内ではどちらの敵にもなることは無い。
セルジオ城からのはからいを悠々捨て置き、俺たちは胸元に紫色を掲げている。
「北部の本拠地を探し出すのは時間がかかる。手っ取り早くキースの元に行くにはこうすれば良いのだ」
それを言ってから俺たちは、北部兵が制圧した川下の浅瀬に歩いて向かう。
「くれぐれも殺されないで下さいよ? 一応あなたは国の王子なんですからね」
「俺を守るのがお前の仕事だ。職務放棄をするな」
それに口が悪過ぎるという点も咎めておくべきだった。
俺たちの姿は拠点に踏み入れる前に赤色組の監視兵に見つかり、さっそく矢じりが飛ばされた。
ある程度の身のこなしで攻撃を交わし、時には向かい来る兵士を武術で撃退する。
カイセイはさることながら、ベンブルクの兵士もよく洗礼された動きだ。
咄嗟の機転も聞き、三人で協力し合いながら拠点内部まで押し進められた。
「そこまでだ!」
だが俺たちの動きは止まる。
剣を突きつけられて身動きを封じられたことで、俺たちは両手を上げて降参した。
「見ない顔だな。隊列はどうした?」
「突破しようとしてくるなんて、ずさんな奴だ」
「どうせ新米だろ」
俺たちの手錠を掛けながら北部兵は口々に喋っている。
「あまり身勝手なことで目立つと、し尿処理班に回されちまうぞ」
ワッハッハ、と周りの兵士らで笑いが起こった。
セルジオ兵士の中ではあるあるなのだと思う。俺は面白く無いので笑っていない。
ここでの敵は同国の兵士であるから、今すぐ殺してしまおうという気は無いらしい。
「こいつら、どうしようか」
「離してやるってのもなんか違うだろ?」
「だよな。なんか違うよなぁ……」
むしろ捕らえたは良いが俺たちのことで困られてしまっていた。
まるでゲームのルールを予め決めていなかったかのような、歯切れの悪い会話がなされている。
「投獄しようにも牢屋は城だ。刑務所もあっち側だしな」
「とりあえずキース様に報告しにいくか?」
「どうせなら連れて行こう。飯にたかられても困る」
事の運ばれ方は、俺たちが求めていた形になりそうだ。
「これより先は我々では踏み込めません」
「ありがとう。ここからは徒歩で行く」
連れてきてくれた騎馬隊はニコリともせずに去っていく。
引き返して城に戻るのかと思ったら、別の方向へと駆けていった。
海岸では剣や槍を使って敵軍を押したり引いたりの交戦がされているが、ここは休息地点である。
物資の木箱に囲まれたスペースには、楽しく世間話を交わしながら飯を食う兵士が見受けられた。
そして指定の時刻になれば早々に席を立ち、気張った顔をして戦場へと出ていくのである。
「戦い慣れしていますね」
その前を通過していたらカイセイが耳元で言う。
「アルバートとは大違いだ」
俺は、本物の剣を持たせただけでプルプル震えていた男のことを急に思い出した。
大河は横に大きく伸びており一国を真二つに分断しているのである。
いくつかあっただろう橋は、シャーロットの言っていたとおり全て砲弾で撃ち落とされていてひとつも無い。
「どうやって向こう岸に渡りましょうか」
「普通に考えれば、船を使うか泳ぐかだな」
遠目に見ると浅い川のように見えなくもない。だが浅い場所ではすでに戦いが起こっていた。
人気が少ない場所は戦いづらいところで、おそらく川の流れも早いのだろう。
「泳ぐにしては寒いしな」
火薬の香りを運んでいるのは、まだまだ冬を忘れていない春の風である。
考え見回していると、ふと談笑する戦士たちの服装で気になる部分があり、俺の方から「ちょっとすまんが」と声をかけた。
「ああ視察の方か。どうされた?」
俺とカイセイは城で身につけさせられていた黄色のタスキのおかげで、戦士たちから快い返事をもらうことが出来る。
「その紫色のワッペンが南部兵の証なのか?」
「ん? これのことですか」
その兵士は胸のところにつけた大ぶりの勲章を外して持たせてくれた。
布地に国章を刺繍しただけのもので即席で作ったとされる。裏は安いピンを縫い付けてあった。
「敵部隊は赤色のものを付けていますよ」
その間サンドウイッチを頬ぼった兵士は、もにゃもにゃ口を動かしながら言う。
俺はそれを聞きながら不思議だった。
赤色は汚れなき血の色。セルジオの誇りだと言うが、それを裏切り部隊にぶんどられていても悔しくは無いのか? と。
逆撫でになることは避けようと思い、ここではその疑問は口には出さないでおく。
よく見た勲章はすぐに返した。兵士は慣れた手付きでそれを胸元のところに戻した。
この辺りの者たちは全員紫チームである。
たとえばここに赤い勲章を付けた人物が紛れていたとすれば、すぐさま城に連行されるに違いない。
「妙案が浮かんだぞ、カイセイ」
「それって本当に妙案ですか?」
カイセイは俺からの吉報にすぐさま反対の意思を示していた。
「悪い予感しかしませんけど」
「お前も少し同じことを思っていただろ」
「まあ、可能性として、ですけどね……」
優秀な側近は言う前から何かしらをすでに察しているらしい。
嫌々言っていても最短で動くには最良な作戦だ。
「その勲章の余りはあるか? 三人分分けて欲しい」
言えば同じものはすぐに入手することが出来た。
黄色のタスキをつけていれば視察者。国内ではどちらの敵にもなることは無い。
セルジオ城からのはからいを悠々捨て置き、俺たちは胸元に紫色を掲げている。
「北部の本拠地を探し出すのは時間がかかる。手っ取り早くキースの元に行くにはこうすれば良いのだ」
それを言ってから俺たちは、北部兵が制圧した川下の浅瀬に歩いて向かう。
「くれぐれも殺されないで下さいよ? 一応あなたは国の王子なんですからね」
「俺を守るのがお前の仕事だ。職務放棄をするな」
それに口が悪過ぎるという点も咎めておくべきだった。
俺たちの姿は拠点に踏み入れる前に赤色組の監視兵に見つかり、さっそく矢じりが飛ばされた。
ある程度の身のこなしで攻撃を交わし、時には向かい来る兵士を武術で撃退する。
カイセイはさることながら、ベンブルクの兵士もよく洗礼された動きだ。
咄嗟の機転も聞き、三人で協力し合いながら拠点内部まで押し進められた。
「そこまでだ!」
だが俺たちの動きは止まる。
剣を突きつけられて身動きを封じられたことで、俺たちは両手を上げて降参した。
「見ない顔だな。隊列はどうした?」
「突破しようとしてくるなんて、ずさんな奴だ」
「どうせ新米だろ」
俺たちの手錠を掛けながら北部兵は口々に喋っている。
「あまり身勝手なことで目立つと、し尿処理班に回されちまうぞ」
ワッハッハ、と周りの兵士らで笑いが起こった。
セルジオ兵士の中ではあるあるなのだと思う。俺は面白く無いので笑っていない。
ここでの敵は同国の兵士であるから、今すぐ殺してしまおうという気は無いらしい。
「こいつら、どうしようか」
「離してやるってのもなんか違うだろ?」
「だよな。なんか違うよなぁ……」
むしろ捕らえたは良いが俺たちのことで困られてしまっていた。
まるでゲームのルールを予め決めていなかったかのような、歯切れの悪い会話がなされている。
「投獄しようにも牢屋は城だ。刑務所もあっち側だしな」
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