4 / 4
サプライズは成功?
しおりを挟む
ベッドに横になるセシリアと、その脇に座る僕との会話は続いている。
「お父様とお母様は元気?」
「元気だよ。相変わらず喧嘩ばっかりしてる」
つい昨日届いた女神像の噴水の話をした。送り主が父の浮気相手だと母が激怒し騒がしかったアレだ。
メルチ国内や他の国でも、両親は稀に見ないオシドリ夫婦だって言われている。なのに家では全くその反対で、息子としては苦しい毎日だってボヤいてしまった。
セシリアはそんな話でさえも楽しんで笑ってくれるからいつも救われている。
「まあまあ、お二人らしいわね」
「そう思えるのは家族だけだよ。あの二人は表向きだけ良いんだから」
「ええ? あなたも同じだと思うけど? ……ほら。みんなの前ではそうやって頬を膨らませたりしないじゃない?」
シーツの隙間からセシリアの腕が伸びてきて、僕の頬を優しく掴んだらプシューっと空気が抜けていった。
それで意地悪く笑う顔がまた僕にとってたまらなく、いっつも骨抜きにされている気がする。
でも、そうだ。
「思い出した! プレゼントだよ、誕生日おめでとう!」
幸せ過ぎる一時に酔っているばかりで、僕としたことが驚かそうというスタンスをすっかり忘れていた。
「今さら?」と、正直な苦笑が返ってきた。
プレゼントはポケットの中に忍ばせてある。取り出した小さな小箱を差し出すと、セシリアは上半身を起こして受け取ってくれた。
「……あったかい」
「肌身離さず持っていた」
苦笑するもセシリアは小箱の蓋を開ける。
しかし、とっておきのサプライズプレゼントは失敗だった。小箱の中に込めていたはずの品物は、当時の輝きを失って萎れていた。
「お花?」
「……そう。花のブレスレットだったんだけど」
僕が走ったせいでツルが解けたのかもしれない。そもそも水気を失って縮んだからバラバラになったのかも。
「水が無いと枯れてしまうのを知らなかったの?」
「まさか。すっかり頭から抜けていた」
「もう、リュンヒン……」
シーツに突っ伏す僕には、セシリアの大きな大きな笑い声が降りかかっている。
十分だって。むしろ最高だって。愛の女神は色んな言葉を掛けてくれるけど、僕はしばらく立ち直れそうにないよ。
このままで国に帰れるわけがなく、僕は寝ずに考えた。
でも病み上がりのセシリアを外に連れ出すことは出来ないし、他国での良いお店もよく分からない。それで考えは難航するばかりに終わっている。
荷造りだけ終わらせておいて、じっと椅子に座っていた。
するとこの客室にノックが鳴った。
「リュンヒン、ちょっと良い?」
その声が召使いではなくセシリアだというのは一瞬で分かり、慌てて扉を内から開く。
髪を結って飾りを付け、来客用のドレスを纏った妖精がそこに居た。
僕は思わず見惚れてしまう。でも「ちゃんと寝ていなくちゃ」とようやく叱ることができる。
言い訳をするのに使うと彼女は分厚い本を持っていた。
「ちょっと見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
それは扉のところじゃ難しく、セシリアは部屋の中に入るとテーブルの上に分厚い本を置く。
中を開いたら僕へ送る想いの言葉が溢れるのではなく、挟まった青い小花がパラパラと風に舞った。
「ああ、おっと」
数枚は床に落ちるほどだ。大事に拾い上げるととても軽い。
「少し色は落ちてしまうんだけど押し花にしてみたの。これで栞を作ろうと思うんだけど、一緒にやらない?」
そうして二人は取り掛かった。
切り取った台紙にノリで押し花を貼っていく。あとは色を塗ったり絵を描いたりするだけと手順は簡単なものだった。
こう見えて僕は手先の器用さには自信が無い。それはもうとっくにセシリアは知っているはずなのに、わざとこういう作業を差し向けてくる。
出来上がったものは雲と泥の差だ。美的センスよりも技術力が足りていないのが、ありありと分かる結果になった。
「じゃあ、はい」
そう彼女の方から言われ、青い小花を器用に円形に収めた栞が差し出される。
「もらっていいの?」
「もちろん。来てくれたお返し」
それは素直に嬉しくて僕は受け取った。
次に彼女は僕が作った駄作の栞を欲しがった。それはさすがに僕の方で処分してしまうとか何とかしたいと思って拒んでいる。
でもどうしてもそれが欲しいと懇願され、仕方なく渡す……。
「ありがとう。素敵な誕生日プレゼントだわ。これは、犬?」
僕が栞に描いた絵を指で指して言う。
「いや、それは鳥のつもり」
「ほんと!?」
とびきりの笑い声がこの部屋に響いている。
そうやってお腹を抱えて笑うセシリアは僕の最愛の婚約者。
飾らない笑顔は世界一可愛くて、優しい心がいつも美しくて。世界中の誰よりも幸せを与えたい人だ。
「来年はもっと驚かせるよ」
セシリアは大笑いの末に涙を浮かべながら頷いた。
「ええ。期待してるわ。次はちゃんとした鳥を描いてね」
特別な一日は、僕にとっても決して忘れない一日になった。
(((最後まで読んでいただき
(((ありがとうございました。
(((長編小説『クランクビスト』の方も是非読んでみて下さいませ。
「お父様とお母様は元気?」
「元気だよ。相変わらず喧嘩ばっかりしてる」
つい昨日届いた女神像の噴水の話をした。送り主が父の浮気相手だと母が激怒し騒がしかったアレだ。
メルチ国内や他の国でも、両親は稀に見ないオシドリ夫婦だって言われている。なのに家では全くその反対で、息子としては苦しい毎日だってボヤいてしまった。
セシリアはそんな話でさえも楽しんで笑ってくれるからいつも救われている。
「まあまあ、お二人らしいわね」
「そう思えるのは家族だけだよ。あの二人は表向きだけ良いんだから」
「ええ? あなたも同じだと思うけど? ……ほら。みんなの前ではそうやって頬を膨らませたりしないじゃない?」
シーツの隙間からセシリアの腕が伸びてきて、僕の頬を優しく掴んだらプシューっと空気が抜けていった。
それで意地悪く笑う顔がまた僕にとってたまらなく、いっつも骨抜きにされている気がする。
でも、そうだ。
「思い出した! プレゼントだよ、誕生日おめでとう!」
幸せ過ぎる一時に酔っているばかりで、僕としたことが驚かそうというスタンスをすっかり忘れていた。
「今さら?」と、正直な苦笑が返ってきた。
プレゼントはポケットの中に忍ばせてある。取り出した小さな小箱を差し出すと、セシリアは上半身を起こして受け取ってくれた。
「……あったかい」
「肌身離さず持っていた」
苦笑するもセシリアは小箱の蓋を開ける。
しかし、とっておきのサプライズプレゼントは失敗だった。小箱の中に込めていたはずの品物は、当時の輝きを失って萎れていた。
「お花?」
「……そう。花のブレスレットだったんだけど」
僕が走ったせいでツルが解けたのかもしれない。そもそも水気を失って縮んだからバラバラになったのかも。
「水が無いと枯れてしまうのを知らなかったの?」
「まさか。すっかり頭から抜けていた」
「もう、リュンヒン……」
シーツに突っ伏す僕には、セシリアの大きな大きな笑い声が降りかかっている。
十分だって。むしろ最高だって。愛の女神は色んな言葉を掛けてくれるけど、僕はしばらく立ち直れそうにないよ。
このままで国に帰れるわけがなく、僕は寝ずに考えた。
でも病み上がりのセシリアを外に連れ出すことは出来ないし、他国での良いお店もよく分からない。それで考えは難航するばかりに終わっている。
荷造りだけ終わらせておいて、じっと椅子に座っていた。
するとこの客室にノックが鳴った。
「リュンヒン、ちょっと良い?」
その声が召使いではなくセシリアだというのは一瞬で分かり、慌てて扉を内から開く。
髪を結って飾りを付け、来客用のドレスを纏った妖精がそこに居た。
僕は思わず見惚れてしまう。でも「ちゃんと寝ていなくちゃ」とようやく叱ることができる。
言い訳をするのに使うと彼女は分厚い本を持っていた。
「ちょっと見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
それは扉のところじゃ難しく、セシリアは部屋の中に入るとテーブルの上に分厚い本を置く。
中を開いたら僕へ送る想いの言葉が溢れるのではなく、挟まった青い小花がパラパラと風に舞った。
「ああ、おっと」
数枚は床に落ちるほどだ。大事に拾い上げるととても軽い。
「少し色は落ちてしまうんだけど押し花にしてみたの。これで栞を作ろうと思うんだけど、一緒にやらない?」
そうして二人は取り掛かった。
切り取った台紙にノリで押し花を貼っていく。あとは色を塗ったり絵を描いたりするだけと手順は簡単なものだった。
こう見えて僕は手先の器用さには自信が無い。それはもうとっくにセシリアは知っているはずなのに、わざとこういう作業を差し向けてくる。
出来上がったものは雲と泥の差だ。美的センスよりも技術力が足りていないのが、ありありと分かる結果になった。
「じゃあ、はい」
そう彼女の方から言われ、青い小花を器用に円形に収めた栞が差し出される。
「もらっていいの?」
「もちろん。来てくれたお返し」
それは素直に嬉しくて僕は受け取った。
次に彼女は僕が作った駄作の栞を欲しがった。それはさすがに僕の方で処分してしまうとか何とかしたいと思って拒んでいる。
でもどうしてもそれが欲しいと懇願され、仕方なく渡す……。
「ありがとう。素敵な誕生日プレゼントだわ。これは、犬?」
僕が栞に描いた絵を指で指して言う。
「いや、それは鳥のつもり」
「ほんと!?」
とびきりの笑い声がこの部屋に響いている。
そうやってお腹を抱えて笑うセシリアは僕の最愛の婚約者。
飾らない笑顔は世界一可愛くて、優しい心がいつも美しくて。世界中の誰よりも幸せを与えたい人だ。
「来年はもっと驚かせるよ」
セシリアは大笑いの末に涙を浮かべながら頷いた。
「ええ。期待してるわ。次はちゃんとした鳥を描いてね」
特別な一日は、僕にとっても決して忘れない一日になった。
(((最後まで読んでいただき
(((ありがとうございました。
(((長編小説『クランクビスト』の方も是非読んでみて下さいませ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白いです!
それにしても、文章力がすごい。夢から目覚める時も、素晴らしい表現でした。読みやすいし。これから楽しみにしてます。
ありがとうございます!!
とっても、とっても嬉しいです😌
つたないところもありますが、是非最後までお楽しみ下さい💕