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天使になっても一向に構いません
しおりを挟む次の日。光祭りの最終日ということで、ますます賑わう町で必要な物を買い足し、私達は出発した。
「今のところ、魔物はいないな」
ルベルは、辺りを警戒して歩いている。
「一匹もいないのは、ちょっと変だよなぁ」
人間を襲わない魔物は、魔力を持たない動物と基本的に同じような生活をしている。こういう森の中には、普通は結構いるものなのに。今日は、まだ一匹も魔物を見ていない。
「町を出てから、だいぶ経つわよね?」
「そうですね。さすがに、そろそろ一匹くらいは出てくるんじゃないかと……ん?前から、何か来ます」
「はあっ?なに?怖い怖い」
また大型の魔物か?と怯えたティグレは、ルベルの腕にしがみつこうとして、すっと避けられた。
「魔物、ではなさそうだ。小さいな、子供か?」
「子供?村はまだ結構遠いぞ」
ティグレが町の人から聞いた話では、この先に外の人間との交流を断っている閉鎖的な村があるのだとか。多少お金を多めに払えば、一泊くらいはさせてくれるらしく。私達は今日、その村に一泊するつもりでいる。
「迷子かしら?」
「あっ、倒れました」
「なんですって?」
子供が倒れたなんて、一大事じゃない!
「冷静に見てる場合か!?あっちの方だよな?俺、ちょっと見てくる!」
ティグレは慌てて、ルベルが見つめていた方へ走っていった。
「しょうがないな。リヴ、少し抱きかかえて走ってもいいですか?」
「ええ、お願い」
ルベルに抱きかかえられて、私も子供のもとへ向かう。
「げっ!?また、このパターンかよ!!」
先を走っていたティグレを、ルベルは簡単に追い抜いた。私を抱きかかえた状態でこんなに速く走れるルベルは、やっぱり凄いわ。
「ああ、いましたね」
ルベルが遠くから見た通り、道端に男の子が倒れていた。身なりがボロボロで、やせ細っているわね。十歳くらい、かしら?
「病気ではないといいのだけれど……」
基本的に、病気は回復魔法で癒すことが出来ない。この子が病気ではないことを祈りながら、回復魔法を掛けた。
「ハァハァ、やっと、追いついた。どうだ?大丈夫そうか?」
遅れて追いついたティグレが、心配そうに男の子の顔を覗き込む。
「軽い脱水症状と、栄養失調みたいね。内臓が弱っているから、そこは魔法で治すわ。食べ物と水を用意してあげて」
「いや、回復魔法で医者みたいな診察するって、めちゃくちゃ高位の神官くらいしか出来ないやつだぞ!?」
ぎょっとした顔で、ティグレが私を見た。
「リヴ、これは人前ではやらない約束だったでしょう。神殿に目をつけられてしまいますよ」
回復魔法の使い手は、それほど多くはない。しかも、回復魔法が使えると知られれば、神殿で人々の為に働くことを要求される。
私は公爵令嬢だったから、神殿に行かなくて済んでいたけれど。今なら無理矢理連れて行かれて、毎日回復魔法を使うことを強制されるかも知れない。
「ごめんなさい」
緊急事態だったから、ルベルに注意されていたことをすっかり忘れてしまっていたわ。
「今回は大丈夫ですが、次は気をつけて下さい」
「わかったわ」
「まさか、こんなことまで出来るなんてなぁ。俺は誰にも言わないから、安心しろよ!」
「ありがとう」
「そもそも、俺が言わせないけどな」
「こわっ!やめろよ」
水と食料を影から取り出しながら、ルベルはティグレに釘を刺した。本当は、ちゃんと信用しているくせに。
「……んぅ?」
「「「!!」」」
男の子が目を覚ました。
「あなた、倒れていたのよ。大丈夫?」
「天使さま?」
この子ったら、まだ寝ぼけているのね。
「わた」
「そう。この方は天使様で、俺達は天使様のしもべだ。さあ、水を飲んで、これを食べろ」
私は天使じゃないわよ、と言おうとしたのに。ルベルが変なことを言い始めてしまった。
「は?」
ティグレも、信じられないという目でルベルを見ている。私も同じ気持ちよ。
「ありがとう。天使さまって、本当にいたんだね」
男の子は誤解したまま、水と食料を受け取った。
「ちょっと」
「尊い方に出会えたことを光栄に思え。お前の名前は?」
ルベルに文句を言おうとしたら、そっと手で止める仕草をされた。何か考えがあるのね?
「ぼくはミカ。この先の村に住んでたんだけど、三日前に追い出されちゃったんだ」
「追い出された!?なんでだよ?」
「ぼく、わるいことしちゃったんだーー」
ティグレがミカと話している間に、小声でルベルを問い詰める。
「どうして、あんなことを言ったの?」
「回復魔法を使われたことには気づいていないようですが、一応保険ですよ。天使に助けられたと子供が言えば、大人は聞き流すでしょう」
「でも、天使だなんて恥ずかしいわ」
「そうですか?俺は、リヴを天使だと思ってますけど」
「え!?」
「天使さま、どうしたの?」
驚いて大きな声を出したせいで、ミカに心配されてしまったわ。
「大丈夫よ。なんでもないわ」
きっと、ルベルは私をからからったのね。
「ミカ、これ持ってけ。贅沢しなけりゃ、一週間はいける」
ティグレは、ミカの手に銀貨を一枚握らせた。
「いいの?」
「ああ。この道をずっとまっすぐ行けば、町だ。着いたら、トラットリアっていう店を探せ。店長に『身寄りがなくなって村を追い出されたから、働かせて欲しい』って言えば、雇ってくれるはずだ」
「うん、わかった!天使さま、天使さまのしもべさん、ありがとう!」
瞳をキラキラ輝かせて、お礼を言うミカ。私を天使だと信じ込んでいて、凄く罪悪感があるわ。
「おう!頑張れよ」
「元気でね」
笑顔で大きく手を振りながら、ミカは町の方へと走って行った。
「それで?あの子は、どうして村を追い出されたの?」
ルベルと話していて、ミカが何を喋っていたのかは全然聞いていなかったから、気になるわ。
「いやぁ……だいぶ胸くそ悪い話だったんだけど、聞くか?」
「これから行く村の話だからな。話せ」
「じゃあ、話すけど。本当に嫌な話だぞ?ミカはーー」
ティグレはルベルに促され、しぶしぶ語り出した。
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