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出自を知っても一向に構いません
しおりを挟む「冗談、だよな?」
「いや、本当のことだ」
戸惑うティグレに、ルベルはいたって冷静に答えた。
「でも、エマーティノスって、どこの国とも交流しないはずだろ!?」
信じられないという目で、ティグレはルベルを見ている。
「俺は密輸船に乗って来たからな。例外だろう」
エマーティノスは、この大陸から海をずっと遠く越えた先にある。どの国とも交流しない、と宣言している閉鎖的な島国で、いまだに謎が多い。
まさか、ルベルがそんな国の出身だったなんて。
「待って。トマスさんもエマーティノス出身なの?」
「はい。もともとトマスは、エマーティノスの公爵家の生まれだったようです」
「え?」
「はあ!?聞いたことないぞ!」
たださえ、エマーティノスの出身というだけでも驚いているのに。私もティグレも、さらに驚かされた。
「誰にも言うつもりは無かったみたいだからな。お前が知らないのも無理はない。俺とアルマは同郷で、色々事情があったから教える気になったんだろう」
「なんだよ、それ……」
一緒に育ったのに自分だけ何も知らなかったのか、と。ティグレはショックを受け、しょんぼりと肩を落とした。
「トマスさんは、どうしてパトミエラへ?」
私と同じく公爵家の生まれだったというトマスさんは、どんな理由で国を出て、パトミエラの実質的なボスにまでなったの?
「弟を死なせない為、だそうです。十代の頃、公爵家を抜け出し、密輸船に乗り込んだと言っていました」
「弟がいたのか。なんで、トマスが家を出ないと弟が死ぬんだ?」
確かに。トマスさんが家を出ないと弟さんが死ぬなんて。おかしな話だわ。
「トマスは双子として公爵家に生まれたが、エマーティノスでは双子は災いを招くと言い伝えられ、嫌煙されていたらしい。馬鹿げた言い伝えを本気で信じる奴らのせいで、成人する前に双子のどちらか片方を殺す決まりだったそうだ」
「そんな……」
双子が災いを招く?聞いたことが無いわ。明らかに迷信なのに、そのせいで命を奪われるだなんて。
「時期当主として指名されても、公爵になれる喜びより、弟が殺されてしまうという絶望の方が圧倒的に強く。何もかも全てを捨てて密輸船に乗り、ならず者が集まるパトミエラで生きる道を選んだようです」
「出会った頃には、もうパトミエラのボスだったけど。そうなるまで、相当苦労したんだろうなぁ」
家族のように慕っていたトマスの背中を思い浮かべ、ティグレは懐かしそうに目を細めた。
「さあ、話は終わりだ。日が沈む前に街へ着くように、もっと速く歩け」
話に夢中になりすぎてペースダウンしていたティグレは、ルベルに急かされてペースを上げた。
「ーートマスの事情はわかったけど、なんか結局お前のことはうやむやになってないか?」
その日の夜。宿の部屋の扉を勢いよく開けたティグレは、ルベルを問い詰めた。
「チッ、気づいたか」
「お前、誤魔化そうとしやがったな!」
ルベルったら、舌打ちまでして。
少し様子がおかしいとは思っていたけれど。何か隠したいことでもあるのかしら?あ、そういえば……。
「あなた、私に隠し事はもうしないと約束したわよね?」
ふと、ティグレと出会う少し前にルベルと約束したことを思い出した。
「っ!」
何か不都合なことでもあるのか、明らかに焦った表情をルベルはした。
「ルベル?まさか、約束を破るの?」
「いいえ!全く、そんなつもりは……」
そう言いつつも、視線が泳いでいるのよね。私に対してだけ、本当にわかりやすいんだから。
「だったら言えよ。言ーえっ!言ーえっ!言ーえっ!」
面白がってニヤニヤしながら、ティグレは手拍子までしている。あとでルベルに仕返しされても、知らないわよ?
「お前は黙ってろ!リヴ、違うんですよ!わざと隠し事をしようとしたわけではないんです。なんというか……あまり重要なことでは無いと思っていて。エマーティノスのことを聞かれるまで、すっかり忘れていたんです。嫌いにならないで下さい!!」
ティグレを睨みつけて一喝するなり、急にオロオロして私に言いわけを重ねる姿は酷く情緒不安定なのに。何故か、可愛らしくて愛おしいと思ってしまう。嫌いになんてなれるはずが無いわ。
「大丈夫よ、落ち着いて。別に嫌いになったりしないわ」
「でも、今から嫌いになるかも知れません」
「おい、そこまでヤバいことなのか?」
さっきまでニヤニヤしていたティグレも、ルベルのただならぬ様子を見て、さすがに心配し始めた。
「ルベル、私を信じて」
出会った時から、私はずっとルベルを愛しているのよ?例え何を言われようと、この想いが揺らぐことは決して無いわ。
想いが伝わるように祈りながら、ルベルの赤い瞳を見上げた。
しばらく見つめ合っていると。覚悟を決めたように、ルベルは重い口を開いた。
「今日まで忘れていたんですが……俺は、エマーティノスの王族らしいです」
部屋の中が静まり返った。
王族?王族って、なんだったかしら?
ルベルが言ったことを、私はすぐには理解出来なかった。
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