執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

文字の大きさ
38 / 47

出自を知っても一向に構いません

しおりを挟む



「冗談、だよな?」

「いや、本当のことだ」

 戸惑うティグレに、ルベルはいたって冷静に答えた。

「でも、エマーティノスって、どこの国とも交流しないはずだろ!?」

 信じられないという目で、ティグレはルベルを見ている。

「俺は密輸船に乗って来たからな。例外だろう」

 エマーティノスは、この大陸から海をずっと遠く越えた先にある。どの国とも交流しない、と宣言している閉鎖的な島国で、いまだに謎が多い。

 まさか、ルベルがそんな国の出身だったなんて。

「待って。トマスさんもエマーティノス出身なの?」

「はい。もともとトマスは、エマーティノスの公爵家の生まれだったようです」

「え?」

「はあ!?聞いたことないぞ!」

 たださえ、エマーティノスの出身というだけでも驚いているのに。私もティグレも、さらに驚かされた。

「誰にも言うつもりは無かったみたいだからな。お前が知らないのも無理はない。俺とアルマは同郷どうきょうで、色々事情があったから教える気になったんだろう」

「なんだよ、それ……」

 一緒に育ったのに自分だけ何も知らなかったのか、と。ティグレはショックを受け、しょんぼりと肩を落とした。

「トマスさんは、どうしてパトミエラへ?」

 私と同じく公爵家の生まれだったというトマスさんは、どんな理由で国を出て、パトミエラの実質的なボスにまでなったの?

「弟を死なせない為、だそうです。十代の頃、公爵家を抜け出し、密輸船に乗り込んだと言っていました」

「弟がいたのか。なんで、トマスが家を出ないと弟が死ぬんだ?」

 確かに。トマスさんが家を出ないと弟さんが死ぬなんて。おかしな話だわ。

「トマスは双子として公爵家に生まれたが、エマーティノスでは双子はわざわいを招くと言い伝えられ、嫌煙されていたらしい。馬鹿げた言い伝えを本気で信じる奴らのせいで、成人する前に双子のどちらか片方を殺す決まりだったそうだ」

「そんな……」

 双子が災いを招く?聞いたことが無いわ。明らかに迷信なのに、そのせいで命を奪われるだなんて。

「時期当主として指名されても、公爵になれる喜びより、弟が殺されてしまうという絶望の方が圧倒的に強く。何もかも全てを捨てて密輸船に乗り、ならず者が集まるパトミエラで生きる道を選んだようです」

「出会った頃には、もうパトミエラのボスだったけど。そうなるまで、相当苦労したんだろうなぁ」

 家族のように慕っていたトマスの背中を思い浮かべ、ティグレは懐かしそうに目を細めた。

「さあ、話は終わりだ。日が沈む前に街へ着くように、もっと速く歩け」

 話に夢中になりすぎてペースダウンしていたティグレは、ルベルに急かされてペースを上げた。



「ーートマスの事情はわかったけど、なんか結局お前のことはうやむやになってないか?」

 その日の夜。宿の部屋の扉を勢いよく開けたティグレは、ルベルを問い詰めた。

「チッ、気づいたか」

「お前、誤魔化そうとしやがったな!」

 ルベルったら、舌打ちまでして。

 少し様子がおかしいとは思っていたけれど。何か隠したいことでもあるのかしら?あ、そういえば……。

「あなた、私に隠し事はもうしないと約束したわよね?」

 ふと、ティグレと出会う少し前にルベルと約束したことを思い出した。

「っ!」

 何か不都合なことでもあるのか、明らかに焦った表情をルベルはした。

「ルベル?まさか、約束を破るの?」

「いいえ!全く、そんなつもりは……」

 そう言いつつも、視線が泳いでいるのよね。私に対してだけ、本当にわかりやすいんだから。

「だったら言えよ。言ーえっ!言ーえっ!言ーえっ!」

 面白がってニヤニヤしながら、ティグレは手拍子までしている。あとでルベルに仕返しされても、知らないわよ?

「お前は黙ってろ!リヴ、違うんですよ!わざと隠し事をしようとしたわけではないんです。なんというか……あまり重要なことでは無いと思っていて。エマーティノスのことを聞かれるまで、すっかり忘れていたんです。嫌いにならないで下さい!!」

 ティグレを睨みつけて一喝いっかつするなり、急にオロオロして私に言いわけを重ねる姿は酷く情緒不安定なのに。何故か、可愛らしくて愛おしいと思ってしまう。嫌いになんてなれるはずが無いわ。

「大丈夫よ、落ち着いて。別に嫌いになったりしないわ」

「でも、今から嫌いになるかも知れません」

「おい、そこまでヤバいことなのか?」

 さっきまでニヤニヤしていたティグレも、ルベルのただならぬ様子を見て、さすがに心配し始めた。

「ルベル、私を信じて」

 出会った時から、私はずっとルベルを愛しているのよ?例え何を言われようと、この想いが揺らぐことは決して無いわ。

 想いが伝わるように祈りながら、ルベルの赤い瞳を見上げた。



 しばらく見つめ合っていると。覚悟を決めたように、ルベルは重い口を開いた。
 
「今日まで忘れていたんですが……俺は、エマーティノスの王族らしいです」

 部屋の中が静まり返った。

 王族?王族って、なんだったかしら?


 ルベルが言ったことを、私はすぐには理解出来なかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...