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お祭りに参加しても一向に構いません
しおりを挟む「ゼェーッ、ハァーッ、ゼェー……お前、マジで……ふざっけんなよ!」
「ふっ、もっと鍛えた方がいいんじゃないか?」
苦しそうに息切れしながら、恨めしそうに自分を睨むティグレに、ルベルは涼しい顔でダメ出しをする。
普通に歩いていたところを急に追い越され、全力疾走することになったうえに、その原因である張本人はこの態度。さすがに同情してしまうわ。
あの後、もうすぐ町が見えるというところで、ようやくルベルは地面に下ろしてくれた。私はまだ、ふわふわしているような不思議な心地なのに。遅れて合流したティグレと話すルベルは、いつもと変わらないように見える。
これが歳上の余裕ってことなのかしら?なんだか悔しい。
「そもそも、なんで走ってたんだよ?」
「……お前には関係無い」
息が整ってきたティグレがルベルに走っていた理由を聞くけれど、言えるはずがないわよね。
「理由くらい教えろよ!なあ、お嬢ちゃんはなんか知ってるか?」
私に聞かれても困るわ。恥ずかしくて、言えないもの。
「様をつけろ」
「うぉっ!らにしゅんらよっ!!」
ルベルに頬を両手で引っ張られて、みょーんとティグレの頬が伸びている。人間の頬ってここまで伸びるのね。知らなかったわ。
「そろそろ町に入る。お忍びで来た裕福な商家のお嬢様と、その従者と護衛、という設定をちゃんと守れよ」
ぱっとティグレの頬から手を離し、事前に打ち合わせして決めた設定をルベルは念押しした。
「わかってるって、いちいち心配すんな。お前のことも、ルベルって呼べばいいんだろ?」
「ボロを出したら、また頬を引っ張るからな」
「やめろよ!地味に結構痛いんだぞ!」
ティグレは頬に手を当てて、ルベルを叫んだ。
町の中に入ると、予想以上にたくさんの人が歩いていた。
「ずいぶん賑わっているのね」
そこまで大きな町でもないのに。
「そりゃあ、ちょうど光り祭りの時期だからな」
「光祭り?」
「そうそう。聖地アドラディオに近いここらへんじゃ、毎年この時期になると祭りをするんだよ。光の神アウローラに感謝して、豊穣を祈るってやつ」
得意げに、ティグレが解説してくれた。
「参加したことがあるの?」
「いや、無い」
「あら。参加したことが無いのに知っているなんて、意外と物知りなのね」
「意外とって失礼だな。俺も一応情報屋なんだから、これくらいは知ってるって」
「情報屋?」
「あれ?言わなかったっけ?」
通行人にぶつからないように歩きながら、ティグレが首を傾げる。
「聞いていないわ。てっきり、あなたもルベルと同じく殺し屋なのだと思っていたわ」
まさか、情報屋だったなんて。全然そんな風には見えない。
「こいつは魔獅子も殺せないような奴だから、殺し屋なんて出来ませんよ」
ルベルなら、一撃でも仕留められるでしょうけれど。ヴェルデ王国では、魔獅子の目撃情報が入ると、騎士団が討伐の為に派遣されていた。世間一般的には、魔獣の中でも魔獅子は結構強い部類だと思うわ。
「なっ、魔獅子は今関係無いだろ!」
「大丈夫よ。私も魔獅子は殺せないから」
そもそも、殺そうと思ったことも無いけれど。
「リヴは動物を殺すことに抵抗があるだけで、殺せるだけの実力はあるでしょう。こいつは、度胸も実力も無いんですよ」
「おい!お嬢ちゃんの方が俺より強いってのは、さすがにありえないだろ!」
聞き捨てならないと憤慨するティグレを、ルベルは鼻で笑った。
「お嬢様、な。確かに腕力は強くないが、魔法の腕前はお前より遥かに上だ」
「はいはい、お嬢様ね。そうは言っても、やっぱり無理だと思うけどなぁ」
「お前ごときの価値観をリヴに押し付けるな。リヴはそこらの女とは全く違う、別格の存在なんだ」
ルベルがあんまり熱く語るから、恥ずかしくなってきたわ。
「ちょっと私を過大評価し過ぎじゃない?」
「あなたが自分を過小評価し過ぎなんですよ。ああ、そういえば」
「おあっ!?」
「危うく忘れるところだった。設定をちゃんと守れ」
ティグレの頬が、またルベルに引っ張られた。さっき、私のことを『お嬢ちゃん』と呼んでしまったものね。
「ーー花がたくさん売られているわね。お祭りと何か関係があるの?」
宿を探して町の中を歩く間、花を売っているお店がいくつも目についた。
「あー、この地域では女神に感謝するついでに祭りの期間中、周りの人間にも感謝するんだよ。花とか、花をあしらった物を贈ってさ」
言われてみると、確かに花だけでなく、花のモチーフをあしらった物を売っているお店が多い。
「まあ、素敵ね」
私も、ルベルに何か贈りたいわ。
「期間中、ということは一日限りの祭りではないのか?」
「そうそう、祭りの期間は一週間だったはずだ。贈る花の色は相手によって変わって、赤色は恋人や伴侶。オレンジ色は家族、青色は友人、白色は仕事の関係者」
「あっちで黄色の花が売られているが。黄色はどんな相手に渡すんだ?」
ルベルが指差した店には、ティグレの説明の中には無かった黄色の花も置かれていた。
「黄色?黄色は……そうだ!黄色は、近所の人とか関係性がそこまで深くない人に配る用だったな」
「なるほど」
「本当に詳しいのね」
「まーな!へへへっ」
褒められた子供のように喜ぶ姿は、とても情報屋には見えない。一瞬見直したのに、残念な人。
「調子に乗るな」
「いてっ!」
ティグレのおでこを、コツンと軽くルベルが叩く。やっぱり、仲が良いじゃない。
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