【完結】陽キャの俺がデスゲームで死ぬわけがない

とおる

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第26話 夢であろうと

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〈前回までのあらすじ〉
 自身の今までの愚かな生き方に嫌気が差した一也は、皆に謝罪し、ゲームを諦めようとする。誰と生き残る価値があるか天秤にかけるクラスメイトたち。そして本性を現した梅島。指名により死を覚悟した一也だったが、生き残るはずの七人が突然倒れだす。一也のスマートウォッチの液晶に"GAME SET"の文字が浮かぶ。

 

 静まり返った視聴覚教室。

「何で?」

 訳も分からず、倒れこんで動かなくなった七人をぼんやり見渡す。

 十秒ほどの膠着状態の後、ずっと俺たちを冷たく照らしていた電灯が消えた。

 一人でいる暗闇は怖かった。何せ足元や、部屋のあちこちに数十体の死体があるのだから。

 スマートウォッチも電源が切れたようで何も映らない。視界が悪く、身動きすることも憚られる。

 やがて天井辺りから機械音が聞こえ、例のプロジェクターが作動した。漏れ出る光を注視していると、真っ新なスクリーンから何やら映像が流れ始めた。男性と女性が映し出され――。

「やあ、一也」

「え?」

 映像の人物は確かに俺の名前を呼んだ。

「これはライブだ。今、直接繋がってるぞ」

 目を疑った。

「父さん? 母さん?」

 紛れもなく両親だった。

「カズ、お疲れ様」

 母さんは優しい目で俺を見ている。父さんも、いつもの全てを見透かしたような深い眼差しを向けてくる。

「どういう、こと?」

「一也、詳しい説明は後だ。今から簡潔に言うからよく聞け」

「うん」

 役に立たない学校や警察を差し置いて、二人が助けに来てくれたんだ。そういう考えが頭を巡った。

「人は陰と陽のバランスで成り立っている」

「ん?」

 思わぬ方向から話が飛んできた。

「そのバランスを保ってこそ、一人前の人格者になる資格があるもんだ」

 話が見えない。

「これはお前のための成長プログラムなんだ」

「辛い思いをさせてごめんね、カズ。母さんは反対したのよ」

 一方的に進められる会話。

「何、プログラムって……。父さんと母さんがこれを作ったの?」

「そうだ。全部お前のためにやった」

 父さんは飄々と語る。その態度に後ろめたさは感じられない。

「嘘だ……そんな……。人が死んでるんだぞ? こんなこと……」

「それくらいやらないとお前に変化をもたらすことができないと思ってな。ちゃんと信頼できる団体と手を組んであるから、後の処理は安心しろ」

「それくらいって……。ただの……人殺しじゃないか」

 光の反射でぼんやり照らされたみんなの死体。俺は力が入らなくなり両膝をついた。

「人聞きの悪いことを言わないでくれ。父さんたちだって苦渋の決断だったんだぞ。いつも言っているだろう? 人の上に立つ人間なれって。その過程に、これは必要なことだったんだ」

「何言ってるか……全然分かんないって。もう終わりじゃん。こんなことして……。何で……家族まで失わなきゃいけないんだよ!」

 俺の訴えに母さんは驚いて、そして切ない表情を浮かべる。

「カズ、今は全てを受け入れることは難しいかもしれない。でもね、ここからがあなたの始まりなのよ。自分の中の陰を受け入れてこそ、波動は循環を始めて、高次元へ昇っていくの」

「何言ってんだよ! 母さん頭おかしいよ! 死んでる! みんな死んでるよ! 俺から大切なもの奪って何が楽しいんだよ!」

「今は興奮状態のようだから、また落ち着いたら話をしよう。お前が本当に大切にすべきものについても話そう。じゃあ、また後で」

 プロジェクターがプツンと切れて、再び暗闇に戻った。

「ウアアアアアアアアアアア」

 俺は叫んだ。生温くて、薄ら寒いこの部屋で。

 みんなの顔が頭に浮かぶ。怖くて床に転がった物体を直視できない。

「ウアアアアアアアアアアア」

 今にもそれらが起き上がって、絡み合い、一つの怨念となって俺を襲ってくる。そんな気がしてならない。

「いって!」

 時計をつけた左腕がチクリと痛んだ。

「あ、あぁ」

 痛んだのも束の間、頭が急に重くなり……。



 ――意識を失った。



 俺が次に目を覚ましたのは、茉衣の声が聞こえたからだ。

「良かった! 目覚ました!」

 机に突っ伏していたようだ。

「死んだかと思ったじゃーん」

 顔を上げると、笑顔の茉衣と、ざわめくクラス。クラスメイトたち。二年一組の教室がそこにあった。

「みんな聞いてください! 文化祭の出し物、何が良いですかー」

 金城が教卓の前に立って仕切っている。

 ”9月1日”

 黒板の右端に書かれた日付。

「また……俺は……夢を見てるのか?」

 信じられない現実ばかりの中で、この教室はあまりに暖かい。

 夢であろうと、何だろうと、俺はもうこの場所から目覚めたくない。

「お化け屋敷やりてー!」

 秀が無邪気に、そして活き活きと手を挙げた。
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