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第1章 王城の悪徳卿 編
第5話 悪者、登場
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古びたアパートの一室、ベットの上で横たわるフリルの父親が病気ではなく、呪いにかけられているとレイヴンは看破した。
それは、ある理由から、呪いに関しては専門家並の知識を習得した、彼の知見からの判断である。
この見立てには自信があった。それに・・・
レイヴンは、震えるフリルの細い肩に手を置く。
その温もりを感じ、見上げた先にいる黒髪緋眼の青年の瞳には、諦めた様子はなかった。
『もしかしたら、呪いをもこの人は、打ち破ることができるの?』
そんな希望をフリルは抱く。
「やってみなきゃ、分からないが、とりあえず任せてくれ」
フリルの父親は、もう限界に近いのか意識が薄れかけているようだ。微かに息をしているのだけが分かる状態。
レイヴンは、急いだ処置が必要と、フリルの父親の顔の前に手をかざした。そして、呪文を唱える。
『買う』
すると、大きな光がベット全体を包んだ後、その上に眠る男性の顔から苦悶の表情がとれた。血色も次第に良くなっていく。
どうやら、レイヴンのスキルが通用したようだ。
引き落とされた金額から、おそらく教会で行われる『至高の浄化』クラスの解呪魔法が使用されたと思われる。
『至高の浄化』は多額のお布施が必要なため、一般人に使われることはほとんどない。
しかも司祭が4、5人集まって、精神力を集中させることで、やっと行える一つの儀式ともいえる魔法なのだ。
教会で実際に行われるとしても、数年に一度のこと。
お金に換算すれば、ざっと白金貨で100枚くらいか・・・
だが、人の手で解呪できる呪いで助かった。
世の中には『非売品』という物があり、人智を越える神の御業に近い行為や、人によって思い入れの強い品などには、レイヴンの『買う』は適用されないのである。
今回は、お金さえ用意できれば教会で何とかできる呪いだったのが幸いしたのだ。
フリルは、レイヴンが何をしたのかは、理解できなかったが、父の体調が良くなったことだけは分かる。
今度は泣き笑いの顔で、レイヴンに抱きついた。
『お、フリルの奴、意外に豊満な・・・』
などと考えていると、ベットの上の父親の視線に気づき、レイヴンは目を逸らす。
父親の目覚めにフリルは顔を近づけると、治療してくれたレイヴンを改めて、紹介した。
「レイヴン君か・・・何とお礼の言葉を伝えればいいか分からない。感謝する」
「いえ、そういうのはいいので・・・ただ、俺のことを他言さえしてくれなければ、それでいいです」
なるほど。自分の手柄を誇示したがらないタイプかとフリルの父親は目を細める。
スカイ商会の時と同じ勘違いが起きていそうな気がするが、レイヴンは敢えて訂正しない。
何故なら、物欲等が低いことを説明するためには、スキルについて詳しく話さないと理解を得られないからだ。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。私はトーマス・ラングラーという者だ」
レイヴンは、その名を聞いて、はっとする。フリルの姓を聞いた時も、若干、ひっかかりを覚えたのだが・・・
「もしや、以前、内務卿をされていたトーマス卿ですか?」
「まぁ、権力争いに敗れた身だがね・・・」
自嘲気味に話すが、レイヴンの聞いている範囲では、その政治手腕は、世間からかなりの評価を受けていたような気がする。
フリルにしても、今の服装こそ平民そのものだが、どこか気品のようなものを感じるのは、元々、宮廷貴族だったからだろう。
そんな感想を抱いていると、突然、クロウが騒ぎ出した。
何事かと思っていると、トーマスの部屋の扉の方から激しい音がしたのである。
見ると完全に破壊された扉とその先に、昨日、フリルを追っていた三人組の男が立っているのだ。
「あなたたち、一体、何なの?」
「ただの悪者さ」
フリルの問いにふざけた回答で返した男たちは、ずかずかと部屋の中に入って来る。
何の目的でやって来たのか分からないが、黙っていれば、勝手に話してくれそうだ。
三人の男の内、リーダーと思しき男が、快復したトーマスの姿を見て、大袈裟に嘆くポーズをする。
「困るんだよねぇ。その男は呪いで死んでくれないと」
「まさか、知っていたの?」
「何でも知っているさ。悪者だから」
室内を見回して、丁度いいものを見つけたと、男たちはソファーに身を委ねた。
舌なめずりしながら、フリルやトーマスを見る様子は、さながら蛇のようである。
「その男の呪いは特殊でね。気持ちの持ちようで、死期が早まる」
「それで、昨日、フリルを襲ったのか?」
「ふっ。娘が父親の病気を治すため、背負った借金。そのせいで辱めを受けたと聞いたら、どんな気分になるか知りたかったんだけどなぁ」
悪者と自称するだけのことはある。とことん最低の奴らだ。
普通に吐き気がする。
「それで、悪者のネイルさんは、これから、どうするつもりなのかな?」
「お、俺の名前をどこで知ったんだ?」
「いや、昨日の契約書に書いてあっただろ」
ネイルはわざと、『うっかり』というようなポーズを取った。片手で顔を隠す動作がいちいち芝居がかっている。
そして、ネイルは指の隙間から、レイヴンたちを睨んだ。
「その男は死ぬ。そして、身寄りのなくなったこのお嬢さんは、ある人の性奴隷になる。これが俺たちのシナリオだった」
「それは、残念でしたわね。お父さまは、この通り、完全に治りましたわ」
「だったら、シナリオ通りになるよう、修正すればいいだけだろ」
その言葉と同時に三人の男たちは、立ち上がる。一斉にトーマスに向かって飛びかかったのだ。
しかし、その間に割って入ったレイヴンによって、三人とも軽く弾き飛ばされた。
ネイルたちは、何が起きたのか分からなく、警戒心を増しながらもじわじわと距離を詰めようとする。
「何かのスキルか?」
「さてね」
まともに答える気がないレイヴンは、はぐらかして余裕の笑みを浮かべた。そんな態度が気にくわない悪者の一人、体格のいい男がいきり立つ。
「スキルなら、俺だって持っているぞ。」
『剛腕』
男の腕が倍ぐらいに膨れ上がるとソファーを軽く持ち上げて、簡単に二つ折りする。
その壊れた元ソファーをレイヴンに向かって、投げつけたのだ。
『買う』
声とともに、直撃する寸前、レイヴンの目の前からソファーが忽然と消える。
怪力の男が驚いて、目を丸くしているところに、再び呪文を唱えた。
『返品』
その瞬間、ソファーを投げつけた男の体が折れる。血反吐を吐きながら、苦悶の表情で倒れたのだ。
仲間の状況を観察したネイルは、生きてはいるものの、もう二度と立ち上がることは出来ないと察する。
力自慢の仲間が、あっさりと倒された事実にネイルともう一人の男は、唖然とした。
この得体の知れないスキルを使う黒髪緋眼の青年に対して、一旦、距離をとって次の作戦を考える。
どうも予想外の難敵の登場に、焦りの色を隠せないのだった。
それは、ある理由から、呪いに関しては専門家並の知識を習得した、彼の知見からの判断である。
この見立てには自信があった。それに・・・
レイヴンは、震えるフリルの細い肩に手を置く。
その温もりを感じ、見上げた先にいる黒髪緋眼の青年の瞳には、諦めた様子はなかった。
『もしかしたら、呪いをもこの人は、打ち破ることができるの?』
そんな希望をフリルは抱く。
「やってみなきゃ、分からないが、とりあえず任せてくれ」
フリルの父親は、もう限界に近いのか意識が薄れかけているようだ。微かに息をしているのだけが分かる状態。
レイヴンは、急いだ処置が必要と、フリルの父親の顔の前に手をかざした。そして、呪文を唱える。
『買う』
すると、大きな光がベット全体を包んだ後、その上に眠る男性の顔から苦悶の表情がとれた。血色も次第に良くなっていく。
どうやら、レイヴンのスキルが通用したようだ。
引き落とされた金額から、おそらく教会で行われる『至高の浄化』クラスの解呪魔法が使用されたと思われる。
『至高の浄化』は多額のお布施が必要なため、一般人に使われることはほとんどない。
しかも司祭が4、5人集まって、精神力を集中させることで、やっと行える一つの儀式ともいえる魔法なのだ。
教会で実際に行われるとしても、数年に一度のこと。
お金に換算すれば、ざっと白金貨で100枚くらいか・・・
だが、人の手で解呪できる呪いで助かった。
世の中には『非売品』という物があり、人智を越える神の御業に近い行為や、人によって思い入れの強い品などには、レイヴンの『買う』は適用されないのである。
今回は、お金さえ用意できれば教会で何とかできる呪いだったのが幸いしたのだ。
フリルは、レイヴンが何をしたのかは、理解できなかったが、父の体調が良くなったことだけは分かる。
今度は泣き笑いの顔で、レイヴンに抱きついた。
『お、フリルの奴、意外に豊満な・・・』
などと考えていると、ベットの上の父親の視線に気づき、レイヴンは目を逸らす。
父親の目覚めにフリルは顔を近づけると、治療してくれたレイヴンを改めて、紹介した。
「レイヴン君か・・・何とお礼の言葉を伝えればいいか分からない。感謝する」
「いえ、そういうのはいいので・・・ただ、俺のことを他言さえしてくれなければ、それでいいです」
なるほど。自分の手柄を誇示したがらないタイプかとフリルの父親は目を細める。
スカイ商会の時と同じ勘違いが起きていそうな気がするが、レイヴンは敢えて訂正しない。
何故なら、物欲等が低いことを説明するためには、スキルについて詳しく話さないと理解を得られないからだ。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。私はトーマス・ラングラーという者だ」
レイヴンは、その名を聞いて、はっとする。フリルの姓を聞いた時も、若干、ひっかかりを覚えたのだが・・・
「もしや、以前、内務卿をされていたトーマス卿ですか?」
「まぁ、権力争いに敗れた身だがね・・・」
自嘲気味に話すが、レイヴンの聞いている範囲では、その政治手腕は、世間からかなりの評価を受けていたような気がする。
フリルにしても、今の服装こそ平民そのものだが、どこか気品のようなものを感じるのは、元々、宮廷貴族だったからだろう。
そんな感想を抱いていると、突然、クロウが騒ぎ出した。
何事かと思っていると、トーマスの部屋の扉の方から激しい音がしたのである。
見ると完全に破壊された扉とその先に、昨日、フリルを追っていた三人組の男が立っているのだ。
「あなたたち、一体、何なの?」
「ただの悪者さ」
フリルの問いにふざけた回答で返した男たちは、ずかずかと部屋の中に入って来る。
何の目的でやって来たのか分からないが、黙っていれば、勝手に話してくれそうだ。
三人の男の内、リーダーと思しき男が、快復したトーマスの姿を見て、大袈裟に嘆くポーズをする。
「困るんだよねぇ。その男は呪いで死んでくれないと」
「まさか、知っていたの?」
「何でも知っているさ。悪者だから」
室内を見回して、丁度いいものを見つけたと、男たちはソファーに身を委ねた。
舌なめずりしながら、フリルやトーマスを見る様子は、さながら蛇のようである。
「その男の呪いは特殊でね。気持ちの持ちようで、死期が早まる」
「それで、昨日、フリルを襲ったのか?」
「ふっ。娘が父親の病気を治すため、背負った借金。そのせいで辱めを受けたと聞いたら、どんな気分になるか知りたかったんだけどなぁ」
悪者と自称するだけのことはある。とことん最低の奴らだ。
普通に吐き気がする。
「それで、悪者のネイルさんは、これから、どうするつもりなのかな?」
「お、俺の名前をどこで知ったんだ?」
「いや、昨日の契約書に書いてあっただろ」
ネイルはわざと、『うっかり』というようなポーズを取った。片手で顔を隠す動作がいちいち芝居がかっている。
そして、ネイルは指の隙間から、レイヴンたちを睨んだ。
「その男は死ぬ。そして、身寄りのなくなったこのお嬢さんは、ある人の性奴隷になる。これが俺たちのシナリオだった」
「それは、残念でしたわね。お父さまは、この通り、完全に治りましたわ」
「だったら、シナリオ通りになるよう、修正すればいいだけだろ」
その言葉と同時に三人の男たちは、立ち上がる。一斉にトーマスに向かって飛びかかったのだ。
しかし、その間に割って入ったレイヴンによって、三人とも軽く弾き飛ばされた。
ネイルたちは、何が起きたのか分からなく、警戒心を増しながらもじわじわと距離を詰めようとする。
「何かのスキルか?」
「さてね」
まともに答える気がないレイヴンは、はぐらかして余裕の笑みを浮かべた。そんな態度が気にくわない悪者の一人、体格のいい男がいきり立つ。
「スキルなら、俺だって持っているぞ。」
『剛腕』
男の腕が倍ぐらいに膨れ上がるとソファーを軽く持ち上げて、簡単に二つ折りする。
その壊れた元ソファーをレイヴンに向かって、投げつけたのだ。
『買う』
声とともに、直撃する寸前、レイヴンの目の前からソファーが忽然と消える。
怪力の男が驚いて、目を丸くしているところに、再び呪文を唱えた。
『返品』
その瞬間、ソファーを投げつけた男の体が折れる。血反吐を吐きながら、苦悶の表情で倒れたのだ。
仲間の状況を観察したネイルは、生きてはいるものの、もう二度と立ち上がることは出来ないと察する。
力自慢の仲間が、あっさりと倒された事実にネイルともう一人の男は、唖然とした。
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