低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
51 / 188
第3章 魔獣の棲家 編

第51話 ダールドでのミッション

しおりを挟む
イグナシア王国の紋章がついた大きめの馬車が、整備された街道を走る。
キャビンの中には三名が乗車しており、御者が二頭の馬を巧みに操っていた。

乗客の重量と馬の能力から計算すると、まだまだスピードは出せるのだが、ここでは無理をさせない。旅は、これからも長く続くのだ。

御者席に座るレイヴンは、暖かい日差しを浴びながら、次の街を目指す。
香辛料で有名だったトゥオールの先は、サイヤルという街である。その街については素通りする予定だった。

宿泊は、『金庫セーフ』の中のコテージで十分。補給もトゥオールで済ませたので、取立てて立寄る理由がないのである。
サイヤルを通り抜けたとして、この移動ペースだと、港町ダールドまでは三日で辿り着く計算になった。

馬車の旅には、もう慣れて、今ではカーリィもアンナも御者の技術を身につけている。四人でローテーションを組めるようになっていたのだ。
それで、間もなくカーリィと代わる頃合いになる。

「そろそろ、交代しましょう。疲れたでしょ?」

キャビンの前方にある窓から、赤髪にセルリアンブルーの瞳が覗いた。タイミング的に休憩をとってもいい頃となる。レイヴンは、その時に入れ替わろうと考えた。

「そうだな・・・もう少し、見通しがいい場所に着いたら、休みを入れる。そこで、代わろうぜ」
「分かったわ」

レイヴンは馬車を安全に停車できる場所まで進める。程なくして、キャンプ用で開けた場所に到着すると、馬車の車輪がゆっくりと止まった。キャビンの中から、仲間全員が外の空気を吸うために出てくる。

「レイヴンさん、どうぞ」
「ああ、すまない」

アンナから飲み物を渡されて受け取った。一口含んで、馬車の方を見ると、カーリィが既に御者席に座って、メラと話し込んでいる。

馬車を操作する前に、再度、コツなどのレクチャーを受けているのだろう。
この御者の交代制の話。当初、二人の関係性から、カーリィが働いている間、自分が中で休むという事に難色示したメラであったが、「特別扱いは困るわ」という主人の一言で決定する。

それでも、やはりカーリィの事が心配なのか、何かにつけてメラは気にかけるのだ。
実際、ヘダン族の族長の娘が御者を務めるのは、これで二度目なのだが、最初の時はキャビンの窓から、ずっとカーリィの様子を見守るメラ。

レイヴンは呆れかえるが、そうしていた方が落ち着くと彼女が言うため、好きにさせることにした。
ただ、それだとカーリィが気になって集中できないというので、今回はきちんと休む予定。

その前に、伝えるべきことを全て伝えておきたいという気持ちがメラにはあった。それを理解しているカーリィは、大人しく話を聞いているのである。

話が終わったのか、二人がやって来ると、レイヴンは全員に腰を下ろすように促した。
これから、港町ダールドで実施すべき点を伝えるのである。
それは、三つほどあった。

まず、一つ目は、ダールド周辺を治める領主マークス・ポートマスと面会し、保護されている海の民の女性と会う事。

次に二つ目は、その海の民の女性から、海の民の国マルシャルに入る協力を取り付ける事である。

そして、最後の三つ目は、ラゴス王に頼まれたダールドの状況視察だった。

もっとも、ここで重要なのは、保護されている女性が本当に海の民がどうかという点である。
万が一、違った場合は、全ての計画に狂いが生じてしまうのだ。

ただ、レイヴンには間違いなく、海の民だという確信がある。
それは、今回の旅の途中に会ったニックも、ダールドの砂浜に海の民の女性が打ち上げられたとの情報を仕入れていたからだ。

レイヴンは、ニックが経営するスカイ商会の情報の正確さには信頼を寄せている。
冒険者ギルドのグリュム、スカイ商会のニック。この二人が同じ事を話しているならば、それは限りなく真実に近いと思って間違いないはずだ。

続いて話題は、いざダールドに着いた際の一行の動きに移る。
真っ先に領主の館に行くべきなのだが、全員で向かうか手分けして、周辺で聞き込みを行うかで議論した。

結論から言うと、全員で向かう事にする。
現時点で、調べるといっても調査対象は領主の屋敷の中にいるのだ。

「ところで、マークス卿に、あまりいい噂を聞かないみたいだけど?」
「ああ、彼の上には優秀な兄がいたらしい。その長男とやらが父の急死に続いて、すぐに亡くなったそうだ」

レイヴンの話は、簡単に聞き流せることではない。偶然という事は、勿論、ありえるのだが、これが貴族の間で起きたとなると、世間はそうは思わないのだ。

「・・・何だか怪しいわね」

カーリィの意見に全員が同意する。まだ、会ったことはないが、漠然とマークスに対して、負のイメージがつき纏った。

ただの噂であればいいのだが、ラゴス王がレイヴンに視察を頼む時点で、ある程度、答えが出ているような気もする。
いずれにせよ、本人に会ってみてからの話だ。

「ちゃんと会えるのよね?」
「そこはラゴス王さまの紹介とレイヴンさんが仰せつかった、お役目であれば、大丈夫だと思いますよ」

カーリィの質問にアンナが答える。仮に拒否した場合、レイヴンから、謁見拒否、場合によっては王国に叛意ありの報告がラゴス王に届くことになるのだ。
それは、マークスにとっても都合が悪いはず。

「それで、その海の民の女性を味方に引き入れたとして、どうやって海の民の島まで行くつもりですか?」
「そりゃあ、レイヴンの事だから、船も『金庫セーフ』の中に入っているんでしょ」

カーリィに高く評価してもらって、ありがたいが、残念ながら、そんな船などレイヴンは持っていなかった。
その理由は、川や湖に出るのならともかく、外海となると、海の知識がないと航行なんてできやしないからである。

海には穏やかな凪もあれば、大荒れの時化しけもあるのだ。
操船技術のないレイヴンにとって、例え船があっても無用の長物となる。

「それじゃ、どうします」
「まぁ、今のところ、考えているのは現地調達だな」

港町であれば、漁師を含め、船を出すことができる人物は、いくらでもいるはずだ。
別に海の民に戦争を仕掛けようという訳ではないため、船は戦船じゃなくてもいい。
この人数を乗せて、安全に航行できる船と、船長を見つけることは、それほど難しい問題とは思えないのだ。

「じゃあ、後はあいつらね」

あいつらとは、当然『アウル』の事である。『水の宝石アクアサファイア』を狙うあの組織が、ダールドに流れ着いた女性の件を知らないはずがない。

彼らのやり口を考えれば、その女性を人質にして、海の民に『海の神殿』への案内を要求することは、容易に想像できる。
実際、その手口でファヌス大森林の『森の神殿』を攻略しているのだ。

「何としても、その女性を守らないといけませんね」

経験者である森の民、アンナがそう宣言する。

「その通りだな」

ダールドに着いて、実施する事が一つ追加された。しかも、それは絶対に達成しなければならないミッションである。
レイヴンたちは、気合を入れ直して、再び、馬車に乗り込むのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

勇者召喚に巻き込まれた俺は『荷物持ち』スキルしか貰えなかった。旅商人として自由に生きたいのに、伝説の運び屋と間違われています

☆ほしい
ファンタジー
ある日突然、クラスメイトたちと一緒に異世界へ召喚された俺、高橋昇(タカハシノボル)。クラスメイトが次々と強力な戦闘スキルを授かる中、俺が貰えたのは【荷物持ち】という地味すぎるスキルだった。 「勇者様の荷物を運ぶだけの存在など不要だ」 そう言って、王様は俺にわずかな金貨を握らせて城から追放した。途方に暮れたが、この【荷物持ち】スキル、実はアイテムを無限に収納できるだけでなく、その気になれば巨大な岩や建物すらも収納できる規格外の空間操作能力だと判明する。 これなら商人として自由に生きていけると、俺は各地を旅しながら行商を始めることにした。しかし、山賊に襲われた村に救援物資を瞬時に届けたり、輸送困難な貴重品を運んだりするうちに、俺の存在は裏社会で噂になっていく。本人はのんびり旅をしたいだけなのに、いつしか「どんな不可能も可能にする伝説の運び屋」と呼ばれるようになっていた。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...