低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
67 / 188
第3章 魔獣の棲家 編

第67話 海の民の領域

しおりを挟む
海賊バルジャック兄弟のアジトを出発したイグナシア王国の貴族、ポートマス家が誇る最新鋭艦は、順調な航行で海上を進んだ。
間もなく海の民の領海に入るという報せを船長キャプテンチェスターから、『ネーレウス号』艦内に入る。

鎖国中の領域、どのような出迎えを受けるか想像ができず、船内には、若干の緊張が走った。
砂漠の民の街ミラージュの手前では、迎撃の矢による洗礼を受ける。それと同様の事が起きるのではないかと懸念したのだ。

ただ、事前に自国の元首の娘、モアナが乗艦している事は信号旗で知らせてある。砂漠の民のような酔狂な考えを持たない限り、そう手荒な真似はされないことを期待した。

すると程なくして、海の民の巡視船らしき船が、二隻ほど現れ近づいて来る。その一隻からの音声が届いた。

「その船に警告する。貴艦は現在、我が国マルシャルの領域を侵犯している。直ちに転進されたし」

やはり、鎖国中だけあって、一族以外の船の入港は認めない方針のようである。それとも、ただの信号旗だけでは、モアナの存在は信用できないという事か?
しかし、このまま交渉のテーブルにもつけないとなると、レイヴンとしては方針を改めなければならなくなる。

『強引に行くか?それとも別の手段を考えるか?』

急いで、頭の中を整理していると、レイヴンの横をすり抜け、モアナが『ネーレウス号』の船首に立った。

「ごちゃごちゃ、うるさいよ。こっちは、海の民の怨敵、バルジャック兄弟の首を持って来ているんだ。自分たちで賞金を懸けておいて、いざとなったら、金の支払いを渋るとは情けないったら、ありゃしないねぇ」

この怒声に対する返信は、すぐにはない。モアナが言い放った件は、巡視船の船長では手に余る事案のようだ。

「バルジャック兄弟の首を検めることはできるだろうか?」
「ああ、見せることは可能だよ」

「であれば、ボートを出す。一名だけ、そのしるしを持って、乗船されたし。・・・それから、その一名は、そこの女性とは別の方をお願いする」

それには、「何だって!」とモアナがいきり立つ。が、素直に従った方がいいという結論をレイヴンが出した。

海の民としては、モアナ本人が乗船している事はすでに承知済み。
彼女の気性をよく知るため、強引な展開に持ち込まれるのを拒んだのだ。

結局、ここは代表として、レイヴンがボートに乗ることにする。
塩漬けにしたバルジャック兄弟の首が入った箱を二つ持って、黒髪緋眼くろかみひのめの青年は海の民のボートが近づくのを待った。

『ネーレウス号』に五、六人は乗れそうな大型ボートが横付けされると、船長キャプテンチェスターの指示で縄梯子が降ろされる。
箱を二段重ねにして片手で持つと、レイヴンはゆっくりと縄梯子を下った。

その時、ボートの上に人影ができる。そして、次の瞬間、大きな衝撃とともに水しぶきが舞い上がった。
そのおかげでレイヴンは、海水をもろに被ってしまい、危うく首が入った箱を海に落としそうになってしまう。

縄梯子の揺れがようやく治まり、何が起きたか確認すると、何とモアナがボートの上に着地してるのが分かった。どうやら、甲板の上からボートに飛び乗ったようである。

しかもレイヴンが目撃したのは、お互い刀を抜き合い、喉元近くに刃を立て合っているモアナと海の民の水兵がいるのだ。

『おいおい・・・穏便に済ませるんじゃなかったのか?』

モアナの提案で、海の民の国には一隻の船で向かう事にした経緯がある。
その理由が、相手をあまり刺激したくないという理由だったはずだ。
モアナの今の行動は、その考えに反する行為としか思えない。

レイヴンが危惧しているところ、刃を向け合っている二人から笑い声が漏れた。
状況の変化について行けないため、しばらく様子見を決め込むと、モアナとその海の民の水兵は、刀を鞘に収めて熱い抱擁を交わす。

それには、ますます混乱するレイヴンだった。

「やはりゲン爺だな」
「ばれてしまいましたか、御子みこさま」

この会話から、二人は旧知の間柄という事を周囲の者は理解する。続いて、二人は思い出話を語るには、このボートは手狭であるとし、『ネーレウス号』に一緒に上がろうとした。
ここで、縄梯子にぶら下がるレイヴンと、やっと目が合う。

「レイヴン、そんなにずぶ濡れになって、どうしたのさ?」
「・・・さあな」

モアナの身勝手な行動に呆れたレイヴンは、不貞腐れて説明を拒絶するのだった。


「紹介するよ。この人はゲントナー・バンブン。長年、実家に仕えてくれている家宰みたいなもんさ」
「それだけではありませんぞ。御子みこさまの養育係りも務めておりました」
「まぁ、そんな事もあったねぇ」

生徒としては不出来だったのか、そこら辺は、モアナは濁して誤魔化す。
レイヴンはカーリィから、タオルを受け取り、濡れた髪の毛を拭きながら、二人の会話を聞いていた。

先ほど、警告してきた海の民の水兵は、このゲントナーである。
あれが本心なのか、それともモアナに対する戯言だったのか、非常に気になるところだ。

「ゲントナーさん、俺たちは結局、マルシャルに入れるのだろうか?」
「まぁ、そこは問題ありますまい。ところで、どのような御用向きでこちらに来られたのでしょうか?」

先ほど、海の上で挨拶を済ませたレイヴンは、ゲントナーの言葉にひとまず、安堵する。
ただ、最終目的が開国にあると話すと、ゲントナーの顔は曇った。

「魔獣スキュラ討伐への合力は感謝するところですが、開国となると私には判断しかねますな」
「いや、そこは鼻から簡単じゃないと思っています。元首との面会はできそうですか?」

レイヴンの質問には、モアナが代わって答える。自身に満ちた表情を見る限り、結論は聞くまでもなかった。

「魔獣討伐は、海の民の悲願じゃ。国賓級の扱いを受けてもおかしくない。会わないというのなら、私が首根っこを捕まえてでも、レイヴンの前に連れ出す」

自分の父親に対して、とんでもない発言だが、これだけ豪語するならば、その言葉に間違いはないだろう。
但し、交渉はレイヴンたちの力を示してからだ。

どちらにせよ、その魔獣スキュラを倒さない限り、『海の神殿』にも入れないし何も始まらない。

「まぁ、そのような事態にならずとも、元首ハウムさまに会うことは叶います。今頃、その準備をなさっているはず。・・・巡視船に案内させますから、皆さんは船内でゆっくりとなさって下され」

ゲントナーの言葉通り、ボートを回収した巡視船は『ネーレウス号』の舳先に回り、誘導する仕草を見せた。
後は、この船について行くだけで、いいようである。これで、落ち着いてマルシャルに入国できるようだ。

ここで、レイヴンの思考は次の展開へと移る。
さて、元首ハウム・バーチャーとは、どのような人物か?
魔獣スキュラについても詳しい話を聞いておかなければならなかった。

マルシャルに着いてからも、やる事は目白押しである。
遠くに見え始めた陸地を前に、レイヴンは気合を入れ直すのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『ハズレ』召喚者『氣功術師』ののんびり異世界旅行!!

メガネの助
ファンタジー
異世界タウンゼントに召喚された五人の勇者達。しかし、五人の筈が一人多かった。その一人のステータス鑑定をしたら勇者でも賢者でもない『氣功術師』だった。異世界人には理解できなかった能力のために『ハズレ』判定されて、金貨十枚と必要最低限の武器、防具、その他の物資を渡されて追放されてしまった。そんな氣功術師ののんびりとした異世界旅行のお話しです。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...