物書き学生の日常

Nozaki

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物書き学生の日常

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部活動として小説を書くようになってからはや半年。ただの趣味だったものはれっきとした活動に変貌を遂げ、僕はそれを存分に謳歌していた。
 誠に勝手だが、そんな僕の執筆の一連の流れについてきてくれるとありがたい。
 今回の部誌では「青春部活モノ」の小説を書く。初めて挑戦する部類の題材だが、体育祭直後で勢いづいている今なら、多少格好の付いた文章になるのではなかろうか。
 
 小説は書き始めが一番時間を要すると思う。自分が納得する物が書けるかどうかは、大体最初に一行で予想がつくものだと思う。あくまで個人の感想だが。
 まずは構想を考える。大まかなものから裏設定まで。入念に考えるのが大切だ。
 よし。構想の段階で、早速壁にぶち当たった。何が「よし。」なんだろう。ここまで何も思いつかないのは珍しい。
 今の段階から立ちはだかる大きな壁。それは「青春」の理解ができていないことだ。「青春部活モノ」は、「青春」を理解し、文字に出力することで完成する題材であろう。
 「青春」とはなんだろうか。そもそも理解が可能なものなのだろうか。それがよくわからない。
 別に悲しくはないが、寂しいような、そんな気がする。
 なんだか虚しくなった。まあ虚しくなったところで仕方がないのだが。
 困った時は、大体外に出る。「青春」の答えも、答えにつながるヒントも転がっているわけではないが、執筆の勢いをつけるための刺激は溢れかえっている。十年物の自転車にまたがり、宛のない旅に出る。旅と言っても、老人の散歩とやっていることはあまり変わらないが。
 西日に照らされながら、自転車を漕ぐ。休日は昼に目覚めることが多いため、外に出るのは夕方からが多い。
 移り行く景色を眺める。なるべく人の少ない道を選び、歩行と同じスピードで進んでいく。
 走っているうちに思う。「青春」の理解は必要なのか?と。僕は創作者。別に青春の当事者になる必要はない。青春を作り上げればいいのではないか。
 こんなような、答えは実は簡単なものだった。なんてこともよくある。物語を紡ぐにあたって、「答え」とは難易度関係なく見つけるのがとても大変ということだ。
 
 さて、そろそろ僕の「書けなくて苦労する話」を読むのも飽きてくる頃だろうし、僕が執筆しているシーンに移ろうと思う。一緒に物語を紡いでいる気持ちで読んでいただけると幸いだ。
 
 構想を考え出してから約六時間、時刻は深夜一時を回った。明日は休日。なんの負い目もない夜更かしができる。
 イヤホンを手に取る。音楽は良い。創作に勢いと度胸を与えてくれる。
 明るいうちに全体の大まかな構成と、主人公は設定できた。だが僕の場合、書いていくうちに最初に設定した人格から逸れ、性格が僕に似通ってしまうことが多い。今回の主人公は運動部所属。王道な青春モノを書きたかったので、このような設定にした。主人公の人物像は僕とほぼ真逆。性格が似通うことは避けたい。こんな時はモデルを使う。友達や芸能人など、対象はなんでも良い。今回は古くからの友人をモデルにさせてもらった。
 今回の物語には明確に書きたいシーンがある。主人公が得点を決め、逆転のきっかけを作るシーンだ。
 体育祭といえば球技。球技で、競技者も観戦者も面白さを感じる瞬間といえば大逆転だろう。
 王道かつありきたりな展開だが、球技をする人の実情を知らない僕には、この思考が限界だった。
 画面上の白紙を前に、椅子に腰掛ける。白紙は、ただの平面ではない。どんなものでも生み出せる、どんなものでも紡ぎ出せる至高の空間。そんな場所で思考するとき、僕は育てられる前の生物と相対しているように感じるのだ。
 物語の構築は、白紙の育成だと思う。
 と、このように自論を自慢げに展開し、自己肯定感を上げることも執筆のための勢いをつけるのも大事なことなのだ。
 さて、環境は整った。心の準備もまあ大丈夫だろう。パソコンのキーボードに手を置く。
 最初の一語を書き、勢いのまま一文を書く。
 句点を打った後読み返す。
 納得いくものではないな。白紙の状態に戻す。
 これを幾度も繰り返す。
 やはり書き始め、最初の一文が一番時間がかかる。何度書き直すかは、いつもまったく予想できない。
 書く。とにかく書く。行き詰まっても書く。なにがなんでも書く。そんな気概でないと納得できる文章は生まれない。
 何度書き直しただろう。自分にとって最上の始まり方を見つけるまでに約二時間を要した。物語の方向性が決定した瞬間だった。
 目がかすむ。音楽の聴き過ぎか、ほのかに耳が痛い気がする。
だが、まだ序盤も序盤。最初の導入が書けただけのこと。
 絶望的な状況。のように思えるだろう。だが、決してそんなことはない。
 疲れている時、追い込まれている時、頭の中には発想や文章表現が溢れ出してくる。
 少々気持ちの悪い気質だが、創作がはかどるのは確かだ。深夜テンションというやつと同じようなものだと思う。
 とにかく走り出すことが出来た。事前に設定した構成に基づき、物語の肉付けを進めていく。繊細に、所により大胆に。奴隷のように、取り憑かれているように書き進める。
 主人公の心情を描写し、キャラを増やし、転換点を作る。なるべく単調にならないように、変化という刺激を与えるように、物語を構築していく。
 よし。いよいよだな。僕の書きたいシーンにたどり着いた。主人公の得点シーン。僕の発想の限界を、どれだけそれっぽく、しっかりとした物語として表すことができるかの勝負。
 味方側のピンチと、才能のない主人公という設定は必須。チームとして追い込まれていれば追い込まれているだけ良い。
 さあ、戦局を大きく変えるんだ。お前ならどうする?いや、僕はどうさせる?の方が正しいか。
 勝負を決するのはお前。ステージは僕が用意した。
 動け。自由に、繊細に、それでも大胆に。小説にも似ているな。
 その瞬間は、意外にもあっけなく訪れる。
 今まで活躍がなく、相手の印象に残っていなかった主人公が、意表ついた得点を決める。
 反撃開始と言わんばかりに味方が続々と活躍していく。味方のキャラを掘り下げていれば、その活躍一つ一つにドラマが生まれる。
 最後の試合となる先輩キャラの得点で、圧倒されていた相手についに逆転。王道展開だが、書いている方は楽しいなんてものじゃない。
 ラストは試合終了の笛の音。後日譚などを書くのはあまり得意ではないので、大体いつも淡白に終わらせる。
 作り上げた世界から、現実世界に戻ってきた。現実からの逃避行を終えた後は、書き上げた達成感と、なんとも言えない消失感を味わえる。不思議な感覚だ。
 
 気がつけば朝日が自室に降り注いでいた。一夜が明けたか。この後は、どんなジャンルの物語を書いても同じ。倒れるように寝るだけだ。
 小説を書き上げた後の達成感はなにものにも替え難いと思う。大体良い夢をみるものだし、不思議とたくさん寝られる。
 
 ここまで僕の執筆について読んでくれてありがとう。「書く」ことでしか得られない物は確かにあるので、良かったらなにか物語を作ってみると良いと思う。それではまたの機会に。
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