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おはよう、起きてよ。

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「おはよう」

声を、掛けた。君は真っ白な服を着て、相変わらずのあどけない表情で微笑を浮かべたまま、まだ眠っている。

「起きてよ」

今日はデートの約束だったのに。遅刻した上にまだ眠っているなんて酷いじゃないか。

 ゆさゆさと揺さぶって、頬を摘んで引っ張る。

 ……あぁ、やっぱり起きない。

「時間だよ。水族館行くんでしょ」

起きてよ。

 なんで、寝てるの?

 いつもみたいに、笑ってよ。

「ねぇ、起きてよ……!」

君の顔の上に、水が一滴、落ちた。そのまま顔の曲面に沿って、流れて零れ落ちていく。なのに、君は全く、ぴくりとも動かない。瞼さえ、動きやしない。

「……宮野さん、時間です」

君の眠る黒いベッドから、肩を引かれて引き離される。

「お辛かったですね、カウンセラーの方がいらしているので、少しお話しにいきましょう?」

そんなのいいから。ここにいさせて。

 言葉は、うまく出なかった。涙がただただ溢れて、止まらなくて、口の中がしょっぱい海の味になっただけ。

 ……ねぇ、待ってよ。置いて行かないで。逝かないで。私も連れてってよ。何も言わずにいなくなるなんて、酷いじゃない。

「お願いだから、起きてよ……」


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