ロスムエルトスの報復〜ライター月島楓の事件簿2

加来 史吾兎

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第六章 リフレクション

第17話 情報提供者

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 新婚の妻を強盗に殺された黒田。
 廃村で殺された太田と清水はその強盗犯だった可能性が浮上した。
 これが偶然とは思えなかった。

「ただ、まだ断定してはいけない。それに、ちょっと心配なことがある」
「心配なこと?」
「警察も俺も、黒田と連絡がつかないんだ」
「え? 黒田さん、どこかに行ってしまったってことですか?」
「まだ判らない。ただ、午前中にアポがあったらしいが、それも無断で欠席してる。黒田は絶対にそういうことをしない性格だから、心配だ」

「秘書の方とかは?」
「黒田は秘書をつけていないんだ。自分で全部スケジュール管理をやってる。専属の運転手も雇ってなくて、移動も自分で車を運転するか、タクシーを利用している」

 黒田は度々メディアにも出演するような男だ。顔を知っている者は多い。なので、もし姿を隠すつもりで注意したとしても目撃される可能性は高い。

「俺の方でも追ってみる。また連絡するよ」
 そう言って坪川は電話を切った。
 楓も小野瀬へ連絡を入れることにした。今頃はもう会社にいるだろう。

「もしもし。月島です。小野瀬さん、いま電話大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ。どうしました?」
 楓は坪川からもらった情報を小野瀬へ伝えた。

「黒田さんが行方不明ですか。もしかしたら、こちらも社会部に話がいってるかもしれないです」
「もし黒田さんが強盗の件を知ったとしたら、亡くなった茜さんの復讐に走るんじゃないかって思ってしまって。でも潮汐の事件で黒田さんにはアリバイがありましたよね」

「可能性はあると思います。潮汐の件なんですが、もしかしたら僕らは誤認していたのかもしれません」
「誤認?」
「清水さんは午後一時半過ぎに外出しました。僕らはそのまま清水さんが廃村に行ったと思い込んでましたが、実際はったとしたら」

「襲われたのは午後二時じゃなくなるってことですか?」
「そうです。憶測にはなりますが、もし清水さんが廃村へ呼び出されたのが午後三時以降であれば、黒田さんにも犯行は可能です。二時から三時の間は何か理由を付けさせて外出させたのかもしれません」
「そんな。じゃあ、本当に黒田さんが……?」

「何より、潮汐へ清水さんを呼び出せる機会があるのも、やはり黒田さんだけです」
 物的証拠こそないにせよ、動機も機会も黒田には十分にある。それに、現在行方が判らないということもその裏付けになってしまう。

 小野瀬は少し考え込んだようなあとに言った。

「これから、弓槻さんを説得して、ある方と会えるようにアポを取ってみます。月島さんも、都合がつけば一緒にお願いできますか」
「ある方って、誰ですか」
「完全に僕の憶測ですが。警察も見つけられなかった強盗犯を黒田さんが見つけたとしたら、何らかの裏ルートを使ったと思います。それが今回の事件の関係者にいるとすれば」

 楓の頭にある人物の顔が浮かぶ。
「もしかして、それって」
「週刊ファクトの森月記者です」


 週刊ファクトを出版している文啓社ぶんけいしゃは神保町にある。
 小野瀬がアポを取り、文啓社で森月と会えることになった。

 午後五時を過ぎて街は仕事帰りや、これから呑みに行くのであろう会社員たちで賑わいだしていた。地下鉄の改札で小野瀬と落ち合った。

「小野瀬さん、仕事大丈夫だったんですか?」
「はい。今回の事件のサポートも仕事のうちの一つですから。弓槻さんが文啓社に知り合いがいるみたいで、取り計ってくれました」

 黒田が行方不明になっている件は、まだメディアでは取り上げられていない。

 黒田にとっては不利な状況であるが、警察にとってはまだ決定的な証拠に欠いている。なので、容疑者と断定して手配を掛けられていない状況だ。

「森月さんは裏の社会にも顔が利くといいます。今回の事件が闇バイトを発端としているなら、もしかしたらそっちのルートから情報を得たのかもしれません」
「黒田さんは、逃亡したってことなんでしょうか」
「一つ、気掛かりがあります。黒田さんたちを襲った強盗犯は、三人いたといいます」
「そういえば。そうなると殺された太田さんと清水さんの他に、もう一人犯人がいるってことですね」

「ええ。もし、森月さんがそこまで突き止めて黒田さんに情報を流していたとすれば」
「黒田さんはその人を襲いにいく」
「そうです。でも普通に殺すだけなら、わざわざ危険を侵して姿を消す必要はないはずです」
「なんででしょう」

「もしかしたら、太田さんと清水さんの死体が発見されてしまい、警察が二人の過去の強盗事件の犯行を突き止めると思ったのかもしれません。それで警察より先にもう一人の犯人を見つけるため、焦って行動に移したのかもしれません」
「そんな。じゃあ、今この瞬間にも黒田さんは」

「まだ可能性の話です。森月さんの証言次第では、確定してしまいますが。ただ、もし今言っていたことが本当だったら、黒田さんがなりふり構わぬ行動に出ていることが、とても怖いです」
「黒田さん、亡くなった茜さんと長い交際期間の末に入籍したんでしたよね。だから、恨みがあるとすれば、相当強いものになっているのかも……」

 話しているうちに文啓社に到着した。

 森月は一階のロビーにいた。焦っている様子だ。
「黒田さんの件、聞きました。行方不明だとか」
「はい。おそらく、あまり時間がありませんので、単刀直入に伺います。森月さんは黒田さんに、五年前の強盗殺人事件の情報を渡しましたか」

 森月は少し迷った様子のあと、答えた。

「本当は、黒田さんから緘口令かんこうれいを敷かれているのですが、この状況なので仕方ないですね。ええ、私が黒田社長に五年前の強盗殺人の犯人たちの情報を伝えました」
「復讐をするだろうと判っていながらですか?」

「……いいですか? 私の仕事は、取材をして得た情報を人に伝えることです。その情報によって受け取った人間がどうしようと、私には関係ないことなんですよ。私の情報によって、黒田さんが犯人たちを殺すかもしれない。いいですか、あくまでもんです。そんな可能性をいちいち考えていたら、この仕事はできませんよ」

「私は……私はそんなの厭です。私たちの仕事は取材して得たものを言葉で人に伝えることです。取材した方の人生を言葉にして残していく、だから私たちはもっと、情報と言葉に責任を持たないといけないんじゃないですか」

「そういう考え方もあるでしょう。しかし、人は綺麗ごとだけじゃ食っていけない。実際、どれだけ言われようと、みんなゴシップや人の失敗が好きでしょう。需要があるから、供給があるんです」
「だからって……」
 これ以上、楓は言い返すことができなかった。

 言葉によって人の人生をめちゃくちゃにしてしまう、そんなことが簡単に赦されていいはずがない。

 けれど、判っていた。今の私の力では自分だけの力で出来ないからこそ、森月に何も言い返せないのだ。いつまでもライターとして成長できない自分が悔しかった。

「そのことは、今は後回しにしましょう。それよりも、黒田さんを止めないと」
 見かねた小野瀬が仲裁に入ってくれた。

「森月さん、廃村で殺された太田さんと清水さんは強盗殺人の犯人ですね」
「そうだ」
「強盗犯は、全部で三人ですよね。では、あと一人。黒田さんは、その人を狙っているんじゃないですか」

 しかし、森月の答えは意外なものだった。

「いや、違う。もう一人の犯人は、
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