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第七話 西枝くんの覚悟
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そして、運命の月曜日がやってきた。
「グッバイ!……俺の人生……」
メンズスーパーモデルの東雲唯人の頬はこけ、
死相を漂わせながらの登校である。
「し……東雲くん?」
クラスメイトが軽く引くレベルである。
一方、颯爽と教室に現れたその人物に、
「えっ? 誰?」
誰もが目を瞬かせる。
「誰って……委員長の西枝時宗だけど?」
その返答に、
教室中に大きなどよめきが起こった。
西枝時宗はそんなギャラリーの視線など、
意にも介さず、ただ一点東雲唯人だけを見つめて、
つかつかと歩み寄る。
「おはよう、東雲くん」
決意のみなぎった声色で話しかけるも、
「おっ……おはよう、西枝くんっていうか、
俺、今日日直だったんだ。
鈴木くん、俺職員室に行って日直日誌とってくるわ」
東雲唯人は西枝時宗と視線さえ合わせずに、
不自然に会話を切り上げて、職員室へと向かう。
(無理っ! やっぱり無理っ!! 西枝くんを直視できんっ!
っていうか、なにあの可愛さ、もはや犯罪レベルだぞ?)
しかも西枝くんは外見だけじゃなくて、
心もとても綺麗な人なんだ。
東雲唯人の脳裏には在りし日の、
西枝時宗と過ごした蜜月の友情の日々が
走馬灯のように思い出される。
この学校に編入してきた自分に、
西枝くんが親切に学校を案内してくれたこと。
西枝くんは実はガーデニングが趣味で、
昼休みに一緒に裏庭の花壇を手入れしたこと。
一人暮らしの俺のことを心配して、
お家の人に頼んでお弁当を二人分用意してもらって、
俺に届けてくれたこと。
この学校に編入してきてからの俺は、
いつだって西枝くんの優しさに包まれていたんだ。
(そりゃあ、好きになってしまうだろがっ!!!)
東雲唯人がそんな声にできない雄たけびに
くわっと顔を上げると、
今日たまたま日直当番が一緒になってしまった
クラスメイトの鈴木くんがビクッとなった。
◇◇◇
「東雲くんに……逃げられてしまった……」
呆然自失の様子で、西枝時宗がその場に立ち尽くす。
「おう、どしたの? トキくん」
そのときワイワイと登校してきた一団が、
「髪型変えた? トキくん
かわいー、どっかの芸能人みたい」
西枝時宗を囲む。
「へぇ~、頑なに拒んでいたけど、
ついにコンタクトにしたんだ~、
どういう心境の変化? どしたん?
好きな人でもできた?」
親し気に西枝時宗をいじくりまわす。
そんな様子を遠目に目敏く見つけた
東雲唯人の目が据わる。
「ねぇ、鈴木くん、あの西枝くんを取り囲んでいる
一団は一体どういう人たちなんだい?
えらく西枝くんと親しそうだけど……」
不満の滲む声色で東雲唯人が尋ねると
「ああ、彼らは西枝くんの幼馴染たちだよ?
うちの学校は幼稚舎からの一貫校だろ?
もう10年以上の付き合いになるわけだからさ、
その絆も自然と濃く深いものになってくよね」
東雲唯人はその言葉に崩れ落ち、膝をついた。
「神よっ!」
そんな東雲唯人の奇行に、鈴木がひっと悲鳴を上げる。
(どうして俺は、幼稚舎からこの学校に通わなかったんだーーーーっ!)
幼稚舎時代の西枝くん……。
初等部時代の西枝くん
中等部時代の……以下略
俺の知らない西枝くんを、奴らは知っているというのかっ!
(きぃぃぃぃっ! 悔しいっ!
きっと今夜は嫉妬で眠れないぃぃぃぃっ!)
って、俺にはもう彼らのように、
西枝くんの隣にいることすら
許されないんだった。
ふと我に返った東雲唯人は、
しょんぼりと肩を落とした。
何せ俺は、西枝くんの純粋無垢な唇を無理やり奪ってしまった
極悪人だからな、
今日西枝くんは、俺の告白に対して
直接顔を合わせて返答するって言っていた。
(いい加減覚悟を決めろ! 東雲唯人)
そう心を奮い立たせてみるも、
(って、死ぬほど好きな人に振られる覚悟って、
相当キツイわ)
はあ~とため息をついて、また下を向く。
そしてその日一日、東雲唯人は不自然に西枝時宗を避けまくったが、
放課後、とうとう西枝時宗に捕まってしまった。
「逃げないで、東雲くんっ!」
ホームルームが終わって誰もいなくなった教室で、
西枝時宗がむんずと東雲唯人の手首を掴んだ。
(いやだっ! 逃げたいっ!)
東雲唯人は反射的にそんな衝動に駆られるが、
「賽を振ったのは君だろ? 東雲くん
だから君には僕の話を聞く義務がある」
それは怒りを含んだ低い声色だった。
(ヤバイっ! 西枝くんが怒っている)
東雲唯人はきゅっと目を閉じた。
「僕のこたえは、こうだ」
西枝時宗は少し背伸びをして、
東雲唯人の唇に口づけた。
それは触れるだけの軽いキスだった。
「にっ……西枝くん?」
東雲唯人が呆然として、
目を見開いた。
「ぼっ……僕は君と違って経験がないから、
こっ……これが精いっぱいなんだからなっ!」
西枝時宗は真っ赤になって下を向いた。
「じゃあ、西枝くんは僕の恋人になってくれるの?」
東雲唯人の問いに、
「必ずなって見せる!
だけど、今はまだ……君の隣に立つ自信がなくて……。
必死に努力する。
だから少しだけ待って欲しいんだ。
君にふさわしい男になって、
堂々と君の恋人だと言えるようになるまで」
西枝時宗は意志の強い眼差しを東雲唯人に向けた。
その眼差しを受けた東雲唯人は、
ぎゅっと西枝時宗を抱きしめた。
「ありがとう」
そして小さく肩を震わせた。
「グッバイ!……俺の人生……」
メンズスーパーモデルの東雲唯人の頬はこけ、
死相を漂わせながらの登校である。
「し……東雲くん?」
クラスメイトが軽く引くレベルである。
一方、颯爽と教室に現れたその人物に、
「えっ? 誰?」
誰もが目を瞬かせる。
「誰って……委員長の西枝時宗だけど?」
その返答に、
教室中に大きなどよめきが起こった。
西枝時宗はそんなギャラリーの視線など、
意にも介さず、ただ一点東雲唯人だけを見つめて、
つかつかと歩み寄る。
「おはよう、東雲くん」
決意のみなぎった声色で話しかけるも、
「おっ……おはよう、西枝くんっていうか、
俺、今日日直だったんだ。
鈴木くん、俺職員室に行って日直日誌とってくるわ」
東雲唯人は西枝時宗と視線さえ合わせずに、
不自然に会話を切り上げて、職員室へと向かう。
(無理っ! やっぱり無理っ!! 西枝くんを直視できんっ!
っていうか、なにあの可愛さ、もはや犯罪レベルだぞ?)
しかも西枝くんは外見だけじゃなくて、
心もとても綺麗な人なんだ。
東雲唯人の脳裏には在りし日の、
西枝時宗と過ごした蜜月の友情の日々が
走馬灯のように思い出される。
この学校に編入してきた自分に、
西枝くんが親切に学校を案内してくれたこと。
西枝くんは実はガーデニングが趣味で、
昼休みに一緒に裏庭の花壇を手入れしたこと。
一人暮らしの俺のことを心配して、
お家の人に頼んでお弁当を二人分用意してもらって、
俺に届けてくれたこと。
この学校に編入してきてからの俺は、
いつだって西枝くんの優しさに包まれていたんだ。
(そりゃあ、好きになってしまうだろがっ!!!)
東雲唯人がそんな声にできない雄たけびに
くわっと顔を上げると、
今日たまたま日直当番が一緒になってしまった
クラスメイトの鈴木くんがビクッとなった。
◇◇◇
「東雲くんに……逃げられてしまった……」
呆然自失の様子で、西枝時宗がその場に立ち尽くす。
「おう、どしたの? トキくん」
そのときワイワイと登校してきた一団が、
「髪型変えた? トキくん
かわいー、どっかの芸能人みたい」
西枝時宗を囲む。
「へぇ~、頑なに拒んでいたけど、
ついにコンタクトにしたんだ~、
どういう心境の変化? どしたん?
好きな人でもできた?」
親し気に西枝時宗をいじくりまわす。
そんな様子を遠目に目敏く見つけた
東雲唯人の目が据わる。
「ねぇ、鈴木くん、あの西枝くんを取り囲んでいる
一団は一体どういう人たちなんだい?
えらく西枝くんと親しそうだけど……」
不満の滲む声色で東雲唯人が尋ねると
「ああ、彼らは西枝くんの幼馴染たちだよ?
うちの学校は幼稚舎からの一貫校だろ?
もう10年以上の付き合いになるわけだからさ、
その絆も自然と濃く深いものになってくよね」
東雲唯人はその言葉に崩れ落ち、膝をついた。
「神よっ!」
そんな東雲唯人の奇行に、鈴木がひっと悲鳴を上げる。
(どうして俺は、幼稚舎からこの学校に通わなかったんだーーーーっ!)
幼稚舎時代の西枝くん……。
初等部時代の西枝くん
中等部時代の……以下略
俺の知らない西枝くんを、奴らは知っているというのかっ!
(きぃぃぃぃっ! 悔しいっ!
きっと今夜は嫉妬で眠れないぃぃぃぃっ!)
って、俺にはもう彼らのように、
西枝くんの隣にいることすら
許されないんだった。
ふと我に返った東雲唯人は、
しょんぼりと肩を落とした。
何せ俺は、西枝くんの純粋無垢な唇を無理やり奪ってしまった
極悪人だからな、
今日西枝くんは、俺の告白に対して
直接顔を合わせて返答するって言っていた。
(いい加減覚悟を決めろ! 東雲唯人)
そう心を奮い立たせてみるも、
(って、死ぬほど好きな人に振られる覚悟って、
相当キツイわ)
はあ~とため息をついて、また下を向く。
そしてその日一日、東雲唯人は不自然に西枝時宗を避けまくったが、
放課後、とうとう西枝時宗に捕まってしまった。
「逃げないで、東雲くんっ!」
ホームルームが終わって誰もいなくなった教室で、
西枝時宗がむんずと東雲唯人の手首を掴んだ。
(いやだっ! 逃げたいっ!)
東雲唯人は反射的にそんな衝動に駆られるが、
「賽を振ったのは君だろ? 東雲くん
だから君には僕の話を聞く義務がある」
それは怒りを含んだ低い声色だった。
(ヤバイっ! 西枝くんが怒っている)
東雲唯人はきゅっと目を閉じた。
「僕のこたえは、こうだ」
西枝時宗は少し背伸びをして、
東雲唯人の唇に口づけた。
それは触れるだけの軽いキスだった。
「にっ……西枝くん?」
東雲唯人が呆然として、
目を見開いた。
「ぼっ……僕は君と違って経験がないから、
こっ……これが精いっぱいなんだからなっ!」
西枝時宗は真っ赤になって下を向いた。
「じゃあ、西枝くんは僕の恋人になってくれるの?」
東雲唯人の問いに、
「必ずなって見せる!
だけど、今はまだ……君の隣に立つ自信がなくて……。
必死に努力する。
だから少しだけ待って欲しいんだ。
君にふさわしい男になって、
堂々と君の恋人だと言えるようになるまで」
西枝時宗は意志の強い眼差しを東雲唯人に向けた。
その眼差しを受けた東雲唯人は、
ぎゅっと西枝時宗を抱きしめた。
「ありがとう」
そして小さく肩を震わせた。
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