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第4夜 夢魔
26、邸宅
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タクシー一台がようやく通れるような路地の奥の、ひっそりとしたところにある平屋建ての邸宅が神坂晴海の住居である。
大きく生い茂る水色のあじさいが、袖に手を入れて歩く神坂晴海と大きなスーツケースを引くサイラス、わたしを出迎えてくれる。
落ち着いた灰色の石を敷き詰めた玄関は広く、玄関を上がると住人の往来で磨かれた木材の床がすべすべで気持ちがいい。
「庭には手が回らなくて……。落ち着いた日本庭園風の風流な庭だったんだけど、恵子さんが亡くなってからはぐんぐん植物が生い茂って森になってしまって。なんとかしないといけないと思うんだけれどもね」
恥ずかしそうに神坂はいいわけする。
一人で暮らしていると聞いている割に、建屋の中の最低限の部分だけは整えられているのは、週に何度かお手伝いさんが入ってくれているそうである。
玄関から廊下の壁には白黒の外国の風景写真や撮影現場を映した写真が大小、幾百と貼られていた。
足を止めてじっくりみると、そのどの写真にも若き女優、石川恵子の姿があった。
「恵子さんって、石川恵子だったの!なら、この邸宅ってもともとは……」
「この映画、ボク見ました!チャンバラ劇をまねしました!石川恵子に南野武!ここはもしかして世界の映画監督、南野武の実家じゃないですか!」
わたしよりも熱心に、写真を食い入るようにみていたサイラスの目が輝いた。先を行く神坂は足を止めて振り返った。
「へえ?知ってるの?」
「知ってるも何も! 彼の作った映画は全て見まシタ! 石川恵子が出たのは最初のたった一作でしたけれど、ボクに強烈な印象を残しまシタ! その後、電撃結婚引退し、もう二度とエキゾチックでミステリアスな彼女に会えないかと思い残念でしたが、ここで再び会うことができるとは思いませんでシタ!まさかその世界の南野と石川恵子の家なのデスか?」
「その通りだよ。外国人なのによく知っているね」
「当たり前デス! ボクは現役俳優デスから」
「俳優ね、理事長が直接頼んでくるぐらいだからね、そっち関係か」
神坂はまた生え始めている無精ひげの顎をさする。
「あれ、この写真の着物と神坂さんの着物がおなじではないデスか?」
サイラスは写真の男性の着物を指で押さえた。
「僕の服は恵子さんの旦那さんのを自由に着させてもらっているからね。写真と同じのもあるかも」
「なんてことですか!一体、神坂さんは何者デスか!?」
サイラスは尊敬と嫉妬が入り交じる混乱した表情で、問い詰めた。
それはわたしも知りたいところである。
「えっと、それは以前、行き倒れ寸前なときに、恵子さんに拾ってもらったことからの縁かな?」
「行き倒れ!?」
わたしとサイラスの声が重なった。
「そう。恵子さんに拾ってもらって、その頃は旦那さんも亡くなっていて、恵子さんはこの広い屋敷に一人で住んでいて不用心なところ、部屋は豊富で余っていたから。それに、不思議なことに恵子さんは悩まされていて、それを解決したことからすっかり気にいられてしまってそれ以来、ここに居候することになったんだけど、そのとき既に恵子さんは病がちで……。年の瀬に亡くなったときに、僕にこの屋敷に住んでいいということになって」
「シンデレラストーリーじゃないデスか!」
「何もしないでここに住むわけにはいかないから、恵子さんに紹介されて、藤原理事長の試験に合格して大学に事務所を構えることになったわけだけど」
ちらりとわたしを見た。
わたしはうなづく。その経緯は知っている。
大きく生い茂る水色のあじさいが、袖に手を入れて歩く神坂晴海と大きなスーツケースを引くサイラス、わたしを出迎えてくれる。
落ち着いた灰色の石を敷き詰めた玄関は広く、玄関を上がると住人の往来で磨かれた木材の床がすべすべで気持ちがいい。
「庭には手が回らなくて……。落ち着いた日本庭園風の風流な庭だったんだけど、恵子さんが亡くなってからはぐんぐん植物が生い茂って森になってしまって。なんとかしないといけないと思うんだけれどもね」
恥ずかしそうに神坂はいいわけする。
一人で暮らしていると聞いている割に、建屋の中の最低限の部分だけは整えられているのは、週に何度かお手伝いさんが入ってくれているそうである。
玄関から廊下の壁には白黒の外国の風景写真や撮影現場を映した写真が大小、幾百と貼られていた。
足を止めてじっくりみると、そのどの写真にも若き女優、石川恵子の姿があった。
「恵子さんって、石川恵子だったの!なら、この邸宅ってもともとは……」
「この映画、ボク見ました!チャンバラ劇をまねしました!石川恵子に南野武!ここはもしかして世界の映画監督、南野武の実家じゃないですか!」
わたしよりも熱心に、写真を食い入るようにみていたサイラスの目が輝いた。先を行く神坂は足を止めて振り返った。
「へえ?知ってるの?」
「知ってるも何も! 彼の作った映画は全て見まシタ! 石川恵子が出たのは最初のたった一作でしたけれど、ボクに強烈な印象を残しまシタ! その後、電撃結婚引退し、もう二度とエキゾチックでミステリアスな彼女に会えないかと思い残念でしたが、ここで再び会うことができるとは思いませんでシタ!まさかその世界の南野と石川恵子の家なのデスか?」
「その通りだよ。外国人なのによく知っているね」
「当たり前デス! ボクは現役俳優デスから」
「俳優ね、理事長が直接頼んでくるぐらいだからね、そっち関係か」
神坂はまた生え始めている無精ひげの顎をさする。
「あれ、この写真の着物と神坂さんの着物がおなじではないデスか?」
サイラスは写真の男性の着物を指で押さえた。
「僕の服は恵子さんの旦那さんのを自由に着させてもらっているからね。写真と同じのもあるかも」
「なんてことですか!一体、神坂さんは何者デスか!?」
サイラスは尊敬と嫉妬が入り交じる混乱した表情で、問い詰めた。
それはわたしも知りたいところである。
「えっと、それは以前、行き倒れ寸前なときに、恵子さんに拾ってもらったことからの縁かな?」
「行き倒れ!?」
わたしとサイラスの声が重なった。
「そう。恵子さんに拾ってもらって、その頃は旦那さんも亡くなっていて、恵子さんはこの広い屋敷に一人で住んでいて不用心なところ、部屋は豊富で余っていたから。それに、不思議なことに恵子さんは悩まされていて、それを解決したことからすっかり気にいられてしまってそれ以来、ここに居候することになったんだけど、そのとき既に恵子さんは病がちで……。年の瀬に亡くなったときに、僕にこの屋敷に住んでいいということになって」
「シンデレラストーリーじゃないデスか!」
「何もしないでここに住むわけにはいかないから、恵子さんに紹介されて、藤原理事長の試験に合格して大学に事務所を構えることになったわけだけど」
ちらりとわたしを見た。
わたしはうなづく。その経緯は知っている。
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