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第4夜 夢魔
29、同調①
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夢は景色が曖昧なものが多い。
その中でスポットライトを当てたように、夢を見る本人の願望が浮かび上がる。
紙吹雪が舞い落ちる中、拍手喝采を浴びて今までの苦労が走馬燈のように走り抜ける中、歓喜の絶頂にいる状態が何度も何度も巻き戻して繰り返されていたり、勧善懲悪のヒーローもののように超人的な身体能力を発揮して悪者を倒して美女を救ったり、あこがれの俳優に溺愛されるというものもある。
サイラスは身体接触でターゲットの夢に入り込む。
様々なパターンの荒唐無稽なハッピーエンドの願望の夢が、サイラスの主食のようなもので、そうして食った夢は血肉に吸収され、実際に肉や魚のようにたべたものと同じように、サイラスの活動や精神エネルギーに変換されていく。
サイラスに夢を食われた者は、その夢を見失ってしまう。
いいように言えば、長年の執着から解放されるといっていい。
その結果、身の丈に合った現実に満足できるようになる。
悪夢にとらわれている者も、同様に解放することができた。
だがサイラスにとって悪夢は、不要なものであった。
自分の死、愛する者の死、絶対に受けたくない屈辱など、自分の中に取り入れたら決して心地よいものではないから。
だから、この眼鏡の櫻木美奈が悩まされる悪夢を食ってあげるという提案は、彼にとってはきわめて珍しい提案だった。
部屋の掃除を手伝ってくれたとか、おいしいお茶を淹れてくれるからとか、己の派手な美貌に興味を抱いて色目を使うわけでもないからとか、理由はいくつも見つけられたが、どれひとつとしてその通りといえるものでもない。だけど、櫻木美奈にたいしてしてあげたいと思う。
第一印象は地味なだけのつまらない女だと思ったが、化粧気のない顔に分厚い縁の眼鏡、無造作に後でひとつにまとめた髪は、外見よりももっと大事なことに心を向けたいという意志が感じられ、サイラスの知る女たちの誰とも違っていた。
そのくせ、決して素材が悪いわけではない。
眼鏡をとれば、知性と好奇心できらめく美しい瞳があった。
櫻木美奈は、これから自分が世話になる神坂晴海に興味を持っているのはすぐにわかった。とはいえ、神坂と櫻木美奈が深い関係であるともいえなさそうである。
こんなにいくつも部屋があるひとり暮らしの邸宅に美奈を連れてきたのも、自分というきっかけに乗っかってでしかできなかった、自分からしてみれば愚鈍にも奥手の男なのだから。
神坂晴海がどうやって美奈の悩み事を解決するつもりなのかわからないけれど、サイラスなら、悪夢を食って自分の身体を使って消化するというやりかたで処理できる。
多少の気持ち悪さを堪え忍ぶだけで、確実にこの、自分の美貌に気が付かない女の気をひくことができるであろうし、彼女とイイ関係を築くことができれば、この島流しにあったような留学生活も、格段に面白くて楽しいものになるだろうと思うのだ。
だから、唇を合わせ、舌を伸ばし、意識の指を無数に分裂させて伸ばして、櫻木美奈の体内の、さらに奥深くへと探っていく。
「はあっ……」
美奈がため息のようについたあえぎをこくりと飲みこんだ。
抵抗しようと思う前に、勝負は決まる。
美奈の、とろけていく表情の変化にサイラスは満足する。
さらに快感をやさしく引き出しながら、その快感に自分の感覚を同調させた。
そして、彼女の潜在意識の波のような揺らぎに、己の意識を溶け込ませていったのである。
その中でスポットライトを当てたように、夢を見る本人の願望が浮かび上がる。
紙吹雪が舞い落ちる中、拍手喝采を浴びて今までの苦労が走馬燈のように走り抜ける中、歓喜の絶頂にいる状態が何度も何度も巻き戻して繰り返されていたり、勧善懲悪のヒーローもののように超人的な身体能力を発揮して悪者を倒して美女を救ったり、あこがれの俳優に溺愛されるというものもある。
サイラスは身体接触でターゲットの夢に入り込む。
様々なパターンの荒唐無稽なハッピーエンドの願望の夢が、サイラスの主食のようなもので、そうして食った夢は血肉に吸収され、実際に肉や魚のようにたべたものと同じように、サイラスの活動や精神エネルギーに変換されていく。
サイラスに夢を食われた者は、その夢を見失ってしまう。
いいように言えば、長年の執着から解放されるといっていい。
その結果、身の丈に合った現実に満足できるようになる。
悪夢にとらわれている者も、同様に解放することができた。
だがサイラスにとって悪夢は、不要なものであった。
自分の死、愛する者の死、絶対に受けたくない屈辱など、自分の中に取り入れたら決して心地よいものではないから。
だから、この眼鏡の櫻木美奈が悩まされる悪夢を食ってあげるという提案は、彼にとってはきわめて珍しい提案だった。
部屋の掃除を手伝ってくれたとか、おいしいお茶を淹れてくれるからとか、己の派手な美貌に興味を抱いて色目を使うわけでもないからとか、理由はいくつも見つけられたが、どれひとつとしてその通りといえるものでもない。だけど、櫻木美奈にたいしてしてあげたいと思う。
第一印象は地味なだけのつまらない女だと思ったが、化粧気のない顔に分厚い縁の眼鏡、無造作に後でひとつにまとめた髪は、外見よりももっと大事なことに心を向けたいという意志が感じられ、サイラスの知る女たちの誰とも違っていた。
そのくせ、決して素材が悪いわけではない。
眼鏡をとれば、知性と好奇心できらめく美しい瞳があった。
櫻木美奈は、これから自分が世話になる神坂晴海に興味を持っているのはすぐにわかった。とはいえ、神坂と櫻木美奈が深い関係であるともいえなさそうである。
こんなにいくつも部屋があるひとり暮らしの邸宅に美奈を連れてきたのも、自分というきっかけに乗っかってでしかできなかった、自分からしてみれば愚鈍にも奥手の男なのだから。
神坂晴海がどうやって美奈の悩み事を解決するつもりなのかわからないけれど、サイラスなら、悪夢を食って自分の身体を使って消化するというやりかたで処理できる。
多少の気持ち悪さを堪え忍ぶだけで、確実にこの、自分の美貌に気が付かない女の気をひくことができるであろうし、彼女とイイ関係を築くことができれば、この島流しにあったような留学生活も、格段に面白くて楽しいものになるだろうと思うのだ。
だから、唇を合わせ、舌を伸ばし、意識の指を無数に分裂させて伸ばして、櫻木美奈の体内の、さらに奥深くへと探っていく。
「はあっ……」
美奈がため息のようについたあえぎをこくりと飲みこんだ。
抵抗しようと思う前に、勝負は決まる。
美奈の、とろけていく表情の変化にサイラスは満足する。
さらに快感をやさしく引き出しながら、その快感に自分の感覚を同調させた。
そして、彼女の潜在意識の波のような揺らぎに、己の意識を溶け込ませていったのである。
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