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第5夜 鳳の羽
41、滅亡①
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ダイゴがわたしを懐柔にかかる。
日中は内外さまざまな来客が訪問する場に同席させ、夜は自分の寝室に引き込んだ。
生まれたばかりの赤子を抱くアヤハは、わたしに敵意を剥き出しにする。
桜羽布を織らせるか、もう織らないのであればその製法の秘密だけでも聞き出さなければならないから協力させて欲しいというアヤハの嘆願をダイゴは聞き入れることはなかった。
わたしは染色と織りの仕事から解放された。同時に館の中で自室以外に唯一といってよかった居場所を失った。
わたしは、壊れた西洋人形のよう。
ダイゴの眼の届く場所がわたしに許された場所だった。
「ヒロはミイナを拐かし、大鳥一族を危険にさらしたんだ。それまでも、大鳥のやり方に不満を持ち、若者たちを一族離反の煽動さえしていた。僕は彼を押さえるために、大鳥を内と外に開いたが、それだけでは彼は鎮まらなかった。大鳥離反と拐かしの罪で処罰したが、それはより大きな悲劇を回避するためだったんだ。ミイナ、僕のミイナ、そのことはわかってほしい。もう一度僕に笑いかけてほしい……」
わたしの知るヒロは、ダイゴを支えようと骨身を削って日々努力していた男だったが、声を出すのも億劫だった。
ダイゴがわたしに執着するわけがわからない。
桜羽布を作らなくてもいいと言われなくても、わたしにはもう翼を出すことはできなくなった。
羽根が妖の象徴というのであれば、わたしは妖力を失ってしまったのかもしれない。
悲しいと思うべきなのか、喜んでいいことなのだろうか。
わたしはむなしく抱かれる。そして再び朝が来る。
ダイゴの影のように付き従うわたしに、好奇の眼がわたしにねばりつく……。
山の冬は過酷で外からの訪問者が途絶える一冬の間、わたしの心は凍り続けた。
だがやがて重く積もった雪が溶け、清浄な雪解け水が岩を割り幾筋も小川に注ぎ込まれるころ、ダイゴはひび割れたような枝ばかりが目立つ大振りの桜の枝を、わたしの部屋に活けさせた。
邪魔にしか思えなかった枝の固く縮まっていた白いつぼみの塊は、見る度に膨らんでゆく。
「……やっと、笑えるようになったのだな」
気の早いつぼみが開いたのを見ていた私に、ダイゴはほっとしたようにつぶやいた。
そして、ヒロを失い大きく開いた心の隙間は、あらゆる生物がそうであるように、割れた傷口に肉が盛り上がるように徐々にふさがりはじめたことを認めざるをえなかった。
その春、大鳥の一族を揺るがす大事件が起こる。
大鳥の一族はあやかしで、妖布で人の心を惑わし狂わせる。
子を掠っては戯れになぶり殺して食う
そんな噂がどこからか流れ、大勢の里人たちが城壁を取り囲んだのである。
彼らは日を経るうちに、お互いの熱がぶつかりさらに激しく怒り立つ。
「あやかしを引きずりだせ!正体を日の元でみせろ!族長に問い詰めろ!」と鍬を振りかざしたのである。
日中は内外さまざまな来客が訪問する場に同席させ、夜は自分の寝室に引き込んだ。
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桜羽布を織らせるか、もう織らないのであればその製法の秘密だけでも聞き出さなければならないから協力させて欲しいというアヤハの嘆願をダイゴは聞き入れることはなかった。
わたしは染色と織りの仕事から解放された。同時に館の中で自室以外に唯一といってよかった居場所を失った。
わたしは、壊れた西洋人形のよう。
ダイゴの眼の届く場所がわたしに許された場所だった。
「ヒロはミイナを拐かし、大鳥一族を危険にさらしたんだ。それまでも、大鳥のやり方に不満を持ち、若者たちを一族離反の煽動さえしていた。僕は彼を押さえるために、大鳥を内と外に開いたが、それだけでは彼は鎮まらなかった。大鳥離反と拐かしの罪で処罰したが、それはより大きな悲劇を回避するためだったんだ。ミイナ、僕のミイナ、そのことはわかってほしい。もう一度僕に笑いかけてほしい……」
わたしの知るヒロは、ダイゴを支えようと骨身を削って日々努力していた男だったが、声を出すのも億劫だった。
ダイゴがわたしに執着するわけがわからない。
桜羽布を作らなくてもいいと言われなくても、わたしにはもう翼を出すことはできなくなった。
羽根が妖の象徴というのであれば、わたしは妖力を失ってしまったのかもしれない。
悲しいと思うべきなのか、喜んでいいことなのだろうか。
わたしはむなしく抱かれる。そして再び朝が来る。
ダイゴの影のように付き従うわたしに、好奇の眼がわたしにねばりつく……。
山の冬は過酷で外からの訪問者が途絶える一冬の間、わたしの心は凍り続けた。
だがやがて重く積もった雪が溶け、清浄な雪解け水が岩を割り幾筋も小川に注ぎ込まれるころ、ダイゴはひび割れたような枝ばかりが目立つ大振りの桜の枝を、わたしの部屋に活けさせた。
邪魔にしか思えなかった枝の固く縮まっていた白いつぼみの塊は、見る度に膨らんでゆく。
「……やっと、笑えるようになったのだな」
気の早いつぼみが開いたのを見ていた私に、ダイゴはほっとしたようにつぶやいた。
そして、ヒロを失い大きく開いた心の隙間は、あらゆる生物がそうであるように、割れた傷口に肉が盛り上がるように徐々にふさがりはじめたことを認めざるをえなかった。
その春、大鳥の一族を揺るがす大事件が起こる。
大鳥の一族はあやかしで、妖布で人の心を惑わし狂わせる。
子を掠っては戯れになぶり殺して食う
そんな噂がどこからか流れ、大勢の里人たちが城壁を取り囲んだのである。
彼らは日を経るうちに、お互いの熱がぶつかりさらに激しく怒り立つ。
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