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第5夜 鳳の羽
44、帰還② (第五夜 鳳の羽完)
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くるくる。
世界が廻る。
空と森と大地が喪失する。
ミイナの魂が逝くことを望んだ虚空の暗闇の中へ、吸い込まれるような感覚。
わたしはあの人ならざる男の元にとどまろうと、手足をばたつかせ必死であがく。
何かが、わたしをからめとった。
美奈、ここにいたのか。
幾度もわたしをミイナではなく美奈と呼び掛けていたあの声だ。
必死でしがみついた。
これを手放してしまえば、もうわたしはミイナとしても美奈としても喪失するのだと直感する。
強く、たぐりよせられた。
幾千もの星々が光速で背後へ過ぎ去っていくようなまぶしさに目がくらんだ。
深海から釣り上げられた魚のように、苦しくてあえぐ。
わたしは突如、櫻木美奈に戻った。
のしかかる重力に声なき悲鳴をあげる。
身体を動かせない。
息をしなければならないことを思い出した。
息の仕方も、忘れていた。
心臓の音がうるさい。
噴き出した汗が気持ち悪い。
吐きそうだ。
昼に食べたものは何だろう。
思い出せそうになかった。
「……美奈、大丈夫か?やっと、戻ってきてくれたんだな。ここがどこかわかるか?……僕が、誰だかわかる?」
「か、神坂晴海……」
最後に見た、美麗な人ならざるあの男と似ている男。
あの男と縁が絡まっているのなら、この男とも絡まっているのだろうか。
頭をなぜ、冷たい指先がわたしの頬に触れた。
わたしを抱く胸の、指先の、微かな震えが喜びと不安を伝えてくる。
促されるままに顔を上げると、美麗な顔がじっとわたしの眼の奥をのぞき込んだ。
わたしの身体に別の何かが宿っていないか確認するようにも、光彩の形や色合いを確認して、本当にわたしがわたしなのであるかを照合したのか。
神坂はぐずぐずと鼻をすする。
今にも号泣しそうな顔をしている。
わたしは神坂にしがみつき、同時に強く抱きしめられていた。
ずっと、わたしに呼びかけてくれていたのは神坂晴海だった。
もし、見つけてくれなかったらどこかのはざまで迷子になっていたかもしれないと血の気が抜けていく。
「ここは……?あの男は、あの白犬は、滝は、あの出来事は、ミイナとして過ごした一生は……」
「夢ならサイラスの本分だけど、気を失っていた五分の間に美奈ちゃんはどんな夢を?」
「たった五分ですって……?そんなの、ありえない。だってわたしは豊臣の時代でミイナとして20年の一生を過ごしたのよ、それが五分の間ってどういうことよ」
「五分が20年か」
神坂は思案顔になる。
泣きそうな顔でも思案顔でも秀麗な顔はどんな顔でも麗しく、不可解な状況にも関わらずつい見とれてしまった。
「美奈ちゃんは、大鳥君が持ってきた羽の埃を吸って、倒れたんだ。呪いをまともに浴びたとも言える」
抱きしめる腕が緩む。
ようやく体の感覚が戻ってきていた。
「こんなことになるなんて、櫻木、ほんとうにごめん。呪いなんて信じてなかったんだけど、君が倒れたのを目の当たりにして、ありえないと一笑に伏すことはできないと思うようになったよ」
「大鳥の、ダイゴ……」
開け放した窓際に、真っ青な顔をしている黒縁眼鏡の大鳥大吾がいた。
その名前が示す通り、ダイゴとアヤハの子孫で、二人の子供は生き残ったのだ。
呪いを信じない大鳥大吾は、祖先が「成る」ことができた半人半妖だったなど信じられないだろう。
世界が廻る。
空と森と大地が喪失する。
ミイナの魂が逝くことを望んだ虚空の暗闇の中へ、吸い込まれるような感覚。
わたしはあの人ならざる男の元にとどまろうと、手足をばたつかせ必死であがく。
何かが、わたしをからめとった。
美奈、ここにいたのか。
幾度もわたしをミイナではなく美奈と呼び掛けていたあの声だ。
必死でしがみついた。
これを手放してしまえば、もうわたしはミイナとしても美奈としても喪失するのだと直感する。
強く、たぐりよせられた。
幾千もの星々が光速で背後へ過ぎ去っていくようなまぶしさに目がくらんだ。
深海から釣り上げられた魚のように、苦しくてあえぐ。
わたしは突如、櫻木美奈に戻った。
のしかかる重力に声なき悲鳴をあげる。
身体を動かせない。
息をしなければならないことを思い出した。
息の仕方も、忘れていた。
心臓の音がうるさい。
噴き出した汗が気持ち悪い。
吐きそうだ。
昼に食べたものは何だろう。
思い出せそうになかった。
「……美奈、大丈夫か?やっと、戻ってきてくれたんだな。ここがどこかわかるか?……僕が、誰だかわかる?」
「か、神坂晴海……」
最後に見た、美麗な人ならざるあの男と似ている男。
あの男と縁が絡まっているのなら、この男とも絡まっているのだろうか。
頭をなぜ、冷たい指先がわたしの頬に触れた。
わたしを抱く胸の、指先の、微かな震えが喜びと不安を伝えてくる。
促されるままに顔を上げると、美麗な顔がじっとわたしの眼の奥をのぞき込んだ。
わたしの身体に別の何かが宿っていないか確認するようにも、光彩の形や色合いを確認して、本当にわたしがわたしなのであるかを照合したのか。
神坂はぐずぐずと鼻をすする。
今にも号泣しそうな顔をしている。
わたしは神坂にしがみつき、同時に強く抱きしめられていた。
ずっと、わたしに呼びかけてくれていたのは神坂晴海だった。
もし、見つけてくれなかったらどこかのはざまで迷子になっていたかもしれないと血の気が抜けていく。
「ここは……?あの男は、あの白犬は、滝は、あの出来事は、ミイナとして過ごした一生は……」
「夢ならサイラスの本分だけど、気を失っていた五分の間に美奈ちゃんはどんな夢を?」
「たった五分ですって……?そんなの、ありえない。だってわたしは豊臣の時代でミイナとして20年の一生を過ごしたのよ、それが五分の間ってどういうことよ」
「五分が20年か」
神坂は思案顔になる。
泣きそうな顔でも思案顔でも秀麗な顔はどんな顔でも麗しく、不可解な状況にも関わらずつい見とれてしまった。
「美奈ちゃんは、大鳥君が持ってきた羽の埃を吸って、倒れたんだ。呪いをまともに浴びたとも言える」
抱きしめる腕が緩む。
ようやく体の感覚が戻ってきていた。
「こんなことになるなんて、櫻木、ほんとうにごめん。呪いなんて信じてなかったんだけど、君が倒れたのを目の当たりにして、ありえないと一笑に伏すことはできないと思うようになったよ」
「大鳥の、ダイゴ……」
開け放した窓際に、真っ青な顔をしている黒縁眼鏡の大鳥大吾がいた。
その名前が示す通り、ダイゴとアヤハの子孫で、二人の子供は生き残ったのだ。
呪いを信じない大鳥大吾は、祖先が「成る」ことができた半人半妖だったなど信じられないだろう。
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