姫の騎士

藤雪花(ふじゆきはな)

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1-1、赤い髪のセルジオ

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 母は軍人だった。
 血潮の飛び散る戦場で父と出会った。
 燃え上がるような赤い髪をした父は、戦場を渡り歩く傭兵。
 母は妊娠し退役し、そして俺を生んだという。
 俺は生まれてから一度も父の顔をみたことがない。
 そうだけれども。
 俺は、命のやり取りをする戦場で、命がけの恋をした父と母のように、この命をかけても惜しくないと思えるような、運命の女に出会いたいと願うのだ。





 最近の王都は賑わしい。
 少し前まで日照りで苦しんでいた王都は、雨がふり心配事が解決すると、早くも元の活気と寛容さを取り戻していた。
 そして、賑わしいのにはもうひとつの理由がある。
 結婚をしぶっていたというジルコン王子の結婚が、来春に決まったのだ。

 このエール国のジルコン王子は、黒髪青目の秀麗な外見である。
 彼が引きつれる10人の独身の黒騎士たちは、女たちのあこがれ。
 王子や彼の黒騎士たちの結婚事情となれば、女たちが騒がずにはいられない。

 そのジルコン王子が諸国の王子や姫たちを集めて、勉強会という名の集団お見合いをしていたというのは最近のこと。
 ジルコン王子は一番人気で、姫たちや大貴族の娘であるイリス嬢を押さえ、その心を射止めた姫というのが辺境の田舎の国、アデールの姫なのだ。
 
 王都では、連日さまざまな噂が飛び交っていた。
 雨乞いの神事でその姫が王子の相手役を務めたらしいということは、セルジオも既に耳にした。
 他にもいろいろありそうで、昨夜、ベッドを共にした娘は王城に勤める女官見習いの友人から聞いた話だと前置きをする。

「その婚約したアデールの姫っていうのはね、田舎の貧乏国から来たから、服だってわたしたちと変わらないようなものだそうよ。姫なのに、所作にも優雅さの欠片もないんだって。すこし前にはアデールの姫の双子の王子がきていたそうなんだけど、この勉強会が王子たちの結婚のお相手選びを兼ねていると知って、自分が兄に変わって残ることにしたんだって。それで、ジルコン王子に狙いを定めて、夜這いして、既成事実をつくった。それで、ジルコン王子はしかたなく婚約することになったんだって」
「……夜這いするぐらいだから、色っぽい美人なのか?」

 噂話に興味はない。口から口へ伝わるごとに、尾ひれがついていくものである。
 5つは年上の娘は鼻で笑った。

「それが、色っぽいともいえないようなのよ。がさつで、奇行が目立つんだって。金髪らしいんだけど、そんなの黒髪が多いエール国ではちょっと珍しいだけでしょ。わたしの方が、よっぽど魅力的な女だと思んだけど」
 娘はセルジオに豊かな胸を押し付け、冷たい脚をからめてきた。

 彼女は食堂で働く澄ました美人である。
 セシリオは何度も通い、昨夜ようやくくどき落としベッドに連れ込んだ。
 娘は一度寝ると油断したのか、どこか自慢げに、会話の端々に関係した男の影が見え隠れする。
 セルジオも、いずれ彼女が落とした男の一人として登場するのは確定である。

 彼女を、己の命をかけてもいいと思えるかというと、残念ながら無理そうだった。
 彼女とデートするのは、あと二三回だろうか。
 二人でいるときに、彼女を守らなければならない場面に遭遇しないことを祈るばかりである。

 セルジオは体を起こした。
 昨夜、ベッドの床に脱ぎ散らかしたズボンを手に取った。
 両脚一度にはき、シャツを羽織った。
 娘が不満げに見ていたが、気が付かないふりをする。

「ねえ、どこに行くの、まだ朝も早いわよ。もう一回しましょうよ」
「朝の鍛錬に行く時間なんだ」
「鍛練って、軍人になるつもりなの」
「軍人ではなくて騎士」
「まだそんな夢を見ているの」
「男は夢を食って生きているもんだろ」
「王騎士も黒騎士も募集はしてないでしょうに」
「それでも、いつ募集がかかるかわからないから鍛練は怠れない」
「治安警察兵とかだったら常に募集があるわよ。辺境警備兵とかも」
「俺は、騎士になりたいんだ」

 男の夢を潰しにかかる女は御免である。
 彼女と話をしているとイライラしてくる。
 昨夜の気持ちよさは、この会話で帳消しになってしまった。

「女は現実的なのよ。わたしの赤毛の騎士さま」

 心の声が聞こえたかのような言葉に、腹が立った。
 この女と寝るのはもう終わりだとセルジオは考え直した。

 鍛練の道場は、街はずれにある。
 子供のころからセルジオはやんちゃであった。
 近所の子供たちと木の棒を振り回して物を壊したり、怪我をしたりさせたりは毎日のこと。
 手を焼いた母親はセルジオを街はずれのこの道場に連れてきた。

 ひどい怪我をさせて後悔するようなことになる前に、その棒を正しく扱えるようになりなさい。
 武器を扱うのなら、まず自分を守り、さらに大事な人を守れるようになりなさい。

 そうして軍人になるために、学校に通いながらこの道場に通う。
 だが、その夢は微妙に変わる。
 フォルス王が凱旋帰国した時、沿道で声援を送っていた小さなセルジオは、王のすぐ後ろに付き従う金と黒の騎士の華やかさに目を奪われた。
 その後に続いた軍人たちの黒い甲冑は傷だらけでほこりにまみれてくすんでいた。
 軍人たちも戦勝の祝福を人々から受けていたけれど、人々の歓喜と祝福の中心はフォルス王と王騎士たちだった。
 格好良さでは軍人たちより騎士たちが上である。



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