姫の騎士

藤雪花(ふじゆきはな)

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13-1、姫の騎士

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 エール城から出るのが問題だった。
 アンが男にしては小柄であるとはいえ、鞄に入れて運ぶには大きすぎる。
 夜間の出入りは厳しく確認される。
「門番のいない森を突っ切り、途中で王都へ紛れ込むか?いずれにしろそうと決めたのなら、今夜から動いた方がいいだろう」

 セルジオの頭の中では、王城から出て森を進み王都に入り、馬を走らせて三日、アデールに向けて逃走するという計画を立てる。
 ジルコン王子は追手を差し向けるだろう。
 金髪に赤毛では目立ちすぎる。
 髪色を染めたりして目立たなく変装する必要がある。
 手助けをしてくれる人が必要だった。
 セルジオの危険で無謀な要求をきいて助けてくれるのは誰か、顔を思い浮かべた。

「何か、いいプランはあるか?」
「セルジオ、その……」

 アンは何かいいにくそうに口ごもった。
 その時、軽くノックの音。

「監視されていると言っていたが、もしかしてここに来たことがばれているのか?アンが来たルートを逆にたどって逃走するか?」

 セルジオはアンが来たバルコニーに目をやった。
「セルジオ、実は、いわなければならないことあるんだ!」

 アンがセルジオの腕を押さえ言ったのと、扉が開かれるのが同時。
 セルジオは咄嗟に体でアンを庇う。
 扉を開けたのは事務次官のスアレス。
 セルジオは一瞬、面接が始まるのかと思う。
 だが、アデールの姫が立ち合うには遅い時間である。
 スアレスの視線が、セルジオから、その背後へと移っていく。
 ジルコン王子が執着するアデールの王子が、セルジオの部屋にふたりきりでいることはどう考えてもおかしな状況である。
 今夜中にひそかに逃走するタイミングを、セルジオは逃してしまったことを知る。
 こうなれば、別の機会をさぐらなければならない。
 セルジオの頭はフル回転する。
 明日の、アデールの姫との面接を適当にやり過ごし、選ばれないように持っていくか。
 王城を去るときにアンを連れていくか。
 もしくは、姫騎士に選ばれて、王城に留まりつつ、できるだけ早いタイミングでの逃走のタイミングを計るか。

「それで、面接試験はどうでしたか?」
 セルジオの焦りを気にした様子もなくスアレスが事務的に言った。
「は?」
 セルジオは意味が分からず聞き直した。
「今日はアデールの姫との面接試験はなかったが……」
「彼に決めました」

 セルジオに代わり、返事をしたのは背後のアン。
 セルジオの腕を押さえスアレスの前に進み出る。

「彼に合格を与えます。僕の騎士になると言ってくれました。そうでしょう?」
 アンは振り返った。
 その目はきらきらと輝き、セルジオを見上げた。
 セルジオは混乱しいうべき言葉を失った。

 なぜなら、先ほどまでの話の流れでは、アンはアンジュ王子で、自分の騎士にするといったのであり、それはアデール国に逃走するのを助ける見返りのような話だった。
 本当に騎士に任命されるとも思っていないし、そもそもスアレスが言っているのは姫騎士の面接試験であって、アンジュ王子の騎士の話ではない。

 スアレスの背後には黒金の礼服のジルコン王子がいた。
「アン、男の部屋から出てこい。そもそもこの階は女子は禁制だ。夏スクールの時から変わってない」
「だから、僕はこっそり三階から忍んできたんだけど」
「そういう危ないことはするなと言っただろう」

 アンが軽やかな足取りで部屋を出て、セルジオは部屋に残された。
 意味が分からない。
 どうしたらいいのかわからないので、身体が動かせない。
 アンは、逃走するつもりなどないのか。
 ジルコン王子の執着を嫌がっているわけでもないようだ。
 女子禁制のこのフロアに、アンはいるべきはない?
 それは、アンが男ではないから?
 セルジオは男ではないアンの騎士になった?
 自分はとてつもなく盛大な勘違いをしているような気がする。

「なんだ?まだお前の騎士は戸惑っているようだが、ちゃんと説明をしたのか?」
「したよ。いやしてなかったかも?」

 図書館でみたアデールの姫は、アンと同じ顔。
 はじめて会ったはずのセルジオを見て、彼女は驚いた。
 それは、セルジオを既に知っていたからだ。
 セルジオと、図書館で会うはずがないと思っていたから驚いたのだ。

「いい加減、彼が戸惑っているようだから、自分でしでかしたことには自分で始末をつけた方がいいのではないか?ロズ?」
 いわれてアンは振り返り、改めてセルジオに向き直る。
 申し訳なさそうにセルジオの顔をうかがった。
 その顔つきも、セルジオの知るアンの顔と微妙に違っている。
 表情が柔らかい。目元が別人のように緩んでいる。
 セルジオの呆然とした顔をみて、微笑を浮かべた。

「はじめましてになりますね。わたしは本当はロゼリアなの。自分の騎士を選ぶのに、勝手に決められるのが嫌だったの。ロゼリアとして参加できないから、ただのアンとして初めから参加させてもらった。最終面接にセルジオが合格してくれて嬉しいわ。知りもしない姫ではなくて、わたし自身を選んでくれたのがわかったから。わたしの無茶な望みをかなえようとしてくれた。障害物競争の時も、わたしの気持ちを汲んでくれて競争に参加させてくれた。本当にうれしかった」
「だそうだ。妬けるな。セルジオ、ついてこい。祝ってやる」

 セルジオは促されるままに部屋をでた。
 廊下には、ジルコン王子とスアレスの他に、10人の威厳に満ちた黒騎士たちが勢ぞろいしていた。

 どくどくと心臓が打ち始めた。
 熱い血が身体に巡りだす。


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