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【第3部 チェンジ】第七話 乱闘
72、告白 ①
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ジルコンはウォラスには厳しい視線を、ロゼリアには手を差し出した。
「立てるか?」
「だ、大丈夫、だと思う」
ジルコンに手を引かれ脇を抱えられてロゼリアは起き上がる。
がくがくと膝が震え、寒気がした。身体の震えはジルコンに伝わってしまうだろう。
普段は弱みを見せたくないロゼリアだったが、寄り添う身体の強さが安心感を誘う。
一見したら顔に傷を負い袖が引きちぎられ、全身泥だらけになっているジルコンの方が支えられているように見えたかもしれない。
他の者たちも解散だった。
立てない者に手を貸し、支えあいながら彼らはひとりふたりと乱闘の現場を後にしたのだった。
途中に手を貸そうとした者たちをすべて断り、ロゼリアの部屋に湯を運ぶように指示し部屋の中へジルコンは付き添ってくれる。
「ここは狭いな。俺の部屋の方が良かったか」
ジルコンはベッドと素材はいいが簡易な作りの棚やテーブルだけの小さな部屋をぐるりと見回している。
「ジルコンの部屋の方が落ち着かないからここでいい」
ロゼリアをベッドに座らせ、靴を脱ごうとしたロゼリアの指が震えるのを見て、代わりに泥だらけのブーツを脱がせてくれる。
届けられた湯の張る真鍮製のタライにタオルを絞った。
お手伝いします、という女官をジルコンはぞんざいに断る。
絞ったタオルをロゼリアの顔に押し付けた。
自分用にもタオルを拝借し自分の頭を顔をふく。
そでのほつれた上着もテーブルの上に脱ぎ、身体をひねり肩越しに背中の傷を検分する。
ロゼリアは自分の顔と首筋、足とズボンをまくり上げて届く範囲の素肌を清めた。
ジルコンの身体には無数の打撲痕らしきはれがある。引っかかれたような傷もあった。
古い傷もある。腕にはひきつれたような傷もある。
その鍛えられた筋肉質の体をロゼリアに惜しげもなく晒す。
ロゼリアはここで脱がないで欲しいと願うが、眼が離せない。
「診てもらいに医務室に行かないと」
「医務室は今は一杯だ。少し遅れていったほうがすんなり手当をしてもらえる」
女官は湯の張ったタライの他にもジルコンの楽な服も用意してくれていた。
ジルコンは体の状態を確認し終えると、上下ひとつなぎの服に袖を通し腰で留めた。
その下にひたりとしたズボンをはくべきだが、ジルコンのはいていたものは泥だらけである。
替えの下もお持ちします、と女官は言っていたのだったか。
夜着のような寛いだ格好で、ジルコンはロゼリアの前へ立つ。
「災難だったな、ウォラスは最近不安定だと思っていたが、あいつらをけしかけるとは思わなかった。またあいつらも問題を抱えてはいたが、エストが自立したように、ノルやラドーたちも歩み寄れるものだと思っていた。まさかウォラスの暇つぶしの口車に乗せられて実力行使をする程、バカなやつらだとは思わなかった。そして、その危険性を感じながら見逃してしまったわたしは、愚か者だ。アン、本当にすまなかった」
ロゼリアは悔し気にいうジルコンに片手を伸ばした。ジルコンは少しかがんだ。まるで手に吸い寄せられたかのようだった。ジルコンの頬の傷に触れる。ジルコンはひんやりとした感覚が気持ちがよかったのか、ロゼリアの手に手を重ね頬に押し付けた。
そのまま、ベッドの横にキシリと軋ませ座る。
「ココは誰にやられたの?」
ジルコンはきつく目をつぶった。
「ラシャール。俺は、あいつの頬に一発くらわせた。あいつはひるむことなく顔と腹に二発ぶち込んできた。あれだけ大勢いたのに、俺にはあいつしか見えていなかった。それはあいつだって同じようだった。あいつの緑の目は底光り、野生の豹のように獰猛に……」
ジルコンはまなこをひらいた。
正面から、ロゼリアを覗き込む形になっていた。
ロゼリアは手を引こうとしたが固く掴まれて抜けない。
まるで、こうしていないと駄目だというかのように。
光に透かせばどこまでも澄み渡る空のように青いその眼は、翳りをおびて夜空のようである。
くっきりとしたその眼にちろりちろりと光がゆれる。
「そもそもこの事件はラシャールと話をするために呼び出されたのがきっかけだった。ラシャールとあなたは何か関係があるのか教えて欲しい」
ジルコンは喉につかえた何かを吐き出すかのようにいった。
ジルコンはなぜロゼリアが一人であの場にいったのか疑っている。
その理由は、ロゼリアを呼びだした取り巻きたちが言っていたではないか。
パジャンのラシャールと裏で関係をもちつつ、ジルコンに取り入って寝首を掻くのではないのかとか、そのようなことを。
ジルコンも同じことを考えていることに、ロゼリアは愕然とする。
「ラシャールは、妹に婚約者に名乗り出る手紙を寄越していた。あなたが寄越したのとおんなじ時期に。ロゼリアはきちんと返事を返してなかったし、今でも何の返事も返していないのならば、わだかまっているのだと思う。手紙は具体的に呼び出された理由は書かれていなかったから、この際に僕からもきちんと断る必要があると思ったから」
なんて嘘っぽく自分の言葉はこの小さな部屋に響くのだろう。
あの手紙は、ロゼリアの男装の秘密を暴くことをほのめかすような手紙だと思ったのだった。
ロゼリアは、男装が長く続かないことを知っている。
アデールでも16歳までの予定だったのだ。母からは夏スクールの間はアンジュとしてがんばりなさいとはいわれていても、ロゼリアはもう潮時な感じがしていた。
狩りの前のジルコンとのデートは楽しかった。
今ももらった真珠のペンダントを付けている。
こんな風に、このままジルコンとアンジュとの思い出を積み重ねるよりも、女として、ロゼリアとして積み重ねていきたいと思うようになっている。
そのタイミングをロゼリアは図りかねていた。
実際にどのように、男装アンジュに幕を引かせるのかは具体的に考えていなかった。
手紙で呼びだしたラシャールの出方次第だとも思ってたところがある。
今のジルコンとの関係が心地よくて、タイミングを他人にゆだねてしまった。
だから、行ったのだ。
「断るのならば、人目もつかないような森に足を踏み入れることはなかったのではないか?むしろ、俺か、誰か利害関係が抵触しなさそうなやつに同席させてきちんと断ればよかったのではないか?」
ようやくロゼリアの手が解放されたが、それはジルコンが偽の手紙を読みたかったためだ。
手紙に目を通すジルコンの顔は、にわかにゆがむ。
「これをウォラスが書いたとしても、最近、あなたを遠方で眺める日々が続いているとか、ふたりだけの時間がほしいとか、おもわせぶりな書き方なのに、あなたはこれをロゼリア姫の婚約のことだと思ったのか?ラシャール殿は男が好きだという噂がある。あなたも、少しは期待していたのではないのか?冒頭の最近はという言葉は、以前はあなたとラシャール殿は関係があったということを匂わしているのではないか?だから、ラシャール殿からの手紙だと疑わなかったのではないか?」
ロゼリアは絶句する。
ジルコンはロゼリアがラシャールと通じていることを疑っていた。
「まるで、ノルやフィンたちと同じようなことを言うんだね。ジルコンにも疑われているとは思わなかった」
ジルコンは激昂した。
Lの手紙を握りつぶした。
「こんな手紙でのこのこと一人で行くからだろ!バルドはあなたを後ろから羽交い絞めにしていた。あなたは胸元まではだけさせて髪を乱し真白な顔をしていた。それを見たとき、俺は自分の中には抑えられない怒りの衝動があることを知った!」
ジルコンは肩で息を継ぐ。
ロゼリアはジルコンの感情の強さに圧倒された。今やロゼリアを脅かすのはジルコン。
ジルコンは手紙を握りつぶしたまま、自分の顔を両のこぶしに押し付ける。
「ラシャールの男好きが噂にすぎないのであれば、あいつはあなたに双子の妹を重ねて見ているのではないか?」
「そんなことは、ないと思う」
ロゼリアは否定する。
「あなたは、あなたのことを他人がどう思っているのかわかるというのか。相手の気持ちが読めるほど、彼と知り合いであるとでもいうのか?」
ロゼリアはその言葉の冷たさと、言葉ににじむ苦悩に、背筋がぞくりときたのだった。
「立てるか?」
「だ、大丈夫、だと思う」
ジルコンに手を引かれ脇を抱えられてロゼリアは起き上がる。
がくがくと膝が震え、寒気がした。身体の震えはジルコンに伝わってしまうだろう。
普段は弱みを見せたくないロゼリアだったが、寄り添う身体の強さが安心感を誘う。
一見したら顔に傷を負い袖が引きちぎられ、全身泥だらけになっているジルコンの方が支えられているように見えたかもしれない。
他の者たちも解散だった。
立てない者に手を貸し、支えあいながら彼らはひとりふたりと乱闘の現場を後にしたのだった。
途中に手を貸そうとした者たちをすべて断り、ロゼリアの部屋に湯を運ぶように指示し部屋の中へジルコンは付き添ってくれる。
「ここは狭いな。俺の部屋の方が良かったか」
ジルコンはベッドと素材はいいが簡易な作りの棚やテーブルだけの小さな部屋をぐるりと見回している。
「ジルコンの部屋の方が落ち着かないからここでいい」
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届けられた湯の張る真鍮製のタライにタオルを絞った。
お手伝いします、という女官をジルコンはぞんざいに断る。
絞ったタオルをロゼリアの顔に押し付けた。
自分用にもタオルを拝借し自分の頭を顔をふく。
そでのほつれた上着もテーブルの上に脱ぎ、身体をひねり肩越しに背中の傷を検分する。
ロゼリアは自分の顔と首筋、足とズボンをまくり上げて届く範囲の素肌を清めた。
ジルコンの身体には無数の打撲痕らしきはれがある。引っかかれたような傷もあった。
古い傷もある。腕にはひきつれたような傷もある。
その鍛えられた筋肉質の体をロゼリアに惜しげもなく晒す。
ロゼリアはここで脱がないで欲しいと願うが、眼が離せない。
「診てもらいに医務室に行かないと」
「医務室は今は一杯だ。少し遅れていったほうがすんなり手当をしてもらえる」
女官は湯の張ったタライの他にもジルコンの楽な服も用意してくれていた。
ジルコンは体の状態を確認し終えると、上下ひとつなぎの服に袖を通し腰で留めた。
その下にひたりとしたズボンをはくべきだが、ジルコンのはいていたものは泥だらけである。
替えの下もお持ちします、と女官は言っていたのだったか。
夜着のような寛いだ格好で、ジルコンはロゼリアの前へ立つ。
「災難だったな、ウォラスは最近不安定だと思っていたが、あいつらをけしかけるとは思わなかった。またあいつらも問題を抱えてはいたが、エストが自立したように、ノルやラドーたちも歩み寄れるものだと思っていた。まさかウォラスの暇つぶしの口車に乗せられて実力行使をする程、バカなやつらだとは思わなかった。そして、その危険性を感じながら見逃してしまったわたしは、愚か者だ。アン、本当にすまなかった」
ロゼリアは悔し気にいうジルコンに片手を伸ばした。ジルコンは少しかがんだ。まるで手に吸い寄せられたかのようだった。ジルコンの頬の傷に触れる。ジルコンはひんやりとした感覚が気持ちがよかったのか、ロゼリアの手に手を重ね頬に押し付けた。
そのまま、ベッドの横にキシリと軋ませ座る。
「ココは誰にやられたの?」
ジルコンはきつく目をつぶった。
「ラシャール。俺は、あいつの頬に一発くらわせた。あいつはひるむことなく顔と腹に二発ぶち込んできた。あれだけ大勢いたのに、俺にはあいつしか見えていなかった。それはあいつだって同じようだった。あいつの緑の目は底光り、野生の豹のように獰猛に……」
ジルコンはまなこをひらいた。
正面から、ロゼリアを覗き込む形になっていた。
ロゼリアは手を引こうとしたが固く掴まれて抜けない。
まるで、こうしていないと駄目だというかのように。
光に透かせばどこまでも澄み渡る空のように青いその眼は、翳りをおびて夜空のようである。
くっきりとしたその眼にちろりちろりと光がゆれる。
「そもそもこの事件はラシャールと話をするために呼び出されたのがきっかけだった。ラシャールとあなたは何か関係があるのか教えて欲しい」
ジルコンは喉につかえた何かを吐き出すかのようにいった。
ジルコンはなぜロゼリアが一人であの場にいったのか疑っている。
その理由は、ロゼリアを呼びだした取り巻きたちが言っていたではないか。
パジャンのラシャールと裏で関係をもちつつ、ジルコンに取り入って寝首を掻くのではないのかとか、そのようなことを。
ジルコンも同じことを考えていることに、ロゼリアは愕然とする。
「ラシャールは、妹に婚約者に名乗り出る手紙を寄越していた。あなたが寄越したのとおんなじ時期に。ロゼリアはきちんと返事を返してなかったし、今でも何の返事も返していないのならば、わだかまっているのだと思う。手紙は具体的に呼び出された理由は書かれていなかったから、この際に僕からもきちんと断る必要があると思ったから」
なんて嘘っぽく自分の言葉はこの小さな部屋に響くのだろう。
あの手紙は、ロゼリアの男装の秘密を暴くことをほのめかすような手紙だと思ったのだった。
ロゼリアは、男装が長く続かないことを知っている。
アデールでも16歳までの予定だったのだ。母からは夏スクールの間はアンジュとしてがんばりなさいとはいわれていても、ロゼリアはもう潮時な感じがしていた。
狩りの前のジルコンとのデートは楽しかった。
今ももらった真珠のペンダントを付けている。
こんな風に、このままジルコンとアンジュとの思い出を積み重ねるよりも、女として、ロゼリアとして積み重ねていきたいと思うようになっている。
そのタイミングをロゼリアは図りかねていた。
実際にどのように、男装アンジュに幕を引かせるのかは具体的に考えていなかった。
手紙で呼びだしたラシャールの出方次第だとも思ってたところがある。
今のジルコンとの関係が心地よくて、タイミングを他人にゆだねてしまった。
だから、行ったのだ。
「断るのならば、人目もつかないような森に足を踏み入れることはなかったのではないか?むしろ、俺か、誰か利害関係が抵触しなさそうなやつに同席させてきちんと断ればよかったのではないか?」
ようやくロゼリアの手が解放されたが、それはジルコンが偽の手紙を読みたかったためだ。
手紙に目を通すジルコンの顔は、にわかにゆがむ。
「これをウォラスが書いたとしても、最近、あなたを遠方で眺める日々が続いているとか、ふたりだけの時間がほしいとか、おもわせぶりな書き方なのに、あなたはこれをロゼリア姫の婚約のことだと思ったのか?ラシャール殿は男が好きだという噂がある。あなたも、少しは期待していたのではないのか?冒頭の最近はという言葉は、以前はあなたとラシャール殿は関係があったということを匂わしているのではないか?だから、ラシャール殿からの手紙だと疑わなかったのではないか?」
ロゼリアは絶句する。
ジルコンはロゼリアがラシャールと通じていることを疑っていた。
「まるで、ノルやフィンたちと同じようなことを言うんだね。ジルコンにも疑われているとは思わなかった」
ジルコンは激昂した。
Lの手紙を握りつぶした。
「こんな手紙でのこのこと一人で行くからだろ!バルドはあなたを後ろから羽交い絞めにしていた。あなたは胸元まではだけさせて髪を乱し真白な顔をしていた。それを見たとき、俺は自分の中には抑えられない怒りの衝動があることを知った!」
ジルコンは肩で息を継ぐ。
ロゼリアはジルコンの感情の強さに圧倒された。今やロゼリアを脅かすのはジルコン。
ジルコンは手紙を握りつぶしたまま、自分の顔を両のこぶしに押し付ける。
「ラシャールの男好きが噂にすぎないのであれば、あいつはあなたに双子の妹を重ねて見ているのではないか?」
「そんなことは、ないと思う」
ロゼリアは否定する。
「あなたは、あなたのことを他人がどう思っているのかわかるというのか。相手の気持ちが読めるほど、彼と知り合いであるとでもいうのか?」
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