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第二話 16歳の誕生日
20、エール国に行くのは誰?④
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お転婆な姫も、あれからちゃんと姫になったようだった。
ジルコンは、子供の頃にロゼリアが告白した、国家ぐるみの男女の入れ替わりを完全に信じていたわけではない。
あの頃はもしかして入れ替わっていたのかもしれないが、それも早々に切り上げられただろうと思う。
あの当時のわずかな期間だけだったのかもしれない。
男は男、女は女なのだ。
ジルコンの手から震えながらするりと抜けた姫の姿をジルコンは目で追う。
エール国の妻としても表にでても恥ずかしくないほどの美しさである。
ただ、昔のやんちゃなふるまいが姫として躾けられ、馴らされてしまっていた。
記憶の中の女の子があのまま育ったらどうなるか、想像したこともあるジルコンは一抹の寂しさを感じるが、振り払う。
ジルコンはもともと女にはあまり期待していない。
女は見目好くおしとやかで口答えをせず、粛々と受け入れてくれればいいのだから。
この訪問の理由はもう王にも王妃にも伝えてあった。
お願いという形ではあったが、それは形ばかりのもの。
アデール国には拒否権はないことはいくら世情に疎くても王と王妃ならわかっているはずである。
「先ほど、王と王妃にご了解をいただきました。このままあなたを我が妻にすることが、この訪問の最大の目的なのです」
あらためて姫に申し込む。
姫は大きく目を見開いた。
その目は動揺して泳ぐ。同じ顔の兄王子に向かう。
その王子は恐怖に似た色をその目に宿らせ、ジルコンを真正面から見返した。
ジルコンのどこか期待していた通りに、王子は吠えた。
「襲われるようなことが日常のような危険なお前の傍に、かわいい、い、妹をやれるわけなんかないだろう!」
「アンジュ、何をいうのですか、黙りなさい」
王妃は語気鋭く諫めた。
兄に助けを求める妹も妹だと思うが、やはり、この王子は甘ちゃん王子だった。
ジルコンは怒りに燃える王子に扮するロゼリアをみた。
なぜか、この己の心に正直でまっすぐな田舎の王子が好ましく思えてしまう。
「どうやら、お兄さまはあなたを奪われることがいやなようですね。姫はどうなのですか?わたしとのご結婚はおいやですか?」
ジルコンは姫に振る。だが、その視線は王子から離せない。
「わたくしは、、、兄の意見に従います」
周囲の思いに気を配れる女のようだった。
それは良い資質に思えた。
くすりとジルコンは笑った。
「アンジュ王子、あなたの発言はロゼリア姫の結婚を左右し、強いては、アデール国の命運を左右するようだ。
あなたは、ちゃんと冷静に物事を総合的に判断できているのか?」
「い、妹を人質なんかにしない。愛のない結婚はさせない」
ジルコンは小さくため息をつく。
今度はベッドで成り行きを静かに見守るベルゼ王に向き合った。
「なるほど、わかりました。この結婚には最大の問題点がありますね。双子の王子と姫の精神的な結びつきが強くて、姫はご自分のことも全て兄の判断に任せてしまう。
だが、残念なことに兄の方は、こういってはなんだが、もっと良い表現があるとよいのだが、思い付かなくて本当に申し訳ないのだが、兄の方は足りていない。冷静に状況を判断する情報であり、考え方であり、己の判断の及ぼす意味。
小さな森の国の村の視点ではなくて、もっと大きく対局を見極める俯瞰した視野。
物事をおのれだけの考えでしか測れないと、この大陸は血で血を洗う戦乱の時代に突入する。それがあなたのご子息にはわかないようで大変残念だ」
ロゼリアは、ジルコンの、己の足りていない発言に頭に血が上る。
だが、最後まで聞くうちにその頭に上った血は降りていく。
ロゼリアが押し黙り、ようやく聞く耳ができたことをジルコンは確認する。
今度は、きちんとロゼリアに真正面から向き合った。
「では、アンジュ王子よ。今回のわたしの目的は姫を持ち帰ることであったが、まずはあなたと姫が別個の独立した人間であるということを理解してもらった方が良いようだ。
あなたは、命の危険が日常であるようなところへかわいい妹をやることがどうしてもできないのだろう?
なら、ロゼリア姫にはこのままこの国にいていただき、その代わり、あなたがこの国をでないか?」
ロゼリアはその意味が分からずジルコンの顔を凝視する。
「おま、、あなたについて国を出てどうするのですか」
「あなたは、この小さくて居心地の良い安全な檻からでて、もっと壮大に広がる世界へ出てその狭い了見を広げたらいい。目と耳を養い、俺を説得できるだけの力を得るがいい。俺についてこい。面白いものを見せてやる」
自信に溢れた笑顔がそこにあった。
「結婚も、本当は何もいますぐでなくてもいいと俺は思っている。婚約ということでもいい。
結婚までの暫しの猶予となり、そして王子には社会を知る勉強の機会となる。
丁度、諸国の主要どころの若者を集めて俺主催の勉強会を開いている。
次世代の俺たちが思い描く世界が、そのまま俺たちの世界になるからだ。
もっと平和で豊かで住みよい世界にしたいと、あなたも思うだろう?
生まれたときから絡みついた双子の絆も断ち切ることができるだろう。
世界の情勢に疎くて、祖国を守れると思うのか?アンジュ王子?
この大陸のどこかで誰かがひどい風邪をひけば、その影響は安全だと思っているアデールにも及ぶぞ?それをだまって見ているのか?なんの働きかけもできず翻弄されるだけでそれでいいのか?それが嫌なら俺についてこい。
それにわたしとあなたが友情を築ければ、親世代に引き続いての確かな友好国と成れよう」
わたしから俺に変わっている。
気取ったところのない素顔をジルコンは見せていた。
ジルコンは、子供の頃にロゼリアが告白した、国家ぐるみの男女の入れ替わりを完全に信じていたわけではない。
あの頃はもしかして入れ替わっていたのかもしれないが、それも早々に切り上げられただろうと思う。
あの当時のわずかな期間だけだったのかもしれない。
男は男、女は女なのだ。
ジルコンの手から震えながらするりと抜けた姫の姿をジルコンは目で追う。
エール国の妻としても表にでても恥ずかしくないほどの美しさである。
ただ、昔のやんちゃなふるまいが姫として躾けられ、馴らされてしまっていた。
記憶の中の女の子があのまま育ったらどうなるか、想像したこともあるジルコンは一抹の寂しさを感じるが、振り払う。
ジルコンはもともと女にはあまり期待していない。
女は見目好くおしとやかで口答えをせず、粛々と受け入れてくれればいいのだから。
この訪問の理由はもう王にも王妃にも伝えてあった。
お願いという形ではあったが、それは形ばかりのもの。
アデール国には拒否権はないことはいくら世情に疎くても王と王妃ならわかっているはずである。
「先ほど、王と王妃にご了解をいただきました。このままあなたを我が妻にすることが、この訪問の最大の目的なのです」
あらためて姫に申し込む。
姫は大きく目を見開いた。
その目は動揺して泳ぐ。同じ顔の兄王子に向かう。
その王子は恐怖に似た色をその目に宿らせ、ジルコンを真正面から見返した。
ジルコンのどこか期待していた通りに、王子は吠えた。
「襲われるようなことが日常のような危険なお前の傍に、かわいい、い、妹をやれるわけなんかないだろう!」
「アンジュ、何をいうのですか、黙りなさい」
王妃は語気鋭く諫めた。
兄に助けを求める妹も妹だと思うが、やはり、この王子は甘ちゃん王子だった。
ジルコンは怒りに燃える王子に扮するロゼリアをみた。
なぜか、この己の心に正直でまっすぐな田舎の王子が好ましく思えてしまう。
「どうやら、お兄さまはあなたを奪われることがいやなようですね。姫はどうなのですか?わたしとのご結婚はおいやですか?」
ジルコンは姫に振る。だが、その視線は王子から離せない。
「わたくしは、、、兄の意見に従います」
周囲の思いに気を配れる女のようだった。
それは良い資質に思えた。
くすりとジルコンは笑った。
「アンジュ王子、あなたの発言はロゼリア姫の結婚を左右し、強いては、アデール国の命運を左右するようだ。
あなたは、ちゃんと冷静に物事を総合的に判断できているのか?」
「い、妹を人質なんかにしない。愛のない結婚はさせない」
ジルコンは小さくため息をつく。
今度はベッドで成り行きを静かに見守るベルゼ王に向き合った。
「なるほど、わかりました。この結婚には最大の問題点がありますね。双子の王子と姫の精神的な結びつきが強くて、姫はご自分のことも全て兄の判断に任せてしまう。
だが、残念なことに兄の方は、こういってはなんだが、もっと良い表現があるとよいのだが、思い付かなくて本当に申し訳ないのだが、兄の方は足りていない。冷静に状況を判断する情報であり、考え方であり、己の判断の及ぼす意味。
小さな森の国の村の視点ではなくて、もっと大きく対局を見極める俯瞰した視野。
物事をおのれだけの考えでしか測れないと、この大陸は血で血を洗う戦乱の時代に突入する。それがあなたのご子息にはわかないようで大変残念だ」
ロゼリアは、ジルコンの、己の足りていない発言に頭に血が上る。
だが、最後まで聞くうちにその頭に上った血は降りていく。
ロゼリアが押し黙り、ようやく聞く耳ができたことをジルコンは確認する。
今度は、きちんとロゼリアに真正面から向き合った。
「では、アンジュ王子よ。今回のわたしの目的は姫を持ち帰ることであったが、まずはあなたと姫が別個の独立した人間であるということを理解してもらった方が良いようだ。
あなたは、命の危険が日常であるようなところへかわいい妹をやることがどうしてもできないのだろう?
なら、ロゼリア姫にはこのままこの国にいていただき、その代わり、あなたがこの国をでないか?」
ロゼリアはその意味が分からずジルコンの顔を凝視する。
「おま、、あなたについて国を出てどうするのですか」
「あなたは、この小さくて居心地の良い安全な檻からでて、もっと壮大に広がる世界へ出てその狭い了見を広げたらいい。目と耳を養い、俺を説得できるだけの力を得るがいい。俺についてこい。面白いものを見せてやる」
自信に溢れた笑顔がそこにあった。
「結婚も、本当は何もいますぐでなくてもいいと俺は思っている。婚約ということでもいい。
結婚までの暫しの猶予となり、そして王子には社会を知る勉強の機会となる。
丁度、諸国の主要どころの若者を集めて俺主催の勉強会を開いている。
次世代の俺たちが思い描く世界が、そのまま俺たちの世界になるからだ。
もっと平和で豊かで住みよい世界にしたいと、あなたも思うだろう?
生まれたときから絡みついた双子の絆も断ち切ることができるだろう。
世界の情勢に疎くて、祖国を守れると思うのか?アンジュ王子?
この大陸のどこかで誰かがひどい風邪をひけば、その影響は安全だと思っているアデールにも及ぶぞ?それをだまって見ているのか?なんの働きかけもできず翻弄されるだけでそれでいいのか?それが嫌なら俺についてこい。
それにわたしとあなたが友情を築ければ、親世代に引き続いての確かな友好国と成れよう」
わたしから俺に変わっている。
気取ったところのない素顔をジルコンは見せていた。
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