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【番外編2】
その4、蛇革のベルト ①
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ロゼリアは持ち帰ったそれを持てあましていた。
それとはクロと夜月が格闘し、勝利の興奮に酔いしれながら肉を食い散らかした、爬虫類の残骸。
マムシである。
食ったのは腹の柔らかい部分のみで、それもすべてではない。
ロゼリアが口に含んでしまった毒のせいで朦朧となりながらも持ち帰りを頑固に指示したらしく、ロサンやジムがそういっているのだからその通りだと思うのだが、いったんロゼリアの部屋に運び込まれていた。
そしてそのまま、再び鶏たちの餌になることもなくベランダに放置されていたのである。
恐らく自分の思考の流れとしては、万が一マムシでない毒蛇だったときのための保険のようなものだったのだと思う。
そして、その保険は活用されることはなかった。
既になにか嫌なにおいが漂いはじめている。
早急な処分が必要だった。
ロゼリアは小さく丸めて何重にも袋に入れて密封する。
「大きな蛇なら蛇革になるかもね」
ウォラスが狩り場に行く途中に言っていたことを思い出す。
そこで狩りから戻ってきて二日目の夕方、ロゼリアは王城を抜け出した。
仕立て屋のシリルにこの厄介でしかないものを押し付けてしまおうと思ったのだった。
露店はもう終い支度だった。
ロゼリアが声をかけると、屋台の骨を畳んでいたシリルは振り返り、店じまいだよ!というが誰が声をかけたかわかると笑顔になった。シリルはすぐに鼻に皺をよせた。
「久々で嬉しいんだけど、あんたすごい匂いがしてないか?」
「これ、処分をお願いできないかな」
「クサ!なんだよ、これ」
ロゼリアが突き出したものをシリルは受け取とりながらも顔を背けている。
いただけるものは頂いて置くという普段の主義が裏目にでている。
ロゼリアは両手を上げた。
返却不可の万国共通ボディーランゲージである。
「肉付きマムシ!昨日狩りをして鶏が捕まえて食ったんだけど。つまみ食い程度でごっそり残したんだ。これを革に替えることができると思う?」
「そりゃ、できると思うけど。知り合いに頼んでやる。鶏が皮を傷つけていたら傷だらけのものになるかもしれないけどな。この重さからすればかなりの大物のようだな」
「優に手首の太さと以上二メートルあった」
「革になったものはなんにでも仕立てることができるよ。蛇革で何を作りたいんだよ?」
まだ誰にあげるか何をあげるかも考えていない。
ひとまずシリルがなんとかしてくれそうなのでほっとする。
ロゼリアの代わりにマムシの注意を引き受けてくれたエストに何かをと思うが、噛まれたマムシの革の細工物などもらってもうれしくないかもしれなかった。それに、美意識が高すぎて拒絶されそうな気がした。
次に浮かんだのはジルコン。
ジルコンは、婚約者である自分のために、服やら布やら様々なものを贈ってくれている。
それに対しては、アデール国で受け取っているだろう母やアンジュがうまくしてくれるだろうと思うが、王都で過ごした一日は、イノシシ事件が起こるまでとても良かった。
エールに至る旅路も楽しかったが、二人でお忍びで自由に遊んだ時間はそれにまさるとも劣らないと思えるほど楽しかったのである。
そんな楽しい時間を過ごせたお礼に、何かジルコンに良さげなものを贈りたいと思う。
「それで何ができると思う?」
シリルはロゼリアから受け取った包みを手近にあった風呂敷に厳重に包んだ。
その風呂敷がおんぼろだったところから、そのまま臭いの染み付いた風呂敷を捨てるつもりであることが伝わってくる。
シリルは手を上下させて目方をはかった。
「鶏の爪にやられていないきれいなところを使うだろうから、その使えるところの量によると思うけど、ベルトや、サンダル、ブーツ、財布、バングル、楽器。なんでもできるよ。何を作りたいかだな」
「じゃあ、ベルトとサンダル?ベルトは中肉中背の男物で。サンダルは、僕がはく」
「男の時用か、女の時用か?」
シリルはロゼリアがアンではなくてロズになるための着替えの場所を提供している。
そんなに頻繁には変身しないが、念のためである。
「男と女では違うの?」
「そりゃあ違うだろ。女ものは足をキレイにみせるためのヒールをつけることが多い。男物を女がはいてもいいが、身体に楽だけど色気はヒールの物より断然劣る。というよりない。で?どっちだ?」
「色気……」
ロゼリアは色気を漂わせる自分というものが想像できなかった。これまでの人生において無縁のものである。
浮かんだのはジルコンはベルト、ロゼリアはヒールのサンダルでこんどは恋人として街を探索する姿である。
ロゼリアは女用を頼んだのだった。
そして一週間もたつ頃、出来上がったベルトが王城のロゼリアの部屋に届けられていた。
夕食を終えて部屋に戻ってきたロゼリアは机の上に置かれた包みがなにか開けなくてもすぐにわかる。
今日か明日かと心待ちにしていたのだった。
きれいに包まれた布を解くと、さらに白い薄紙で包まれたものが出てくる。
その中には、真新しいベルトが出ててきた。
鱗はキレイになめされて別の革で裏打し補強され、あわく銀色に輝いている。
ほれぼれするようなでき映えの素晴らしいベルトであった。
もう一つ、男物のサンダルが出てくる。サイズはロゼリアの物である。
添えられた手紙には、革が余ったので男用も作ったとのこと。
女用のサンダルは店に保管してくれるそうである。
これらの報酬は、あまり革でいいとのこと。
蛇革の細工物はとても珍しく、縁起物でもあるそうで、あまり革からバングルやら細いベルトやら小物をつくって売れば、それなりの収入になるそうである。
そこで、ロゼリアはベルトを前にして立ち尽くした。
早速ジルコンに渡したいが、あまり人目につくようには渡したくない。
王都のお忍びのお礼にしても、もう一週間も時間が空いてしまっている。
あまり間があくと、間抜けになってしまうではないか。
なにより出来栄えのすばらしさに、ロゼリアはすぐにでもジルコンに渡したくなったのである。
それとはクロと夜月が格闘し、勝利の興奮に酔いしれながら肉を食い散らかした、爬虫類の残骸。
マムシである。
食ったのは腹の柔らかい部分のみで、それもすべてではない。
ロゼリアが口に含んでしまった毒のせいで朦朧となりながらも持ち帰りを頑固に指示したらしく、ロサンやジムがそういっているのだからその通りだと思うのだが、いったんロゼリアの部屋に運び込まれていた。
そしてそのまま、再び鶏たちの餌になることもなくベランダに放置されていたのである。
恐らく自分の思考の流れとしては、万が一マムシでない毒蛇だったときのための保険のようなものだったのだと思う。
そして、その保険は活用されることはなかった。
既になにか嫌なにおいが漂いはじめている。
早急な処分が必要だった。
ロゼリアは小さく丸めて何重にも袋に入れて密封する。
「大きな蛇なら蛇革になるかもね」
ウォラスが狩り場に行く途中に言っていたことを思い出す。
そこで狩りから戻ってきて二日目の夕方、ロゼリアは王城を抜け出した。
仕立て屋のシリルにこの厄介でしかないものを押し付けてしまおうと思ったのだった。
露店はもう終い支度だった。
ロゼリアが声をかけると、屋台の骨を畳んでいたシリルは振り返り、店じまいだよ!というが誰が声をかけたかわかると笑顔になった。シリルはすぐに鼻に皺をよせた。
「久々で嬉しいんだけど、あんたすごい匂いがしてないか?」
「これ、処分をお願いできないかな」
「クサ!なんだよ、これ」
ロゼリアが突き出したものをシリルは受け取とりながらも顔を背けている。
いただけるものは頂いて置くという普段の主義が裏目にでている。
ロゼリアは両手を上げた。
返却不可の万国共通ボディーランゲージである。
「肉付きマムシ!昨日狩りをして鶏が捕まえて食ったんだけど。つまみ食い程度でごっそり残したんだ。これを革に替えることができると思う?」
「そりゃ、できると思うけど。知り合いに頼んでやる。鶏が皮を傷つけていたら傷だらけのものになるかもしれないけどな。この重さからすればかなりの大物のようだな」
「優に手首の太さと以上二メートルあった」
「革になったものはなんにでも仕立てることができるよ。蛇革で何を作りたいんだよ?」
まだ誰にあげるか何をあげるかも考えていない。
ひとまずシリルがなんとかしてくれそうなのでほっとする。
ロゼリアの代わりにマムシの注意を引き受けてくれたエストに何かをと思うが、噛まれたマムシの革の細工物などもらってもうれしくないかもしれなかった。それに、美意識が高すぎて拒絶されそうな気がした。
次に浮かんだのはジルコン。
ジルコンは、婚約者である自分のために、服やら布やら様々なものを贈ってくれている。
それに対しては、アデール国で受け取っているだろう母やアンジュがうまくしてくれるだろうと思うが、王都で過ごした一日は、イノシシ事件が起こるまでとても良かった。
エールに至る旅路も楽しかったが、二人でお忍びで自由に遊んだ時間はそれにまさるとも劣らないと思えるほど楽しかったのである。
そんな楽しい時間を過ごせたお礼に、何かジルコンに良さげなものを贈りたいと思う。
「それで何ができると思う?」
シリルはロゼリアから受け取った包みを手近にあった風呂敷に厳重に包んだ。
その風呂敷がおんぼろだったところから、そのまま臭いの染み付いた風呂敷を捨てるつもりであることが伝わってくる。
シリルは手を上下させて目方をはかった。
「鶏の爪にやられていないきれいなところを使うだろうから、その使えるところの量によると思うけど、ベルトや、サンダル、ブーツ、財布、バングル、楽器。なんでもできるよ。何を作りたいかだな」
「じゃあ、ベルトとサンダル?ベルトは中肉中背の男物で。サンダルは、僕がはく」
「男の時用か、女の時用か?」
シリルはロゼリアがアンではなくてロズになるための着替えの場所を提供している。
そんなに頻繁には変身しないが、念のためである。
「男と女では違うの?」
「そりゃあ違うだろ。女ものは足をキレイにみせるためのヒールをつけることが多い。男物を女がはいてもいいが、身体に楽だけど色気はヒールの物より断然劣る。というよりない。で?どっちだ?」
「色気……」
ロゼリアは色気を漂わせる自分というものが想像できなかった。これまでの人生において無縁のものである。
浮かんだのはジルコンはベルト、ロゼリアはヒールのサンダルでこんどは恋人として街を探索する姿である。
ロゼリアは女用を頼んだのだった。
そして一週間もたつ頃、出来上がったベルトが王城のロゼリアの部屋に届けられていた。
夕食を終えて部屋に戻ってきたロゼリアは机の上に置かれた包みがなにか開けなくてもすぐにわかる。
今日か明日かと心待ちにしていたのだった。
きれいに包まれた布を解くと、さらに白い薄紙で包まれたものが出てくる。
その中には、真新しいベルトが出ててきた。
鱗はキレイになめされて別の革で裏打し補強され、あわく銀色に輝いている。
ほれぼれするようなでき映えの素晴らしいベルトであった。
もう一つ、男物のサンダルが出てくる。サイズはロゼリアの物である。
添えられた手紙には、革が余ったので男用も作ったとのこと。
女用のサンダルは店に保管してくれるそうである。
これらの報酬は、あまり革でいいとのこと。
蛇革の細工物はとても珍しく、縁起物でもあるそうで、あまり革からバングルやら細いベルトやら小物をつくって売れば、それなりの収入になるそうである。
そこで、ロゼリアはベルトを前にして立ち尽くした。
早速ジルコンに渡したいが、あまり人目につくようには渡したくない。
王都のお忍びのお礼にしても、もう一週間も時間が空いてしまっている。
あまり間があくと、間抜けになってしまうではないか。
なにより出来栄えのすばらしさに、ロゼリアはすぐにでもジルコンに渡したくなったのである。
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