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第十二話 雨乞い祈願
122-1、雨乞い祈願 ①
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早朝、ロゼリアはララにシーツをむしられるようにして起こされることになった。
「ロゼリアさま、おはようございます!早く身支度をなさらないといけません。祈願に参加される皆さまはもう向かわれております」
顔を清めるためのタライにはいつもの半分ほどしか水が張っていない。
こぼさないようにしながら顔を洗う。
ロゼリアはララに追い立てられるようにして、用意された胸を合わせる白い服に袖を通し髪に櫛を入れた。
ララは化粧水を肌に、ローズオイルを肌と髪になじませてくれる。
「わたしは雨乞い祈願の儀式がどんな風に行われるのかわからないんだけれど」
「大丈夫です。初めは王と王妃がされますから、それを見ていればやるべきことがわかりますよ。儀式を執り行う他の者たちも数年に一度形式ばかりですが王家の神事として行われておりましたから、慣れております。ただ、今回は代役も立てられた長丁場のものになるというだけで、そう変わりはないはずですから」
「供物とか生贄とか人身御供とか?」
不謹慎だとは思うが、未知なるものにわくわくする気持ちを押さえられずロゼリアは言う。
「人身御供はございませんよ!どこで吹き込まれてきたのですか。人柱が立ったのは随分昔です。それよりも早く召し上がってください。ゆっくりと食事をしている時間がもうありません」
パンの間にポテトサラダ、塩漬けの肉を挟む肉厚のサンドイッチとチーズといった朝食である。
サンドイッチには薄くスライスしたリンゴも入っていて、デザートも兼ねている。
手づかみで食べた。
普段作法にうるさいララを前にしてあり得ない不作法であるが、緊急事態で許されている。
食事はこのところ、非常食を組み合わせたもので、あふれるばかりだった少し前とは全く違っている。
口をゆすぐのを待って、ララはロゼリアの頭に白いシルクのショールを被せた。
ロゼリアは扉を開けて目をみはることになる。
ジュリアに、イリス、ロレット。このところ部屋から夏バテででてこなかったベラまで扉の向こう側で待っていた。
ロゼリアが身にまとう衣装と同じ形ではあるが、浅葱色に染められた衣装を着ている。
そして肩には青いシルクのショール。
ロゼリアがでてくると一斉に頭を下げた。
「これは何事。いつからそこで……」
波打つ水辺のような景色と仰々しさに、ロゼリアは部屋から出づらくなる。
ジュリアはこの国の姫である。
その姫が視線を伏せ自分に頭を下げているのはあり得ない光景である。
そして一向に頭を上げる気配もない。
「もういいから頭をあげてください」
「雨乞いの妻になられるロゼリアさまに付き添いを許され光栄です」
ジュリアが代表し、恭しくいう。
背後のイリスの顔には悔しさがにじんでいる。
「ロゼリアさまのお付き添いは、現在残っているエール側の女子たちに頼みました。パジャンの方々にはご理解いただけないようで、お断りされました。宗教行事になりますので、難しいところがあるのでしょう。まずは10人いらっしゃれば十分です。彼女たちも長丁場になるので、ロゼリアさまの出番と同時に、王妃さまのおつきの者たちと入れ替わることになります」
ララの言うようにレベッカの姿はなかった。
「わたしに10人、王妃さまに10人。というと、フォルス王とジルコンもそれぞれ10人つけるのならば、40人の儀式ということ?」
「主役が入れ替われば、おつきの者も入れ替わるので常に20人。それに楽団が10名。楽団も入れ替わるのでさらに10名。食事や衣装やかがり火などをお手伝いする者がいて、総勢100名以上です。護衛の数はいれておりません」
「そんな、大々的なものだとは思わなかったわ」
「王家主催の雨乞いの儀式ですから当然です。成功しなければ飢饉もありえますから」
ロゼリアはごくりと生唾を飲み込む。
ただの代役のつもりが大変なものを引き受けてしまったという後悔がよぎる。
「ララは、儀式の衣裳を着ていないのはどうして?」
「わたしは、ご案内してすぐに城に戻ります。王妃がいなくなる王城での采配をお戻りになられるまでわたしがすることになりましたので」
そういいつつ、いつもの女官の服に、ジュリアたちと同じ淡い青のショールを頭からかぶる。ララに合わせてジュリアたちも同様に肩のショールを頭へとかぶり直す。彼女たちは始終無言で、何を考えているかわからない。
ララを先頭にしてロゼリアはジュリア達を引き継れ、鎮守の森に入り歩き続ける。まだ涼しい時間帯である。昼間の時間帯なら汗だくになっていただろう。
直射日光が当たるところの雑草は枯れ、既に踏みつけられていたが、ロゼリアたちの足裏で軽いはじけるような音をたてた。その音だけが響く。
「ロゼリアさま、おはようございます!早く身支度をなさらないといけません。祈願に参加される皆さまはもう向かわれております」
顔を清めるためのタライにはいつもの半分ほどしか水が張っていない。
こぼさないようにしながら顔を洗う。
ロゼリアはララに追い立てられるようにして、用意された胸を合わせる白い服に袖を通し髪に櫛を入れた。
ララは化粧水を肌に、ローズオイルを肌と髪になじませてくれる。
「わたしは雨乞い祈願の儀式がどんな風に行われるのかわからないんだけれど」
「大丈夫です。初めは王と王妃がされますから、それを見ていればやるべきことがわかりますよ。儀式を執り行う他の者たちも数年に一度形式ばかりですが王家の神事として行われておりましたから、慣れております。ただ、今回は代役も立てられた長丁場のものになるというだけで、そう変わりはないはずですから」
「供物とか生贄とか人身御供とか?」
不謹慎だとは思うが、未知なるものにわくわくする気持ちを押さえられずロゼリアは言う。
「人身御供はございませんよ!どこで吹き込まれてきたのですか。人柱が立ったのは随分昔です。それよりも早く召し上がってください。ゆっくりと食事をしている時間がもうありません」
パンの間にポテトサラダ、塩漬けの肉を挟む肉厚のサンドイッチとチーズといった朝食である。
サンドイッチには薄くスライスしたリンゴも入っていて、デザートも兼ねている。
手づかみで食べた。
普段作法にうるさいララを前にしてあり得ない不作法であるが、緊急事態で許されている。
食事はこのところ、非常食を組み合わせたもので、あふれるばかりだった少し前とは全く違っている。
口をゆすぐのを待って、ララはロゼリアの頭に白いシルクのショールを被せた。
ロゼリアは扉を開けて目をみはることになる。
ジュリアに、イリス、ロレット。このところ部屋から夏バテででてこなかったベラまで扉の向こう側で待っていた。
ロゼリアが身にまとう衣装と同じ形ではあるが、浅葱色に染められた衣装を着ている。
そして肩には青いシルクのショール。
ロゼリアがでてくると一斉に頭を下げた。
「これは何事。いつからそこで……」
波打つ水辺のような景色と仰々しさに、ロゼリアは部屋から出づらくなる。
ジュリアはこの国の姫である。
その姫が視線を伏せ自分に頭を下げているのはあり得ない光景である。
そして一向に頭を上げる気配もない。
「もういいから頭をあげてください」
「雨乞いの妻になられるロゼリアさまに付き添いを許され光栄です」
ジュリアが代表し、恭しくいう。
背後のイリスの顔には悔しさがにじんでいる。
「ロゼリアさまのお付き添いは、現在残っているエール側の女子たちに頼みました。パジャンの方々にはご理解いただけないようで、お断りされました。宗教行事になりますので、難しいところがあるのでしょう。まずは10人いらっしゃれば十分です。彼女たちも長丁場になるので、ロゼリアさまの出番と同時に、王妃さまのおつきの者たちと入れ替わることになります」
ララの言うようにレベッカの姿はなかった。
「わたしに10人、王妃さまに10人。というと、フォルス王とジルコンもそれぞれ10人つけるのならば、40人の儀式ということ?」
「主役が入れ替われば、おつきの者も入れ替わるので常に20人。それに楽団が10名。楽団も入れ替わるのでさらに10名。食事や衣装やかがり火などをお手伝いする者がいて、総勢100名以上です。護衛の数はいれておりません」
「そんな、大々的なものだとは思わなかったわ」
「王家主催の雨乞いの儀式ですから当然です。成功しなければ飢饉もありえますから」
ロゼリアはごくりと生唾を飲み込む。
ただの代役のつもりが大変なものを引き受けてしまったという後悔がよぎる。
「ララは、儀式の衣裳を着ていないのはどうして?」
「わたしは、ご案内してすぐに城に戻ります。王妃がいなくなる王城での采配をお戻りになられるまでわたしがすることになりましたので」
そういいつつ、いつもの女官の服に、ジュリアたちと同じ淡い青のショールを頭からかぶる。ララに合わせてジュリアたちも同様に肩のショールを頭へとかぶり直す。彼女たちは始終無言で、何を考えているかわからない。
ララを先頭にしてロゼリアはジュリア達を引き継れ、鎮守の森に入り歩き続ける。まだ涼しい時間帯である。昼間の時間帯なら汗だくになっていただろう。
直射日光が当たるところの雑草は枯れ、既に踏みつけられていたが、ロゼリアたちの足裏で軽いはじけるような音をたてた。その音だけが響く。
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