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バラモン王都国立学校

5、襲撃者

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授業を終えてリリアスは部屋に戻る。

リリアスは誰とも話すことなく授業を終えて、食堂にいく。
始めに場所を教えてもらってからリリアスはずっとひとり状態だった。

リリアスが話しかけようとすると、なぜか声かけられた同年代の男子は、顔を赤らめて緊張感丸出しにするのだ。

(なんなんだ~?これは??)

なので、リリアスはいろんな学内システムがよくわかっていない。
授業ごとに部屋が変わったり、先生に質問するには、先生から質問はないか?と問われて初めてできるということも、何回か、質問してから先生から言われたこともある。


そして、入学したその夜から繰り返される、不意打ちの襲撃。
それは、部屋に戻る途中で行われることが多い。
だいたい、リリアスよりも体格の大きい、上級生のようだった。
リリアスを待ち伏せし、声をかける。
無視すると、手を捕まれたり、壁に押し付けられたりする。

「王弟に気に入られているからといって、大きな顔すんなよ」

「僕の顔よりあなたの顔の方が大きいでしょう?」
言い返すと、襲撃者は、少しびっくりしてじっと食い入るようにリリアスの顔を間近にみて、それから強引にキスをしようとするのだ。


その、思春期の発情期男子パターンには、三日で辟易していた。
王弟の愛人ということが、さらに彼らの何かを掻き立てるようだった。
リリアスは体術は実地で仕込まれている。
捕まれてもすり抜けることは簡単で、リリアスは、ぎりぎりまで詰められていた間を、手の届かないところまで一瞬で離れる。

何やら自分の名前も名乗っているが、リリアスの記憶にはまったく残らない。
これはどうしたものか、とうんざりしはじめた3日目、三人組がリリアスの部屋の前に待っていた。


覚えのあるような気もする男もいた。
手には酒の瓶らしきものを持っていた。
酒は厳禁ということは初日にくどいぐらい言われていたのをリリアスは思い出す。
酒瓶をもった彼は割合男前で、よいところの育ちの雰囲気があるが、少し物騒な目をしている。

「退いてくれませんか?」
リリアスは冷たく言う。

「今日は中で話をしたいと思って待っていたんだ、で、これが手土産」

「話ならここで聞くよ。僕の部屋には誰も入れないことにしているから。お酒もいらない」

横の二人の男がリリアスの背後に回る。
あっと思った瞬間には羽交い締めにされていた。

「すり抜けるぞ、押さえ込め!」

男前がリーダーのようだった。ダンッと床に倒された。
腰をしたたか打ち付ける。

「っっ~!」

握っていた鍵を奪われた。
リリアスはそのまま自分の部屋に押し込まれ、ベットに投げられる。

「いい部屋に住んでいるんだな、妃の部屋だ。いい香りもする」
制服のジャケットを脱ぎ、上半身裸になる。

同年代の裸を間近で見るのは初めてだ。
リリアスはびっくりして、思わずながめた。

「お前も脱げよ」

ベットに膝をついて、にじりよろうとする男前に、リリアスはようやく状況を理解する。
これは、もしかして自分は襲われようとしているのではないか?

「それとも先に飲むか?」

男前はリリアスが恐怖ですくんでいると判断した。
自分たちは三人。
のしかかり、ジャケットのボタンを外していく。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
白い喉元が現れる。

欲望のまま口づけようとして、その体に刻まれた、赤いバラの所有印にどきまぎする。
ひとつふたつどころではなく、制服で隠された至るところに、王弟の印しが刻まれていた。

無体を働こうとしていても、まだ彼は10代。
その激しい愛の行為を連想できる跡にどきまぎする。

その時、ふわっと男前の視界が一変した。ベットの向こう側に蹴りあげられていた。
一回転して、ベットに抱き止められる。
そこへ、素早くリリアスが馬乗になり、彼の腰を膝の内側で挟み込み、体重をかけて自由を奪った。
下腹にかかる肉圧と重さに、さらに男前のものは大きくなった。
リリアスはそのまま、脱がされかけていたジャケットを脱ぐと、白い晒しの透ける薄ものになる。
目の前の生々しい美しい姿に、倒された男前と、後ろの二人は目を奪われていた。
彼らを尻目にリリアスはベットに持ち込まれていた酒に手を伸ばした。

「お酒の気分ではないんだけど、、。
せっかく持ってきてくれたものだから、、、」
とポンと軽い音をさせて蓋を空け、口にする。
黒曜石の艶めいた目で、男前の瞳をのぞきんだ。
そのまま唇をかさねて、彼の口内に流し込む。

「もう一口いる?」
といいながら、流し込まれた強い酒とリリアスの唇の柔らかさに呆然自失している男前の腕ごと、自分のジャケットで縛りあげ、自由を奪った。

そして、後ろの襲撃者のひとりの胸へ、まっすぐ蹴りをいれる。
心臓への衝撃に、後ろにぶっ飛んだ。
もうひとりは、あわてて構えの姿勢に腰を落とすが、低い地面すれすれの足首を狙った回し蹴りをもらう。
ばたんと、横倒しにたおれた。
ふうっと、リリアスはため息をついた。
少し息が上がっている。
このところ運動不足だったかもしれない。

「えっと、帰ってくれる?」


寮長のセージは部屋に戻ろうとして三人に押し込まれたという報告を受けて、駆けつける。
言わんこっちゃないと思う。
ひどく泣き叫ぶ姿の黒髪の転入生を想像しながら、一人部屋に入って彼が見たものは、その想像をはるかに越えているものだった。


床にうめきながら転がる二人。
ベットで半裸で、ジャケットで拘束されていながらも恍惚とした顔の男前。

男前は誰だかすぐにわからない。
彼の姿があまりに見たこともない、想像したこともない姿だったからだ。
男前はバラモンの有力貴族の息子。
フォルスト家と並び立つニコライト家の跡取り息子、アルマン ニコライトだ。
成績優秀、体術剣術も優秀。彼を慕う下級生は多く、女子のなかには彼の妻の座を狙うものも多い。

この部屋の主人は長い黒髪をまとめ直していた。まだ薄物のままだ。
セージもその体に記された所有印を目にして、ここに駆けつけた理由を忘れかけた。


「これはどういうことですか?」

セージはそう聞く自分の声を馬鹿げたもののように思った。
リリアスはようやく、ガウンを羽織る。

「彼らが、手土産を持ってきて、僕の部屋で話をしたいというから、部屋で少し遊んだ?というか」

ベットには縛られたまま恍惚状態で顔を赤くしているアルマンと蓋の空いた酒瓶。

「お酒も飲んでますか?」

リリアスは自分の呼気を確かめた。
「彼に口移しでお酒を飲ませたから、僕も飲んだといえるのかも?」


リリアスは転入3日目に、早くも飲酒の罰を受けて、3日の停学処分で自室での謹慎となる。
アルマンとそのご友人の二人も同様の処分となった。

上級生と思っていた、アルマンたちは同級生で、謹慎処分の後には、何を改心したのか、態度が一変していたのだった。
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