悪女がお姫さまになるとき

藤雪花(ふじゆきはな)

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第七章 目覚める

第53話 最後の儀式④2

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「グリーが攻め入ってくる。とても想像できないんだけど」
 そういいつつも優しげなグリーとは別の顔を、わたしは既に知っているではないか。

「……アストリアに残る未来でなにより耐えがたいのは、わたくしを女として兄は愛したの。血のつながった本当の兄妹なのに。妻をめとっても囲い続けた。この部屋に監禁されたり、海辺の塔に幽閉されたり、肌に直接陽光を浴びることは適わなかったわ」
「ルシルス王子の愛情は過剰だとは思ったけれどそれほどまでとは」
「グリーリッシュが与えた死は、福音でさえあったわ。どの未来もつらいものなら、あえて、辛酸をなめることはないでしょう?」

 意識の最奥に潜んでいた暗闇が、光り輝くジュリアという存在を縦に裂くようにぱくりと口を開き、てらてらとただれた傷口を痛々しくさらしだす。
 ロスフェルス帝国でのつらい未来により絶望して自死を選んだのではない。
 アストリアでの未来にも、ジュリアは絶望したのだ。

「シャディーンは……」
「シャディーンは、兄に逆らえなかった。彼は一生、わたくしへの想いを口にするはなかった。彼が、兄からわたくしを救いだすことは一度もなかった」
「一度もないからといって、これからもないとは限らないわ」

 あなたはお気楽で幸せね、と返されたような気がした。

「だから、一度もない未来を選択した。あらゆる未来の中にわたくしが選ばなかった未来を、自死を選択したの。わたくしはどの未来も結末も選択しないのだから」

「でも、ばらばらだった意識がわたしと会話できるぐらいに目覚めたのだから、肉体も目覚めるときが来ている。選ばなかった未来を選んだ結果が、これからはじまるんじゃないの?行くしろ、とどまるにしろ、切り開いていけばいいんじゃないの?とにかく、なんだっていい。お姫さまが目覚めたら、わたしは戻れるんだから」

 くすりとジュリアは笑い、それに含まれたあわれみの情がわたしを苛立たせる。

「ほんとうにそう思っているの?あなたがしがみついた貴文は、あなたを選んでいないのに?よく思い出しなさい。溺れたとき、貴文は美奈を選んだ。あなたが二人の未来を歪めていた張本人で、貴文はみずから修正したんじゃないの。あなたのみたのは未来でもない、ただの願望だったのよ」
「そんなはずは……」

「あなたの世界で、あのときあなた自身であれ貴文であれ、あなたを引きとどめようとする強い想いがあれば、あなたはこの世界に引き寄せられることはなかった。もう、そんなことわかっているのでしょう?いい加減、目覚めなければならないのはわたくしではなくて樹里の方じゃなくて?命の耀き、魂の耀きは高きから低きへ、つまりあなたからわたくしへと、つないだ手から、夜毎に流れだしている。そして、あなたの身体は修復が追い付かないほど朽ちはじめている。肉体的にも魂的にも、輝きを失って、藤崎樹里は死ぬの。いえ、もう死んでいる。ほら、みなさい。ふたつの死があるわ……」

 ジュリアは指差した。





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