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楊 飛龍
#5
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話の続きも上の空なご様子で座るジャックは、力なくコーヒーカップを傾ける。何に対して腑抜けのような表情をしているかは分からないが、それでもこれ以上我々以外の人間を巻き込むのは危険だというのは痛いぐらいに分かった。
「楊と会ったら、どうするつもりなんだ……?」
朧げな瞳で俺を見つめる彼の言葉に覇気はなく、10年前とそう変わらないと思っていた横顔の皺が増えている事に気付く。俺は勿論、父やジャック、マークだって其々に歳を重ねた。そんな事は今更で、変え難い事実であると理解はしているはずなのに、どうしてこんなにも息が詰まるのだろう?
──なぁアリーシャ……今、お前はどんな顔で何をしている?
クリスマス以来ご無沙汰な彼を思いを馳せ、あの天使にすら訪れる平等の権利に生唾を飲む。
積み木を乗せていくような細い作業の先に見えるのは天使が微笑む天国なのか、それとも堕天使がほくそ笑む地獄なのか──。
問いかけに黙り込んだ俺を心配そうに見つめるジャックは、俺が答えを口にするまでの時間を静かに無駄遣いする。
「さぁな……取り敢えず事情を聞き込み、使えそうなら手駒に取り入れる。使えなさそうなら──」
「……使えなさそうなら?」
何も言う前から痛々しそうに顔を顰める彼は、怖いもの見たさにも近い様子で俺の言葉をなぞった。
「ところでジャック、中華料理は何が好きだ?」
「き、急になんだよ……」
「別に気まぐれさ。アッチの国の料理にそう詳しい訳ではないが……聞くところによると中国の猿どもは低能だから、足が生えたものなら、机と椅子以外なんでも食べるらしい」
しょげた顔のジャックを笑わせようと饒舌にブラックジョークをかますも、見事に空回りした冗談に彼の表情は翳る。その変化を残念とは思わなかったが、気分が良いものでもない……と溜息を零した俺は、空になったコーヒーカップをカタリ……と机に置く。
「中国人は残忍な種族と聞く。薬で眠らせた猿の頭蓋骨をかち割り、料理を脳味噌にディップして、声にもならない断末魔を聴きながら食べるのが絶品だとかなんとか──。そんな楽しい宴なら俺も是非やってみたいじゃないか?」
俺の言葉に絶句した彼は、「もういい、もういいってば……ッ」と手を千切れんばかりに大きく振って席を立つ。
「今日はちょっと気分が悪いから、帰らせてもらうよ。また何かあったら……連絡する」
そうとだけ言ってそのまま逃げるようにリビングを離れたジャックの鞄は乱雑な閉めた方にガチャガチャと文句を垂れ、まるで逃げ出すように『M』の刺繍が施されたハンカチがヒラリとリビングのカーペットへ舞い堕ちる。
ポツリと置いてかれた可哀想なハンカチを拾い上げた俺は、やり場のないソレを仕方なしにジャケットの内ポケットへと押し込んだ。
「楊と会ったら、どうするつもりなんだ……?」
朧げな瞳で俺を見つめる彼の言葉に覇気はなく、10年前とそう変わらないと思っていた横顔の皺が増えている事に気付く。俺は勿論、父やジャック、マークだって其々に歳を重ねた。そんな事は今更で、変え難い事実であると理解はしているはずなのに、どうしてこんなにも息が詰まるのだろう?
──なぁアリーシャ……今、お前はどんな顔で何をしている?
クリスマス以来ご無沙汰な彼を思いを馳せ、あの天使にすら訪れる平等の権利に生唾を飲む。
積み木を乗せていくような細い作業の先に見えるのは天使が微笑む天国なのか、それとも堕天使がほくそ笑む地獄なのか──。
問いかけに黙り込んだ俺を心配そうに見つめるジャックは、俺が答えを口にするまでの時間を静かに無駄遣いする。
「さぁな……取り敢えず事情を聞き込み、使えそうなら手駒に取り入れる。使えなさそうなら──」
「……使えなさそうなら?」
何も言う前から痛々しそうに顔を顰める彼は、怖いもの見たさにも近い様子で俺の言葉をなぞった。
「ところでジャック、中華料理は何が好きだ?」
「き、急になんだよ……」
「別に気まぐれさ。アッチの国の料理にそう詳しい訳ではないが……聞くところによると中国の猿どもは低能だから、足が生えたものなら、机と椅子以外なんでも食べるらしい」
しょげた顔のジャックを笑わせようと饒舌にブラックジョークをかますも、見事に空回りした冗談に彼の表情は翳る。その変化を残念とは思わなかったが、気分が良いものでもない……と溜息を零した俺は、空になったコーヒーカップをカタリ……と机に置く。
「中国人は残忍な種族と聞く。薬で眠らせた猿の頭蓋骨をかち割り、料理を脳味噌にディップして、声にもならない断末魔を聴きながら食べるのが絶品だとかなんとか──。そんな楽しい宴なら俺も是非やってみたいじゃないか?」
俺の言葉に絶句した彼は、「もういい、もういいってば……ッ」と手を千切れんばかりに大きく振って席を立つ。
「今日はちょっと気分が悪いから、帰らせてもらうよ。また何かあったら……連絡する」
そうとだけ言ってそのまま逃げるようにリビングを離れたジャックの鞄は乱雑な閉めた方にガチャガチャと文句を垂れ、まるで逃げ出すように『M』の刺繍が施されたハンカチがヒラリとリビングのカーペットへ舞い堕ちる。
ポツリと置いてかれた可哀想なハンカチを拾い上げた俺は、やり場のないソレを仕方なしにジャケットの内ポケットへと押し込んだ。
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