殺人鬼と僕。

横トルネード

文字の大きさ
5 / 7

5

しおりを挟む


ノラ。

男に付けてもらった名前だが自分が思っていたより気に入っている。

帰り道は歩くと男に主張して、その権利を勝ち取り、男と並んで帰った。


「それで用は何だったの?」

僕が聞くと、男は背後ポケットに入れた封筒を取り出して僕に渡す。僕が男を見上げると開けろと言わんばかりに顎を動かす。

僕は封筒を開けると、お金が入っていた。
一番高価のある紙幣で、厚みが1センチ程。

男がこんなにお金持ちだとは知らなかった。
男に封筒を返そうとすると、男は揶揄うように言った。

「奪って去らないのか」

なんて失礼な、と思ったが言わない。
たしかに生存意力があれば怪しい男から離れるだろうが、最早まぁいつ死んでもいいやと思っている僕はどこにも行く気もない。男の住んでる家がそこら辺に住むより豪華だと言うのも理由に挙げられるが。

「そんな奴に見える?」

僕が聞くと男は首を横に振って封筒を受け取った。

男がソファに座るよう言ったので座ると、男は隣に座った。触れるか触れないかの距離。

男は膝に肘をついてうなだれたように座っている。
僕は不思議に思いながら男を見つめる。

すると男は僕の方を向いて口を開く。

「セシルと呼んでくれないか」

懇願するような目で訴えているので、僕は思わず頷いた。

「セシル?」

僕が言うと男は顔を綻ばせた。その表情にドキッとして、鼓動が早まった。

「なんだ、ノラ」


男はその表情のまま僕の名前を呼ぶ。
こんなに嬉しい事があろうかと思った。

自然と僕は笑顔になっていた。




男と僕はソファの上で寄り添うように座って過ごした。
僕は鼻歌を歌い、男は黙って雑誌をめくる。
雑誌が気になった僕はソファの上に立って男の肩から覗くように雑誌を見た。
だが、僕は文字は読めないし書けないので何が書いてあるか分からない。

男は気を利かせて僕にも見えるようにしてくれるがあまり意味はない。

「なんて書いてあるの?」

「簡単に言うと“王を崇めろ”」

と言う事は政治についてなのかと僕は考えた。
全くの専門外なので、ふーんと返した。

事件の事とか書いてあるのかと思った。


実際にはその雑誌には最近の事件の事も書いてあるのだが、ノラには読めないので男の言う事を信じるほか無かった。


そうして穏和な日々を過ごした。

男は度々僕を連れてジェシカが経営するBarに行った。
男は店の奥に行っている間、僕はジェシカと談笑したのだった。

店には最初にこの店に来た時と同様に、客は僕以外居なかった。

「数日ぶりだけど、あれからジョンに変なことされてない?」

嫌なことされたら言ってね、叩きのめすからとジェシカは綺麗かつ真っ黒な笑顔で言った。僕は慌てて首を横に振った。

「そう、残念」

何が残念なのか聞きたかったが、やめておく事にした。

するとジェシカは今までのおちゃらけた表情から真剣な顔になった。

「ねぇノラちゃん。ノラちゃんってずっとE区にいたの?」

僕はまた首を横に振った。

「少し前までB区に…」

僕が言うと、ジェシカは驚いたような顔になってそして悲しそうな表情になった。

E区の人間がB区に居た、ということは人身売買されたことを意味しているのと相違ない。

ジェシカの事だ、きっとその事に悲しくなってそのような顔になったのだろうと僕は思った。

だが、実際は違う。
ジェシカは数日前受けた人探しの依頼の事を考えていたのだった。その時来た男はこう言った。

『元E区でユンホ家に買われた子だが、逃げたんだ。ユンホ一家が皆殺しにされた日だ。金髪に翠目の少女だ』

ジェシカはノラの事だろうと思った。
その予想は的中していたのだった。

ジェシカはまた、ジョンにこの事を言おうかと思い倦ねていた。

「ジェシカさん?」

ジェシカの様子を見て僕は心配して彼女の名前を呼んだ。
前に来た時にジェシカと呼んでくれるまで帰さないと言われ、そこから呼ぶようになった。

ジェシカは僕の方をみて悲しそうな笑みを浮かべた。
僕は首を傾げたが、ジェシカは何でもないと言うばかりだった。


「帰るぞ」

男が店の奥から出て言う。
相変わらずタイミングよく来るなと思いつつ、僕はカウンターの席から降りる。成長途中(だと願っている)なので僕にとってはカウンターの椅子は少し高いのだ。

「ねぇちょっと」

ジェシカが男を止めた。
男は眉を顰めてなんだと言う顔をする。

ジェシカが男に耳打ちをする。男は表情を変えることなくジェシカが離れるまで黙っていた。

そんな様子に面白くないと感じた僕はジェシカがいれてくれたジュースを飲み干す。

「分かった」

男がジェシカにそう言って僕の手を引いて「また来る」と言って店を後にした。



──誰かがノラちゃんを捜してる。

先程のジェシカの言葉を、セシルは考えていた。

一体何故ノラを?

ノラはユンホ家に買われただけであって元はD区かE区に属していたはずだ。
上の人間は見向きもしないだろう。

セシルはどこか引っかかったような気がしてならなかったが、一旦この事については考えないようにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...