オタク女子と優等生男子の帰り道

世万江生紬

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一学期

少女漫画は少女だけが読むものじゃない

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 今日も帰り道、隣を歩く緒方優羽はちょっと憤った様子で口を開く。

「少女漫画ってほんとに物申したいこと多い!」

どうやら少女漫画は物申したいことが多いらしい。そういえば彼女はアニメや漫画をこよなく愛すオタクだが、少女漫画だけはどうしても好きになれず犬猿してるらしい。俺も少女漫画は読まないけど、物申すとは。

「まず、多分舞台は東京が多いと思うんだけど、東京ってそんなに狭いのかってくらいすぐ会うよね。会いたいと思えば街中で会えるし、探そうと思えばすぐ見つけられる。本人同士が会えなくても助言してくれる友達とかに偶然会うじゃん。そんなわけあるかいってね。」

それはメインの二人が会えないと物語が進まないからではないだろうか。もしくは落ち込んでいる主人公を誰かが励まさないと話が展開しないからじゃないだろうか。

「あー、まあ東京なら会うんじゃない?」

「この辺みたいな田舎じゃあ、まずばったり会うなんて無理だし、そもそも落ち込んでる人みんながタイミングよく励ましてもらえる訳ないよね。」

「なんと言うか、ドライだな。」

だからこそ女子はキュンとするし、夢を見るものなんじゃないんだろうか。彼女はそういったキュンとする機能壊れてんのかな。

「言いたいことは他にもあるんだよ。少女漫画ってリアルならセクハラに当たること平気でするよね。出会った初日でキスしてくるとか、ありえないし、落ち込んでるからって抱きしめてくるのは本当に遠慮したい。」

「...分からなくはないけど、そこが少女漫画のキュンとするポイントじゃないの?」

少女漫画の醍醐味みたいなところもあるだろうし、こういうヒーローに惹かれるのが女子だろう。男でもキュンと来ることもあるそうだし、彼女はちょっと現実的すぎる。

「むー。現実的に考えすぎってこと?じゃあ少女漫画あるあるの、やたら自分勝手な奴が俺様キャラぶっかましてるのも、ヒーローに対してツンとした態度をとるヒロインに『面白れぇ女』って上から目線で言ってくるのも、ヒロイン何かあるとすぐ涙目になってネガティブに考えだすのも、現実的に考えすぎってこと?」

よくそんなに具体例が出てくるもんだ。というかそんなに具体例出てくるなら、結構な量の少女漫画読み込んでるだろ。好きになれないんじゃなかったのか。

「まあ、そうだね。あくまで二次元、フィクションだからこそ楽しんで読めるってもんじゃないの。」

俺の正論に不満丸出しで睨んでやがる。彼女は特別美人ってわけでもないけど、不細工ってわけでもない。むしろ飾らない素朴な可愛らしさが男子からはちょっと人気だったりする。今も会話の中で表情がコロコロ変わって、不満そうに睨んでる顔もかわいくないこともない。言動がアニメ関連じゃなくて普通に可愛らしいものなら、それこそ少女漫画のヒロイン並みにアオハルしててもおかしくないのに。

「じゃあこれはどう!?私が少女漫画で一番物申したいあるある!一回振ったくせに最終的にはくっつく謎システム!」

「というと?」

「ヒロインがヒーローを好きになって告白します。でもヒーローは事情やらなんやらで振ります。ヒロインも分かったと身を引き、なんやかんやで別の男と付き合ったりします。でもヒロインが別の男と仲良くしているのを見て嫉妬とかなんやらで強引な態度をとるヒーロー。なんやかんやでヒロインもやっぱりヒーローのことが好きってなって、付き合ってた男を振ってヒーローと結ばれる。」

詳し。細か。絶対固有の作品のストーリーだろこれ。しかも一巻から最終巻まで見てるかのようなストーリー展開だったぞ。少女漫画読まないんじゃなかったのか。

「しかもね、その二番目の男はヒロインの背中押したりする。意味が分からない。付き合ってる相手が自分以外の人のことが好きだからって別れることを了承してあげる上に背中まで押してくれるってどういうことよ。世の中そんな人間出来た男がいるのか。」

今サラッと全国の男を敵に回したような気がしなくもないけど、気持ちは分からなくもない。確かに俺も同じことやられたらこんな出来た対応とれるとは思わないな。

「まあ当て馬の所以ってやつなんだろうね。でもここで当て馬キャラの人気が高まったり、ヒロインを応援する声が上がるんじゃないの。少女漫画の一番の盛り上がりみたいなところもあるし。」

「...いっそ当て馬とヒーローがくっつけば丸く収まるのに...。」

ジャンル変わるだろうが。

「やっぱイライラしちゃう少女漫画よりBLだね。BLにすれば全然イライラしないもん。」

彼女はオタクでありつつ腐女子でもあるから、恋愛系の話をすれば大体BLの話に置き換えられる。アニメの話題は対応できるけど、腐男子でもゲイでもないただの男にBLの話を振るのはやめてほしいんだがな。とか思っていたらもう彼女と別れる交差点まで来ていた。

「お、もう交差点か。じゃあ、また明日ね。」

彼女が笑顔で手を振る。少女漫画に対する鬱憤を晴らせて機嫌がいいんだろう。おれも「じゃあね」と返事をして帰路につく。押していた自転車にまたがり、走り出した俺の表情は少しだけ緩んでいた。
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