真犯人は私です

世万江生紬

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誘われた招待客たち

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 とある屋敷、金持ちの友人の別荘、その友人の自室の床、その場所に背中にナイフが突き刺され倒れている友人の姿。驚きに目を見張る者、強烈な光景に悲鳴をあげる者、鼻腔を通る異臭に気分を悪くする者。

 これは、殺された友人に誘われた者たちの、ミステリーな殺人事件。


*****************


 ことの発端は2週間前のこと。俺は昔から金のはぶり良かった友人、桐生京から一本の電話を受けた。金持ちであることをひけらかし、あまり態度が良いとは言えないこの友人のことが、俺は正直苦手だった。

『よう影、久しぶり。最近どう?儲かってる?』

『なんだ急に。ぼちぼちでんなって言えばいいのか?』

『はは。まあそれは置いといて、お前さ、大学の時のミステリーサークル覚えてるか?お前が最初いたけどすぐ辞めたやつ。』

『覚えてるけど。なんだよ。』

『俺まだそのサークル仲間とそれなりに連絡取っててさ。今度俺の別荘で大学時代ミステリーサークルの延長戦的なのやろうかと思って。』

『はあ?』

『まあぶっちゃけ六年ぶりの同窓会って感じだから飲み会みたいなもんだけどさ、せっかくならムード作ろ?と思って屋敷に集合ってなったんだよ。ミステリーサークルってことで、個人でちょっとした謎を持ち寄ってさ。』

『はぁ...で、なんで俺?』

『いやさ、俺の奥さん、知ってるだろ?お前と仲良かったもんな。でも瞳さ、ミステリーサークルではなかったじゃん?だからそいつらのことは知らなくてさ。でもせっかく一緒に別荘行くのに一人ぼっちになるのは寂しいじゃん?知り合い欲しいじゃん?んで、瞳と仲良くて、一応元ミステリーサークルだったお前を呼ぼうってなったんだよ。頼むよ。飯代とか酒代は全部俺が持つからさ。お前はただ飯で広い屋敷に泊まりに来たとでも思ってくれればいいからさ。』

『はぁ...。』

『それにさ、お前今伯父さんの事務継いだとかで探偵やってんだろ?ミステリものと言えば探偵がつきものじゃん。なんか事件が起きたら解決してくれよ。』

『事件、なぁ。あのな、探偵の仕事の九割は浮気調査だ。事件が起きて推理で解決、とかはフィクションだよ。』

『はは、そうかよ。まあいいや、とりあえず来いよ。日時とか場所とか諸々細かいことはメールしとくからさ。じゃあな。』

『は、おい行くとは言ってな』

 俺が行くと返事する前に電話は切れていた。いつもこうだ、京は人の話を聞かない。自分の言いたいことを言って終わる。俺は仕方なく送られてきたメールを見ながら身支度をすることにした。


******************


 時間は流れ、ミステリーサークル同窓会と言う名の宅飲み当日、俺は京の別荘に訪れていた。

「よー影!出迎えに来たぜ!お前が最後だ、みんなもう集まってるぜ。」

「悪い。あ、俺車で来てんだけど、あそこに停めて良かったんだよな?あ、あとガソリンとか無いか?ちょっと帰りの分が不安でさ。」

 俺は別荘の中、みんなが集まるという部屋へ歩きながら京と話す。始めて来たけど、いかにも金持ちの別荘という趣味の悪い置物が至る所に置いてある。

「おー、あの辺で大丈夫だぜ。ま、この辺俺らしか居ないし、どこでもいいぜ。あとガソリンな、ガレージにあったと思うけど、ガソリンスタンドには寄った方がいいぜ?」

「サンキュ。あと俺ミステリーサークル本当に入ってすぐ辞めたから、俺の知らないやつとかいない?」

「いるな。まあ安心しろよ、気さくなやつだから。お前の事もとりあえず紹介いるなー。さ、着いたぜ。」

 広間に入ると、無駄に大きく数のあるソファに数人が座っていた。俺は軽く頭を下げつつ合流する。久しぶりの再会だからか、話声は聞こえるものの空気自体は重く、ピりついたものを感じた。

「よー、みんな覚えてるか?サークル入ってすぐ辞めた影山要。今は探偵やってるんだってよ。」

 京が俺の肩に手を乗せ、軽く紹介する。そこにいる人間は俺という存在自体に興味は持たないが、探偵と言う職業に興味を持つように目を輝かせた。俺はその眩しさにふいっと目をそらす。

「探偵!?へぇ~!ミステリ好きとしてはそそられる職業っスね。俺一つ下だから多分初めましてですね。俺は北村夏彦って言います。よろしくっス。探偵業界の裏側とか教えてくださいっ。」

 北村夏彦。コロコロと表情の変わる軽い口調。茶髪にシンプルなTシャツ、今どきの若者の雰囲気。ミステリーサークル、このメンバー唯一の後輩で、京とは結構仲が良くこの別荘にも来た事があるんだとか。

「お前今探偵とかやってたのか。伯父さんが事務所やってたって言ってたもんな。」

 綾辻東。このサークルメンバーの中で唯一、ミステリーサークルをやめた俺とも交友を続けてた気さくな優男。休日のお父さんみたいなトレーナーで、髪も顔も遊びがない。

「探偵って響きだけでも格好いいよね。ね、あたしのこと覚えてる?平井南。今は結婚したから江戸川南なんだけどね。こう見えて子どももいるんだよ~。」

 江戸川南。旧姓平井。ミステリーサークル紅一点。男子四人に対した女子一人でも変に媚びたりせず、さばさばした印象。華美なおしゃれはしてなくても、着ているシャツもジーンズもすべてに清潔感がある。爪も髪も綺麗に手入れされてて、疲れた日々の中で今日を楽しみにしていた雰囲気を感じる。

「探偵ってほんとに事件解決とかすんの?」

 西川圭吾。仏頂面で口の悪かった記憶しかない。パーカーのフードで顔を隠し、少し暗い印象がある。あんまり会話した記憶はないが、基本余り喋らない無口な印象。

「探偵って、正直仕事の九割が浮気調査だから...。」

 俺はやんわりと質問をかわしながら、部屋の中を軽く見渡す。そしてキッチンの方からお茶を持って出てきたその人を見つけて息が止まる。

「要くん…。久しぶり。」

「…久しぶり。」

 桐生瞳。京の妻。そして俺の、元恋人。俺は久々に会った彼女の姿に、変わっていないと懐かしく感じつつ、隣に立つ京の姿を認識して若干の気持ち悪さを覚える。ふわりと湯気の立つ湯のみを受け取った俺は、その器に入った緑茶をグイッと一気に飲んだ。

「じゃあ揃った事だし!時間も…16時か、ちょっと早いけど始めようぜ。」

 チラッと時計をみた京の声に、全員が動く準備をする。ギシッとソファの軋む音がしたと思うと、さっきまでのピリッとした空気が緩んだ気がした。

「あ、俺酒出しますよ~!冷蔵庫でいいんスよね?」

「あ、私がやるよ北村くん。」

「やらせておけばいいのよ。それより瞳さん、ツマミ作るんでしょ?あたしも手伝うから一緒にやりましょ。」

「それじゃあ…。」

 北村は冷蔵庫を開け閉めして酒の準備。瞳と江戸川はツマミの支度。残った俺、東、西川は机の準備を始めた。京はトイレにでも行ったのか、居ない。俺は軽く舌打ちをして机を動かした。




  「それじゃ、久々の再会に!カンパーイ!」

 準備も終わり、席につき、音頭を取るのは京。ご機嫌に酒を掲げ、カンッと缶のぶつかる音をさせる。

「いやー、にしてもこのメンバー全員集合は久々ですよね!京センパイのおかげッスかね。」

「はは、確かにこの屋敷まで提供したから集まったのかな。見晴ら良くて空気も美味しくて周りに家もないからうるさくしても文句も来ない。自慢の別荘だしな!」

「確かにここいい所だよね。よくこんな場所見つけたね、京?」

「まあな。結構前に見つけて買ったんだよ。」

 この別荘の褒め言葉に京は浮かれてニヤニヤと笑う。
 東も、西川も、江戸川も、北村も、みんなが笑顔で食事を囲みつつ酒を飲む。でもその笑顔はどれも貼り付けたようなもので、褒める言葉も上辺だけのように感じる。その中で唯一瞳だけは、ずっと浮かない顔をしていたように見えた。




  「いやー男どもはよく食べるね、よく飲むし。あたしはそろそろご馳走様だよ。」

「僕も、もうお腹いっぱいだよ。京と夏彦と圭吾は?」

「俺ももういい…。」

「俺ももうお腹いっぱいッス!いやー満足!」

 数時間かけてゆっくり酒を飲み、料理をつまんだ俺たちは、膨れた腹を擦りながら満足気な声を出す。出された料理はほぼ全てが平らげられ、机の上には大量の缶が積み上がっている。そりゃあこれだけ飲み食いもすれば腹も脹れる。

「俺さすがに飲みすぎたわ…。もう部屋行く…。お前らも気が済んだら寝ろよ。」

「京大丈夫?1人で部屋行ける?」

「あー、じゃあ瞳、着いてきてくれ。」

「分かりました。」

 そう言うと、京と瞳は二人で京の部屋へ向かった。俺たちはその間缶やゴミを袋にまとめていたが、戻ってきた瞳に止められた。

「私がやっとくので、皆さんはもう部屋に戻って大丈夫ですよ。この屋敷、お風呂も結構広いので、お酒が抜けたら良ければ入ってください。」

「そうはいかないわよ。これ飲み食いしたのあたし達だし、瞳さん全然食べてないし飲んでもないでしょ。片付けくらい自分たちでするわ。」

「そうだよ。僕もせめて手伝います。」

「そう…ですか。じゃあお願いします。」

 瞳はほんの少しバツの悪そうな顔で頭を下げる。これは自分の仕事で、それを手伝わせるわけにはいかない、でもここまで言ってくれる人の気持ちを無下にもできない、そんな葛藤が見て取れる。

「二人は真面目だな…俺はお言葉に甘えてもう部屋に戻る。」

「ごめん、俺もちょっと…。」

「えー!この流れで!?」

「南さん、いいんですよ。お二人共ゆっくりしてくださいね。」

 この流れの中で西川は手伝う素振りを一切見せず部屋を出ていく。その動作には一切の躊躇がなく、俺もそんな西川に続いて部屋を出る。俺は気遣ってくれる瞳にほんの少しだけ頭を下げてからドアを閉めた。





  夜が明けた朝。俺たちは広間に朝食を取るために集まっていた。

「ふわぁ…ここのベッド、すごいフワフワだったよ。すっごい熟睡。」

 東が眠たそうな目を擦りながらパンをかじる。カリカリに焼かれた食パンは、齧られた箇所からポロポロと崩れ、皿に落ちる。

「あたしも感動したー。家では床に布団敷きだから寝心地全然違う。西川くんは?ちゃんと寝れた?なんか隈あるけど。」

「隈は元から。ちゃんと寝たし。」

 朝食を取りながら他愛もない会話をする。昨日と同じ広間の空間だけど、感じる空気は少し柔らかい。俺は柔らかい空気のまま、スープを口に運ぶ。

「あの…京さんが全然起きてこないんですけど…。まだ寝てるんですかね?」

 微睡みの雰囲気の中、一瞬で空気がピリつく。それほどまでに瞳の一言は強烈だった。全員がお互いの顔を確認した後、東が柔らかく口を開いた。

「まあ昨日一番酔ってたし、熟睡してるんじゃないかな。」

「でもあの人21時に部屋に戻ったんですよ?今もう10時だし…さすがに遅いような…。」

 オドオドとする瞳は本当に心配しているようだった。だが、瞳以外のここにいる人は皆、酒のせいだと疑わない。

「あー、じゃあ起こしに行こうか。桐生くん、部屋に鍵とかかけてないよね?」

「あ、はい。昨日はかけてないです。」

「オッケー。じゃああたしも行くから、行きましょ。」

 瞳は江戸川と一緒に京の部屋に向かった。が、そのすぐ後、バタバタと足音を立てて戻ってきた。

「なんスか?起こさなかったんスか?」

「いやそれが鍵かかってたのよ。鍵はかけてないはずなのに…とりあえずスペアは瞳さんが持ってるって言うから部屋に取りに行く。」

 開いていたはずの鍵がかかっている。普通に考えて、内側から京が掛けたと考えるのが妥当だろうが、どこか胸騒ぎがした。そしてそれは俺以外の奴も同じようで、スペアの鍵をとってきた瞳と一緒に、俺たちは全員で京の部屋へ向かった。

「京さん、京さん?開けますよ?」

 瞳が困惑した様子でドアを叩き、返事がないことを確認して鍵を開ける。ガチャっと開いたドアのその向こう側に居たのは、背中にナイフを突き立て、倒れている京の姿だった。
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