電撃姐御とカワウソ少年の最強探し

駿心

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タツ、勇者パーティに会う

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美杜とタツの奇妙な修行もどき生活が始まって数ヶ月が経った。

美杜は、相変わらず「めんどくせぇ」が口癖で、水中での怠惰な生活を満喫していたが、タツとも日々も当たり前になってくる。

タツは、近くの小さな村の酒場で、皿洗いや薪割りなど、店のちょっとしたお手伝いをしてお金を稼いでいた。

夜は仕事をして、次の日になると、彼は足早に美杜のいる海辺へと向かった。

いつものように美杜を説得して川辺へ二人で行き、タツの修行の様子を美杜は欠伸混じりに眺めた。

タツがモンスターに突っ込んでいくたびに、美杜は息切れをして小言を言いながら、結局は電撃で尻拭いをしていた。

そして、タツが修行タイムを満足した頃には、美杜は疲弊しており、タツに抱えられながら海へと帰る。

その帰り道、タツは修行の話ももちろんしたが、村であった出来事、酒場での他愛ない話も美杜に事細かに話した。

おかみさんに褒められたことや、常連のモッカリーヒンという男が女に振られたことなど、美杜にとっては取るに足らないような日常の些事ばかりだ。

美杜は相変わらず水中でゴロゴロしていることが多かったが、タツが話すそんな他愛ない話に耳を傾けるのが、密かな楽しみになっていた。

耳を傾けるというよりは、半ば聞き流していることも多かったが、タツの弾んだ声を聞いていると、なぜか心が落ち着いた。

それは、かつてレディース総長として、常に緊張と警戒の中に身を置いていた美杜にとって、初めて感じる種類の穏やかさだった。


「そんで今日も懲りずにゴブリンに突っ込んだのかよ。バカじゃねーの」

「んだよ、姐御!あれは修行だ!いつか姐御みたいに、一撃でシビれさせる男になるんだからな!」

「おー、早くなれっての」

「そんで姐御と違って、すぐへばらない男になる!」

「……お前、次から助けねぇぞ?」


二人は海に着いてもしばらく話を続け、海辺に座り込んだ。

夕焼けが空と海を赤く染め上げ、波の音が穏やかに響く。

タツはその日の冒険談や町の話を身振り手振りで語る。

美杜は、そんなタツの話にテキトーに相槌をうちつつ、時折笑って見ていた。

そしてタツが仕事にいく前に決まって美杜が獲った魚で料理を振る舞ってやった。

電気で一瞬にして痺れさせ、捕獲した新鮮な魚を、美杜は岩の上で慣れた手つきで捌いていく。

ジュウジュウと音を立てて焼ける魚の香ばしい匂いが、潮風に乗ってあたりに漂う。

火を起こし、串に刺して焼いただけのシンプルな料理だが、その香りは、常に腹を空かせたタツにはたまらない誘惑だった。


「うおおお!今日の魚は、一段とデカいぜ、姐御!」


元カワウソであるから魚が好物のタツは、目を輝かせ、焼き上がった魚を口一杯に頬張って美味しそうに食べた。

熱気を帯びた白身が、タツの口の中でほろりと崩れる。


「んんんーっ!うめぇ!やっぱ姐御の飯が一番だな!」

「おおげさ。焼いただけだろ?」

「おかみさんのご飯も美味しいけど、姉御のが一番です!」

「おかみさん?……あぁ今働いてるっていう酒場の…」

「うん!」

「メシは私と一緒に食べてて実質、金かかってないだろ?何をそんなに貯めてんだ」

「そりゃあ!魔王城を目指す旅の為の貯金っす!」

「はー、なるほどね。」

「何、他人事みたいに言ってるんすか!姉御も一緒に魔王倒すんですよ!」

「ははは」

「だから早くヘロヘロ姉御を卒業できるように一緒に修行っすよ!」

「…………タツ、もう一匹魚焼けたぞ」

「やったー!いただきます!!」


美杜が話を逸らすために渡した魚を、タツは何度も頷きながら、もぐもぐと頬張る姿を見ていると、美杜の口元に自然と笑みがこぼれた。

こんな風に誰かが自分の作ったものを美味しそうに食べる姿を見るのは、美杜にとって新鮮な喜びだった。

彼女は、タツが汚した口元を、持っていた葉っぱで拭いてやる。


「ったく、行儀悪いんだよ。ゆっくり食え」


小言を言いながらも、その手つきはどこか優しい。

タツは何度も「うまい」と叫んで食事を堪能した。

美杜の心は、この小さな食卓で、少しずつ温かさに満たされていくのを感じていた。


◇◇◇◇


ある日の夕方、タツが酒場での仕事が一区切りついたので、カウンターの隅で休憩していると、村人たちのひそひそ話が耳に入ってきて、「勇者」という言葉に、ふと意識を引き戻された。


「今年もまた、勇者様がいらしてたようだのう」

「おう、もうそんな時期が来たか。早いもんだ」

「今度は珍しい薬草が必要みたいでな、森の奥まで探しに行ったって聞いたぞ」

「まったく、今年こそ魔王討伐に成功してもらいてぇもんだ。そうすりゃ、この生活も少しは楽になるんだがな」


勇者。その言葉が、タツの胸を大きく揺さぶった。自分が憧れる『地上最強の男』。

いつか、そんな勇者のようになりたいと、漠然とではあるが抱いていた夢が、目の前の現実と重なる。

タツの目は、期待に輝いた。

勇者様に会えるかもしれない。

翌日、タツはいてもたってもいられず、勇者一行を探しに村の外へと飛び出した。

美杜との修行で培った体力と、カワウソ譲りの素早さで、彼は森の奥へと足を踏み入れていく。

森の奥深く、モンスターが跋扈する危険なダンジョン。

普段タツ達が遭遇するモンスターとはレベルが違うものがうようよといる。

その奥から、閃光と爆音が響き渡る。

恐る恐る足を踏み入れたタツの目に飛び込んできたのは、圧倒的な力でモンスターを一掃する勇者パーティの姿だった。


「じゃあ、そろそろトドメといきますかぁー」


やる気を感じられない発声と柔らかい笑顔の中年男性は飄々とした佇まいだが、己の手のひらに拳をバチンと打ち込むとその腕から炎が発火された。

生み出された炎で包まれたパンチを繰り出し、炎は生きているみたいに男の相棒のごとく敵を焼き尽くす。

その隣には、大柄な体躯に鋼鉄の鎧を纏った男が、巨大な戦斧を軽々と振り回し、地響きを立てながらモンスターを叩き潰している。

顔には粗野な笑みを浮かべ、時折「うおりゃあ!」と獣のような咆哮を上げる姿は、まさに暴力の権化といった雰囲気だ。

さらにその後ろには、すらりとした細身の男が、不気味な笑みを浮かべながら怪しげな呪文を囁く。

彼に狙われたモンスターは、みるみるうちに体が溶解し、悲鳴を上げながら消滅していく。

この二人も強そうだが、炎の男が群を抜いての実力が見て取れた。


「す……すげぇ!圧倒的だ!」


タツは、その実力に心底惚れ込み、気がつけば三人の前に飛び出していた。

彼らの強さに、タツの心は完全に鷲掴みにされていた。

大柄の男が気付き「なんだ、このガキ」と怪訝そうに眉間にシワを寄せて、炎の男は心底不思議そうな顔でキョトンとした。

タツは構わずその場で土下座していた。

憧れのヒーローの姿が焼き付いていた。


「アンタこそ!最強の男だ!お、俺を、地上最強の男に鍛えてくださいっ!」

「えっ……えー……、急にそんなこと言われても……てか、土下座やめて~、おじさん困っちゃうから!えーっと、坊主……名前は?」

「俺はタツって言います!」

「お!マジ!?」


男はとても嬉しそうに笑った。

その笑顔は、タツの目に、輝くように映った。


「俺は、辰波ってんだ!同じ『タツ』仲間だな!」
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