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女子大生と居候達編(デュラハンと勇者)
ミノタウロスと牛タンとアステリア・クリアと
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それは雪になりきれなかった雨、ようするに霙が降る日だった。
私はそんな傘をさしても足元がぐずぐずになってしまう中、商店街にやってきていた。本日の買い物なわけだが、激安スーパーではなく商店街に来ている理由は……そう、アルバイトのお給料が入ったから、というのもあるんだけど、ガラ抽(ガラガラ抽選ね)のチケットを貰っていたのだ。
残念賞のうまい棒につられたみたいで少し恥ずかしいけど、妙な懐かしさを覚えた私は、遠出してみようと気が付けば人込みの一部に紛れるのだった。
と前置きは置いておいて、こんな寒い日はおでんにダシ割(日本酒におでんのダシを入れて呑むホットカクテル)とかキメて帰りたいけど、私の部屋には今、勇者とデュラハンの首だけの二人が居候している。二人が小鳥の雛のように口を開けて待っているから、早く帰らなきゃ!
「あの、メンチ1個お願いします!」
なんだけど!
うふふ、メンチカツと缶ビールでフードコートにて雨宿り。そういえば、こういう時間最近なかったなぁ。
別に一人でお酒を飲むのが嫌いなわけじゃない。怒涛の来訪者達、それに慣れ始めている自分。よくよく考えれば相当おかしな事が起きているのに心から楽しんでいる私。
いつかこんな時間が終わるんだろうかと不安を感じなくはないけど、その時はその時よね。
さて、一人で買い食いも堪能したことで、ガラ抽回してうまい棒貰って買い物して帰りましょう。私は抽選会場に向かい抽選券を渡す。
とりあえず冬休み中にした事がこれで一つ増えた。
ふいに祭と書かれた法被を着たお姉さんが福音の鐘を鳴らす。
カランカラン!
「おめでとうございます! 4等賞。無煙ロースターです!」
へぇ、へぇえ! 何か当たっちゃったよ。なになに……要するに煙の出ないカセットコンロね。よし、今日はお肉を食べましょう。お酒は兄貴の部屋にある物でいいわね。
私は買い物を済ませると足速に自宅に帰るのだった。
「たっだいまー!」
私が玄関を開けると、そこにはババ抜きをしているミカンちゃんと、デュラさんと……ん? ん? ん?
牛の頭をしたいかつい身体の男性? が私を見てババ抜きを止めると挨拶にきた。
それはそれは、任侠映画ばりの仁義を切られましたとも。
「手前、迷宮にて囚われております身のミノタウロスで御座います。どうぞお控えなすってください」
「ええっと、さっそくのお控えありがとうございます。私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です」
さて、このミノタウロスさんは何故私の部屋にいるのか、今日の飲み会のペアリングを粗方決めて帰ってきた私、帰宅の少し前にミノタウロスさんはいつもの迷宮に見知らぬ扉があったので開けるとここに繋がっていたんだって!
そこで私が帰ってきて挨拶をするまで二人とババ抜きをしていた。
なるほどまるで意味が分からないわね。
そして本日、大奮発して買ってきた物とミノタウロスさん相性が悪すぎるのよね。
何故なら、本日購入してきた物。牛タン……さぁ、どうしようかしら、
「して、金糸雀殿。本日は何を食すおつもりか? 迷宮の魔物ミノタウロス殿との再会も我にとってはめでたく、楽しみである!」
「勇者も! 早く飲み食いしたい!」
はは、まずは無煙ロースターを用意して、100g780円の牛タンを600g購入してきたからこれを焼いて食べればおいしいだろうなと考えていた30分前の私、馬鹿!
「今日はね、タンというお肉の部位よ!」
おぉ! ぱちぱちと三人は手を叩き、ミノタウロスさんが私をのぞき込むように尋ねる。
「それはそれは楽しみでさぁ、ところでどのような生き物の?」
「うっ……しじゃなくて、ビーフ。というそれはそれは巨大な生き物で」
「何に似てるんですさぁ?」
貴方です。
「ビーフはうし。すなわちミノタウロスに似ている。勇者はねっとにて学んだ!」
やめて! 暇だろうからとネットサーフィンを教えなければ良かった……しかもミカンちゃんデリカシーなさすぎ……
「ほう、手前と似ている者を食すと」
いやーーーー!
いやーーーー!
「はっはっは! よりミノタウロス殿が強くなられて困ってしまうな!」
「デュラハン様、あまり茶化さないでくだせぇ」
おや?? この任侠ミノタウロスさんにけじめつけさせられるかと思ったけど、なんか大丈夫な空気が漂っているような……
「魔物は同種を取り込むと強くなる。厄介!」
「勇者、恥ずかしい事をいわねぇでくだせぇ! 同種を取り込んで強くなるときは、勇者のような全てを捨てて向かわねばならぬ者と相まみえる時だけでさぁ」
なんか異世界も色々あるのね。ところで、これは焼いていいのかしら? デュラさんが自分の座布団をミノタウロスさんに譲って待っているので、いいのよね?
と言う事で無煙ロースターにガスボンベをつけて着火。牛脂を引いて、その間に本日のお酒は冷蔵庫でよく冷やしてある。瓶のビール。ライムを8等分に切って、
「じゃあ、今日はアステリア・クリアと牛タンで」
アステリア・クリアの瓶にライムを差し込んで皆にまわしていくと、本日の
「「「「かんぱい!」」」」
アステリア・クリアはほんとに軽めのビールだから、ライムと一緒に飲むのさいっこぉ!
夏にビーチとかでバケツに沢山氷入れて兄貴と兄貴の友達とよく飲んだなぁ。舌触りも優しいし、風味もいいんだよね。パーティーと言えば抑えておきたい1本ね。
「ぷはー! うまい! 味わい深い麦酒だ!」
「手前、魔王城から送られた麦酒をのんでいやすが……これはちと、神話級でさぁなぁ」
「はっはっは! まさに! ミノタウロス殿。良い事を言う!」
さて、神話級が私にはどのくらいすごいのか分からないけど、ありがとう。
誉め言葉よね?
じゃあパリピが飲んでるこんなお酒の相手が務まるおつまみを作り始めましょうか
テーブルにまな板を置いて牛タンを最初は薄めに切っていく。レモン汁をお皿に入れて、みなさんよござんすか? さぁ! 鉄板にはったはった!(薄い切り牛タンを)
「すぐに火が通るから、はい! みんな、今食べて! レモン汁につけてすぐ食べて! お箸になれていないミノタウロスさんは私が専用トングで取りますね!」
私が異世界転生したら職業は鍋奉行ね! レモン汁につけたタンは……
「うみゃあああ!」
私もエセ愛知弁が出るくらいの衝撃。もちろん、他三人は……
「あ……うんま」
「おぉ! なんと薄いのに深い味わい……」
「迷宮の外にこのような神話が……」
放心してるわね。そう、焼肉屋でも不動のトップバッター、牛タン。本来4番、5番打者であるカルビやハラミを抜いて今や大スター。さぁ、三人とも! 放心している場合じゃないわよ!
「アステリア・クリア、ひっかけちゃってください! ぶっ飛びますので」
ごくり、誰かの喉が鳴った。ミカンちゃんに至ってはラストダンジョンで魔王を前にした時に見せるような顔をして、ライムの刺さったアステリア・クリアをごくりと、
「んんんんんっ! デュラさん、ミノタウロス……らめぇ」
そう言って手を前に出すミカンちゃん、あのね? もう止められるハズがないのよ。ただでさえ目の前で肉を焼くという野蛮な食べ方にテンションが上がらないわけがないの、それも一番人気の牛タンよ。
それに最強のペアリング。原点にして正解、ビール。
ほら、もうデュラさんもミノタウロスさんも、取り憑かれたようにアステリア・クリアに手を伸ばして飲み干してる。
「……って私が悪役みたいになったけど! 次いきますよー! 次は少し厚めに切ってこれを乗せます」
そして焼肉屋でよく見るあれをかけます。
「おや、金糸雀殿。それはこの前作っていたねぎ塩では?」
「うん! 牛タンとの相性が恐ろしすぎて虜になった人間数知れずよ。さぁ、食べてみて!」
ふふふふふと私はねぎ塩を無煙ロースターの上で仕上がろうとしている牛タンの上にのせる。この塩だれも作り方は超簡単。長ねぎをきざみ、ニンニクをひとかけすりおろし、中華スープの素を1さじ、そしてごま油を大さじ2。全部まぜればあら不思議。
「「「神話級!!!」」」
異世界の三人が同時に声を上げるその衝撃、私は三人のビールが空になったのを見て新しい物を冷蔵庫から取り出すとライムを添えてわたす。どれどれ、私も、
「んん! ~! んんんん! あっぶない! 美味しすぎ」
んぐんぐと喉を鳴らしながらアステリア・クリアという名のガソリンを身体に入れる。まっこりとどっちにしようか迷ったけど、しまちょうとかのホルモンの時に取っておきましょう。こういうお肉はビールに限るわ! 牛タン、悪魔的食べ物だけど、私は三人の知らないところでとっておきを用意してるんだから! 一心不乱に牛タンとアステリア・クリアを楽しんでいる三人に私は……
「次、いってみる?」
と、ポーズをつけて竹串を見せると、
「金糸雀姐さん、それは……アサシンの暗殺道具でさぁ?」
「そうそう、これで暗闇から……って違いますよ! これはそんな無粋な事をする物じゃなくて、こうしてこう」
私は牛タン串を作ると、沖縄の塩をパラパラを振りかける。レモン、ねぎ塩、そして塩。牛タンを囲う騎士たち。
レモンとねぎ塩ダレの前に殆ど出番がないけど、この塩も、
「かなりあ、あああ! うまーい! うますぎる! 勇者は勇者は、驚きを隠せない!」
ほら、キャラが崩壊するくらいの感動じゃない。
「はっはっは、これは、日本酒や焼酎も合いそうですなぁ! 参った!」
ミノタウロスさんは牛タン串をむしゃむしゃ食べて、
「手前、こんなに美味かったんでさーな?」
「いやぁ、ミノタウロスさんが美味しいかはちょっと分からないですけど、牛タンは私も殆ど食べられないご馳走です。ほらほら、ビール空じゃないですか! どんどんやってくださいよ! ハイネケンとアステリア・クリアは私と兄貴のフェイバリットなんでまだまだありますから!」
「このご恩……」
「いいですいいです! 私も呑み友が出来て楽しいですから! そんな事より、メインディッシュがありますから!」
三人はまだ、あるのか……と驚きながらも期待を込めた目で私を見る。この間に仕込んでいた味噌漬け牛タン。お肉って美味しいけどずっと食べてると油分でやや箸が止まるのよね。そういう時にサムギョプサルを食べるように、ラストは一気に味の濃い味噌漬け牛タン。
すでにその香りで、
「金糸雀殿、すまぬがこの麦酒。二本いただけるか?」
「ゆ、勇者も二本所望!」
「はいはい! ミノタウロスさんもお二つどうぞ!」
さぁ、皆さん。寝ても覚めてもこれが最後よ! 楽しみましょう! この牛タンパーティーのフィナーレは味噌漬けで飾りましょう!
まずいわけがないのよ。みんなせーので頬張る。私達は同時に、月の上から地球を眺めていた。手にはアステリア・クリアを持って、
「姐さん、勇者、デュラハン様。ここは……いい所でさぁな!」
そう言って寡黙なミノタウロスさんは地球に向かってアステリア・クリアの瓶を掲げて飲み干した。
「うん」
「また来たいであるな?」
「いやぁ、これどういう状況?」
あまりのおいしさに意識がぶっ飛んだ私達の意識が私達の部屋に戻ってきた時、もうそこにはミノタウロスさんの姿はなかった。代わりに、大き目の宝石が沢山ついた中華包丁のような物が置かれていた。
「ミノタウロス殿の手斧であるな。きっと、金糸雀殿に」
えっ、どうしようかしら……こんどこれでうどんでも作ろうかしら、ミノタウロスさん。そんな早く帰らなくても良かったのに……牛タンパーティーは大成功だったんだけど、二つ大きな問題が起きたのね。
無煙ロースター、確かに煙はでないんだけど、家焼肉の代償である匂いが部屋から取れるのに3日はかかったし、あれから焼肉の味をしめたミカンちゃんが、
「かなりあ、次の焼肉はいつ? 勇者は全力正座待機の所存」
と焼肉に目覚めてしまった事。当分はお肉系を回避しましょう。
私はそんな傘をさしても足元がぐずぐずになってしまう中、商店街にやってきていた。本日の買い物なわけだが、激安スーパーではなく商店街に来ている理由は……そう、アルバイトのお給料が入ったから、というのもあるんだけど、ガラ抽(ガラガラ抽選ね)のチケットを貰っていたのだ。
残念賞のうまい棒につられたみたいで少し恥ずかしいけど、妙な懐かしさを覚えた私は、遠出してみようと気が付けば人込みの一部に紛れるのだった。
と前置きは置いておいて、こんな寒い日はおでんにダシ割(日本酒におでんのダシを入れて呑むホットカクテル)とかキメて帰りたいけど、私の部屋には今、勇者とデュラハンの首だけの二人が居候している。二人が小鳥の雛のように口を開けて待っているから、早く帰らなきゃ!
「あの、メンチ1個お願いします!」
なんだけど!
うふふ、メンチカツと缶ビールでフードコートにて雨宿り。そういえば、こういう時間最近なかったなぁ。
別に一人でお酒を飲むのが嫌いなわけじゃない。怒涛の来訪者達、それに慣れ始めている自分。よくよく考えれば相当おかしな事が起きているのに心から楽しんでいる私。
いつかこんな時間が終わるんだろうかと不安を感じなくはないけど、その時はその時よね。
さて、一人で買い食いも堪能したことで、ガラ抽回してうまい棒貰って買い物して帰りましょう。私は抽選会場に向かい抽選券を渡す。
とりあえず冬休み中にした事がこれで一つ増えた。
ふいに祭と書かれた法被を着たお姉さんが福音の鐘を鳴らす。
カランカラン!
「おめでとうございます! 4等賞。無煙ロースターです!」
へぇ、へぇえ! 何か当たっちゃったよ。なになに……要するに煙の出ないカセットコンロね。よし、今日はお肉を食べましょう。お酒は兄貴の部屋にある物でいいわね。
私は買い物を済ませると足速に自宅に帰るのだった。
「たっだいまー!」
私が玄関を開けると、そこにはババ抜きをしているミカンちゃんと、デュラさんと……ん? ん? ん?
牛の頭をしたいかつい身体の男性? が私を見てババ抜きを止めると挨拶にきた。
それはそれは、任侠映画ばりの仁義を切られましたとも。
「手前、迷宮にて囚われております身のミノタウロスで御座います。どうぞお控えなすってください」
「ええっと、さっそくのお控えありがとうございます。私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です」
さて、このミノタウロスさんは何故私の部屋にいるのか、今日の飲み会のペアリングを粗方決めて帰ってきた私、帰宅の少し前にミノタウロスさんはいつもの迷宮に見知らぬ扉があったので開けるとここに繋がっていたんだって!
そこで私が帰ってきて挨拶をするまで二人とババ抜きをしていた。
なるほどまるで意味が分からないわね。
そして本日、大奮発して買ってきた物とミノタウロスさん相性が悪すぎるのよね。
何故なら、本日購入してきた物。牛タン……さぁ、どうしようかしら、
「して、金糸雀殿。本日は何を食すおつもりか? 迷宮の魔物ミノタウロス殿との再会も我にとってはめでたく、楽しみである!」
「勇者も! 早く飲み食いしたい!」
はは、まずは無煙ロースターを用意して、100g780円の牛タンを600g購入してきたからこれを焼いて食べればおいしいだろうなと考えていた30分前の私、馬鹿!
「今日はね、タンというお肉の部位よ!」
おぉ! ぱちぱちと三人は手を叩き、ミノタウロスさんが私をのぞき込むように尋ねる。
「それはそれは楽しみでさぁ、ところでどのような生き物の?」
「うっ……しじゃなくて、ビーフ。というそれはそれは巨大な生き物で」
「何に似てるんですさぁ?」
貴方です。
「ビーフはうし。すなわちミノタウロスに似ている。勇者はねっとにて学んだ!」
やめて! 暇だろうからとネットサーフィンを教えなければ良かった……しかもミカンちゃんデリカシーなさすぎ……
「ほう、手前と似ている者を食すと」
いやーーーー!
いやーーーー!
「はっはっは! よりミノタウロス殿が強くなられて困ってしまうな!」
「デュラハン様、あまり茶化さないでくだせぇ」
おや?? この任侠ミノタウロスさんにけじめつけさせられるかと思ったけど、なんか大丈夫な空気が漂っているような……
「魔物は同種を取り込むと強くなる。厄介!」
「勇者、恥ずかしい事をいわねぇでくだせぇ! 同種を取り込んで強くなるときは、勇者のような全てを捨てて向かわねばならぬ者と相まみえる時だけでさぁ」
なんか異世界も色々あるのね。ところで、これは焼いていいのかしら? デュラさんが自分の座布団をミノタウロスさんに譲って待っているので、いいのよね?
と言う事で無煙ロースターにガスボンベをつけて着火。牛脂を引いて、その間に本日のお酒は冷蔵庫でよく冷やしてある。瓶のビール。ライムを8等分に切って、
「じゃあ、今日はアステリア・クリアと牛タンで」
アステリア・クリアの瓶にライムを差し込んで皆にまわしていくと、本日の
「「「「かんぱい!」」」」
アステリア・クリアはほんとに軽めのビールだから、ライムと一緒に飲むのさいっこぉ!
夏にビーチとかでバケツに沢山氷入れて兄貴と兄貴の友達とよく飲んだなぁ。舌触りも優しいし、風味もいいんだよね。パーティーと言えば抑えておきたい1本ね。
「ぷはー! うまい! 味わい深い麦酒だ!」
「手前、魔王城から送られた麦酒をのんでいやすが……これはちと、神話級でさぁなぁ」
「はっはっは! まさに! ミノタウロス殿。良い事を言う!」
さて、神話級が私にはどのくらいすごいのか分からないけど、ありがとう。
誉め言葉よね?
じゃあパリピが飲んでるこんなお酒の相手が務まるおつまみを作り始めましょうか
テーブルにまな板を置いて牛タンを最初は薄めに切っていく。レモン汁をお皿に入れて、みなさんよござんすか? さぁ! 鉄板にはったはった!(薄い切り牛タンを)
「すぐに火が通るから、はい! みんな、今食べて! レモン汁につけてすぐ食べて! お箸になれていないミノタウロスさんは私が専用トングで取りますね!」
私が異世界転生したら職業は鍋奉行ね! レモン汁につけたタンは……
「うみゃあああ!」
私もエセ愛知弁が出るくらいの衝撃。もちろん、他三人は……
「あ……うんま」
「おぉ! なんと薄いのに深い味わい……」
「迷宮の外にこのような神話が……」
放心してるわね。そう、焼肉屋でも不動のトップバッター、牛タン。本来4番、5番打者であるカルビやハラミを抜いて今や大スター。さぁ、三人とも! 放心している場合じゃないわよ!
「アステリア・クリア、ひっかけちゃってください! ぶっ飛びますので」
ごくり、誰かの喉が鳴った。ミカンちゃんに至ってはラストダンジョンで魔王を前にした時に見せるような顔をして、ライムの刺さったアステリア・クリアをごくりと、
「んんんんんっ! デュラさん、ミノタウロス……らめぇ」
そう言って手を前に出すミカンちゃん、あのね? もう止められるハズがないのよ。ただでさえ目の前で肉を焼くという野蛮な食べ方にテンションが上がらないわけがないの、それも一番人気の牛タンよ。
それに最強のペアリング。原点にして正解、ビール。
ほら、もうデュラさんもミノタウロスさんも、取り憑かれたようにアステリア・クリアに手を伸ばして飲み干してる。
「……って私が悪役みたいになったけど! 次いきますよー! 次は少し厚めに切ってこれを乗せます」
そして焼肉屋でよく見るあれをかけます。
「おや、金糸雀殿。それはこの前作っていたねぎ塩では?」
「うん! 牛タンとの相性が恐ろしすぎて虜になった人間数知れずよ。さぁ、食べてみて!」
ふふふふふと私はねぎ塩を無煙ロースターの上で仕上がろうとしている牛タンの上にのせる。この塩だれも作り方は超簡単。長ねぎをきざみ、ニンニクをひとかけすりおろし、中華スープの素を1さじ、そしてごま油を大さじ2。全部まぜればあら不思議。
「「「神話級!!!」」」
異世界の三人が同時に声を上げるその衝撃、私は三人のビールが空になったのを見て新しい物を冷蔵庫から取り出すとライムを添えてわたす。どれどれ、私も、
「んん! ~! んんんん! あっぶない! 美味しすぎ」
んぐんぐと喉を鳴らしながらアステリア・クリアという名のガソリンを身体に入れる。まっこりとどっちにしようか迷ったけど、しまちょうとかのホルモンの時に取っておきましょう。こういうお肉はビールに限るわ! 牛タン、悪魔的食べ物だけど、私は三人の知らないところでとっておきを用意してるんだから! 一心不乱に牛タンとアステリア・クリアを楽しんでいる三人に私は……
「次、いってみる?」
と、ポーズをつけて竹串を見せると、
「金糸雀姐さん、それは……アサシンの暗殺道具でさぁ?」
「そうそう、これで暗闇から……って違いますよ! これはそんな無粋な事をする物じゃなくて、こうしてこう」
私は牛タン串を作ると、沖縄の塩をパラパラを振りかける。レモン、ねぎ塩、そして塩。牛タンを囲う騎士たち。
レモンとねぎ塩ダレの前に殆ど出番がないけど、この塩も、
「かなりあ、あああ! うまーい! うますぎる! 勇者は勇者は、驚きを隠せない!」
ほら、キャラが崩壊するくらいの感動じゃない。
「はっはっは、これは、日本酒や焼酎も合いそうですなぁ! 参った!」
ミノタウロスさんは牛タン串をむしゃむしゃ食べて、
「手前、こんなに美味かったんでさーな?」
「いやぁ、ミノタウロスさんが美味しいかはちょっと分からないですけど、牛タンは私も殆ど食べられないご馳走です。ほらほら、ビール空じゃないですか! どんどんやってくださいよ! ハイネケンとアステリア・クリアは私と兄貴のフェイバリットなんでまだまだありますから!」
「このご恩……」
「いいですいいです! 私も呑み友が出来て楽しいですから! そんな事より、メインディッシュがありますから!」
三人はまだ、あるのか……と驚きながらも期待を込めた目で私を見る。この間に仕込んでいた味噌漬け牛タン。お肉って美味しいけどずっと食べてると油分でやや箸が止まるのよね。そういう時にサムギョプサルを食べるように、ラストは一気に味の濃い味噌漬け牛タン。
すでにその香りで、
「金糸雀殿、すまぬがこの麦酒。二本いただけるか?」
「ゆ、勇者も二本所望!」
「はいはい! ミノタウロスさんもお二つどうぞ!」
さぁ、皆さん。寝ても覚めてもこれが最後よ! 楽しみましょう! この牛タンパーティーのフィナーレは味噌漬けで飾りましょう!
まずいわけがないのよ。みんなせーので頬張る。私達は同時に、月の上から地球を眺めていた。手にはアステリア・クリアを持って、
「姐さん、勇者、デュラハン様。ここは……いい所でさぁな!」
そう言って寡黙なミノタウロスさんは地球に向かってアステリア・クリアの瓶を掲げて飲み干した。
「うん」
「また来たいであるな?」
「いやぁ、これどういう状況?」
あまりのおいしさに意識がぶっ飛んだ私達の意識が私達の部屋に戻ってきた時、もうそこにはミノタウロスさんの姿はなかった。代わりに、大き目の宝石が沢山ついた中華包丁のような物が置かれていた。
「ミノタウロス殿の手斧であるな。きっと、金糸雀殿に」
えっ、どうしようかしら……こんどこれでうどんでも作ろうかしら、ミノタウロスさん。そんな早く帰らなくても良かったのに……牛タンパーティーは大成功だったんだけど、二つ大きな問題が起きたのね。
無煙ロースター、確かに煙はでないんだけど、家焼肉の代償である匂いが部屋から取れるのに3日はかかったし、あれから焼肉の味をしめたミカンちゃんが、
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