俺とアーサー王

しゅん

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16日目「静寂の国」

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ゆらゆらと進む船の上、何事も無かったかのように家に帰ろうとする。
俺の向かいにはアーサーがいる。
あの時の俺の選択はどうだったのだろう。

咄嗟に体が動いた。何も失わないために、犠牲がいるって。
それがガウェイン卿になってしまった。必然的に。
後ろから、騎士道に真っ向から背くように、背中に剣を刺した。
ガウェイン卿は悶えながら、目に涙を浮かべ倒れてしまった。それを俺たちは海に流した。運が良ければ無人島にでも着くだろう。もう俺たちが介入することはやめた。
「なんか、初めて人を殺したみたいになっちゃった」
そんな感覚が付き纏う。
「そうですか···」
島を出てからアーサーはずっとこんな感じだ。元気がなく、まるで廃人のような空気を漂わせている。
この旅行で死人が出た。ランスロットちゃんもそのうちの一人で、自分と長い間過ごした仲間が死に、更には仲間と本気でやり合った。
ランスロットちゃんの死体は船に乗せることはできず、あの島で埋葬した。
「おっ、ようやくスマホ使える」
あの島に行く途中からスマホの調子が悪く、島に着いた瞬間からスマホが充電切れの如く動かなくなった。
···江ノ島ってあんなに小さいのか?もう少し騒がしいところかと思ってた。
小さな島が離れて更に小さくなっていく。

「ただいま」
言ったのは俺だけで、アーサーはあれから無言である。
···家が広く感じる。いや、元々これくらいなのだが最近は窮屈な事が多々あったから。
「···アーサー?」
玄関にも入らず、家の開いた扉の前で直立しているアーサー。
アーサーが顔を俯けながら言った。
「わっ、私は!ここにいてはいけない!」
急に大声でしかも半泣きで。
俺は驚倒しながら思った。
大人が半泣きで情けねぇこと言うなよ。
「お前はもう家族だ、だから、泣くな」
俺がアーサーに手を伸ばすと、
「違う、そういうことでは無いのです!主は死人を初めて見たのでしょう!なぜ無理をするのですか」
無理なんかしてない、グロゲーだって18禁グロ映画だってかなり見た。
でも、それとは違う怖さと悲しみがあって、悲しみが俺にとっては大きかった。
「ガウェイン卿を刺した時も、手が震えていた···なぜ···なぜ···」
アーサーは顔を上げて、

「なぜ、私にそこまでして下さるのですか···?」

アーサーが家からいなくなった。正式は夜逃げされた。朝起きたらいないのだ。
いつぶりだろうか静かで、ちょっぴり寂しくて、何事もない朝は。
朝ご飯を食べて、身支度をして、家を出る。
「···あ、アーサーがいないから鍵しないと」
この埃の被った鍵も触るどころか見るのも久しぶりだ。
冬の寒さはぼっちの俺には少し痛い。
心の大きな穴を突きぬけて、風は循環する。
「また、会えるかな」
誰かさんが聞いててくれますように。





「痛い···痛い、痛い、イタァァァイ!」
砂浜の上、波がバシャバシャ顔にかかるのが鬱陶しい。その潮水が背中の傷に触る。
「はぁ、なんてこった、僕の思ってた台本と違うじゃないか」
体の砂を払い、辺りを見渡す。その風景になんだか見覚えがある。
そう、それは──
「···ハハッ、マジか···これは運命か···僕は祀りあげる者ではなくその本人だったということか!」
ハハハ、という甲高い声が辺りに響く。
それを聞いたのか住民が、集まってくる。
僕は言う。
「キャメロットより参った!アーサー・ペンドラゴンだ」
僕、ガウェインは堂々とこの島を···アヴァロンを支配することにした。

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