箱入りの魔法使い

しゅん

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陥落

午前

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「何用でしょうか、王」

王は魔法で黒子に伝達させ、それを黒子が俺に話すというのがここでの会話方法だ。

「王はお前に褒美をやりたいと申している」

驚いた、遠征中の先輩達でも王からの褒美なんて貰ったことないだろう。

なぜ俺が?

「お前は必ずナツとまた戦う、今のままではただ死ぬだけだろうと」

その通りだろう、途中、黒子の助けがなければ体の全てが消えていただろう。

「褒美はこの国の禁忌魔法の1つ、唯一ナツの魔法、完全支配者ドミネーターに対抗できる魔法、その名も独裁者ディクテイター──」

あの後、王城は大忙しで死体の処理、城の修理で人が行き交っていた。

その死体の中にはマルベールとネスさんの物もあった。

それを見て心の中にモヤモヤができた。

王がしばらくの間は自由時間をくれるそうで久しぶりの城下町に行くことにした。

「街には被害がないのか」

町はいつも通り活気に溢れ、先程までの戦いのこともどうせ護衛団様達がやってくれただの言って楽しそうに今を生きている。

街のホットドッグを買って場内にある川辺に座って食べ始めた。

たまに城内の料理を食べる機会があるが、それとは違って別の美味しさがある。

「ナツさん...」

俺は勝てなかったのだ、前、大学に行ってよく戦ってくださいなどと言えたものだ。

それよりあの人がなぜ王を狙うのだろう。
冷静なって考えることにした。

「権力...いや力...そもそも理由がない?」

考える力は今の俺には無い。

「仲間が殺されても、ナツさん、俺は今でもあなたに憧れてると思うよ」

モヤモヤは晴れない。

ホットドッグのソーセージが落ちた。

「零れ落ちた...」

またナツさんに会ったら、俺は今度こそ心を決めよう。

このまま静かにぬるく死んでいくのは嫌なのだ。


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