箱入りの魔法使い

しゅん

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陥落

覚えてないよ

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ナツさんは左腕だけで俺と戦うみたいだ。

チャンスはこの1度きり、やりきれなければ後ろから右腕が来てやられるだろう。

俺は泥を使う。

子供の頃、親は土木工事の建築家で家に帰ってくるのは夜、毎回ボロボロの手で俺の頭を撫でてくれていた。

ある日、親の仕事現場に行くことにした。

親は重たそうな木材を運んだり、高いところに昇ったりしていた。

魔王の攻撃──。

親の立っていた足場は崩れ、大量の骨組みや木が空から落ちてきた。

まだ固有魔法もなく、魔力すら全く成熟していない時の事だ。

怯えて蹲る俺の前に落ちてきたのは高いところから落ちてきて腕と足の方向がおかしくなっている父さんだ。

「クロ!」

お母さんが俺の方に走ってくる。

どうやら俺の上に大きな土と石の塊が落ちてきているようだ。

死んだと思った。

それをお母さんは止めたんだ。

お母さん自身の下半身と引き換えに。

俺を押し飛ばし、代わりにお母さんの下半身が下敷きになった。

お母さんにはまだ息があった。

「お母さん...お母さん...!」

「クロ...ごめんねぇ、何も...やってあげら...れ...なく...て」

「お母さん、お母さん!」

「クロは...みんなを救う...優しい...ひと...に...」

お母さんはそれっきり一切動かなかった。

その時から俺に固有魔法が出来た。

泥を使う、この力が。

───

左腕に泥をまとめる。

俺の固有魔法は瞬間火力にだいぶ乏しい。

だけどやる、俺らしくないかもしれない。

今更だがなんで俺がこんなことしてるのかも分からない。

殺すしかないんだッ──!

「デリート」

左腕が消えた。

「考えが甘いよ、クロ」

「まだッだッ!」

脚がある!

脚を振りかぶるが、ドスッと後ろから来た右腕に腹を貫かれる。

しまった...熱くなりすぎた。

泥を使え、泥を...

なんだろう...ねむい...。

あぁ、ナツさん...

「...ありがとうございました......」

そこで目を閉じた。

「なんで...君が感謝なんかするんだい?」

返事はない。

「おい」

やはり返事は無い。

「ナツさん...」

そこには王側近護衛団の一人とリッカがいた。

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