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7話 妖精と人間の密約
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お父様は妖精会談の内容を語る。
「ディザリエ国王もエイムズ卿も、まさか隠れている我らの方からコンタクトを取ってくるとは思ってもいなかったようで、大変驚いていた」
そりゃそうだ。
この森は人間からユグドラシアを隠すためにありとあらゆる幻術が仕掛けられている。人間は森の奥に行けば行くほど方向感覚を失い、戻れなくなる。エメリーヌ叔母様が私を捨てた場所、そこが人間の活動しうる最深部なのである。
そのためこの森は人間からは“魔の森”と呼ばれていた。入り口には“立入禁止”の立て札があったが、それに気付かないでか、気付いていながらか、奥まで行くと言ったハンターや冒険者が帰らぬ人となる度、街では“森に棲む悪魔”の仕業だと噂されていたのだ。
そんな“悪魔側”からのコンタクト。驚かないはずがない。
お父様は続ける。
「我らが隠れていたのは、数百年前に得体の知れない者らが南の草原を開拓、占領し始め、その者らから我らの国を守るために結界を張ったのが始まりだ」
「妖精はこの島の先住民で、人間は新たに島を開拓した移民だったんだ……!」
「うむ。その話も踏まえた上で、我々は同じ島に住む民として、互いに友好を深めたいと合意した。私は世界樹から授かった力の一つに、相手の嘘を見抜く能力を持っている。ディザリエ国王やエイムズ卿は本心から我々と仲良くしたいと思っていると確信した。しかし、世界樹は慎重だった」
「『……』」
私もタニアもお父様の話に真剣に聞き入っていた。
「そこで友好関係を結ぶ上で世界樹が課した条件、それは“私の血を引くティニーをディザリエ王国で育て、ティニーが20の成人を迎える頃、和睦の使者としてユグドラシアの地へ遣わせる。ティニーの人となりを見て人間と真に友好関係を結ぶかどうかを決める”、そういうものだった」
「私が……和睦の使者……」
「ディザリエ国王はその世界樹の条件を呑んだ。たとえ20年後になったとしても我らと友好関係を築きたいと、そう言ってくれた。そのため、フィオナとティニーとは20年間会えなくなってしまう事になるが、その先の幸せを考えて私も同意したのだ」
「そっか……だから私は、国民にも分かりやすく国の代表になるために、王族になる予定だったんだ」
「そうか、ティニーはそう聞いていたのだね。そうだね、ディザリエ国王はフィオナとティニーを丁重に扱うため、彼の息子であるランドルフ王太子にフィオナを嫁がせると言ったんだ。婚姻を結ぶのはあくまで民に示しをつけるためで、形式的なものに過ぎず、ティニーが使者になるまでの期限付きだと言っていた……私は心底複雑な気持ちだったが、それも将来のため、呑み込んだ……」
「……私が5歳になったら、お母様は王太子殿下と結婚する予定で婚約していたの。その時に北の森の妖精族の存在も公表するって。でも、お母さんはその少し前に病気になっちゃって……私が5歳になったら死んじゃった。結婚の話とかは全部うやむやになっちゃって……お母様の妹であるエメリーヌ叔母様が私を引き取っていたから、お母様の代わりに最近王太子殿下と婚約したよ……」
「……何?」
お父様の眉がピクッと動く。
「え? どうしたの?」
「フィオナは病気で死んだのか……?」
「うん、流行り病だよ……?」
何だろう、お父様のこの聞き方、なんか胸騒ぎがする……。
「フィオナにも当時まだお腹の中に居たお前にも、結界に似た加護を掛けてある。お前の分はまだ機能しているようだ。それは汚れた空気を寄せ付けない加護。流行り病の病原体など吸い込むはずがない」
「えっ!?」
私は頭が真っ白になった。だって、確かにこの目でお母さんが病気になって衰えていく所を見てきた。お医者様も流行り病と同じウイルスに感染してるって、そう言ってた。
「私、嘘吐いてないよ! この目でちゃんと見て……それで……お母様は……!」
当時の何も出来ずに悔しい気持ちを思い出し、涙をにじませる。そんな私の頭を、お父様はそっと撫でてくれた。
「分かっているよ。お前が嘘を吐いていない事など、私が一番良く分かっているんだ」
そっか、お父様には嘘を見抜く能力があるって。
「じゃぁ、どうしてお母様は、その加護があるのに、流行り病に……」
お父様は、怒りに震えながらこう言葉を絞り出した。
「空気感染ではなく、誰かが故意にフィオナの身体の中にウイルスを入れたんだ……」
「『そんな……!』」
私もタニアも目を見合わせて固まった。そんな酷い事を出来る人間がこの世にいるのか。そう思うと、私に中に殺意にも近い怒りが込み上げて来るのを感じた。
「ディザリエ国王もエイムズ卿も、まさか隠れている我らの方からコンタクトを取ってくるとは思ってもいなかったようで、大変驚いていた」
そりゃそうだ。
この森は人間からユグドラシアを隠すためにありとあらゆる幻術が仕掛けられている。人間は森の奥に行けば行くほど方向感覚を失い、戻れなくなる。エメリーヌ叔母様が私を捨てた場所、そこが人間の活動しうる最深部なのである。
そのためこの森は人間からは“魔の森”と呼ばれていた。入り口には“立入禁止”の立て札があったが、それに気付かないでか、気付いていながらか、奥まで行くと言ったハンターや冒険者が帰らぬ人となる度、街では“森に棲む悪魔”の仕業だと噂されていたのだ。
そんな“悪魔側”からのコンタクト。驚かないはずがない。
お父様は続ける。
「我らが隠れていたのは、数百年前に得体の知れない者らが南の草原を開拓、占領し始め、その者らから我らの国を守るために結界を張ったのが始まりだ」
「妖精はこの島の先住民で、人間は新たに島を開拓した移民だったんだ……!」
「うむ。その話も踏まえた上で、我々は同じ島に住む民として、互いに友好を深めたいと合意した。私は世界樹から授かった力の一つに、相手の嘘を見抜く能力を持っている。ディザリエ国王やエイムズ卿は本心から我々と仲良くしたいと思っていると確信した。しかし、世界樹は慎重だった」
「『……』」
私もタニアもお父様の話に真剣に聞き入っていた。
「そこで友好関係を結ぶ上で世界樹が課した条件、それは“私の血を引くティニーをディザリエ王国で育て、ティニーが20の成人を迎える頃、和睦の使者としてユグドラシアの地へ遣わせる。ティニーの人となりを見て人間と真に友好関係を結ぶかどうかを決める”、そういうものだった」
「私が……和睦の使者……」
「ディザリエ国王はその世界樹の条件を呑んだ。たとえ20年後になったとしても我らと友好関係を築きたいと、そう言ってくれた。そのため、フィオナとティニーとは20年間会えなくなってしまう事になるが、その先の幸せを考えて私も同意したのだ」
「そっか……だから私は、国民にも分かりやすく国の代表になるために、王族になる予定だったんだ」
「そうか、ティニーはそう聞いていたのだね。そうだね、ディザリエ国王はフィオナとティニーを丁重に扱うため、彼の息子であるランドルフ王太子にフィオナを嫁がせると言ったんだ。婚姻を結ぶのはあくまで民に示しをつけるためで、形式的なものに過ぎず、ティニーが使者になるまでの期限付きだと言っていた……私は心底複雑な気持ちだったが、それも将来のため、呑み込んだ……」
「……私が5歳になったら、お母様は王太子殿下と結婚する予定で婚約していたの。その時に北の森の妖精族の存在も公表するって。でも、お母さんはその少し前に病気になっちゃって……私が5歳になったら死んじゃった。結婚の話とかは全部うやむやになっちゃって……お母様の妹であるエメリーヌ叔母様が私を引き取っていたから、お母様の代わりに最近王太子殿下と婚約したよ……」
「……何?」
お父様の眉がピクッと動く。
「え? どうしたの?」
「フィオナは病気で死んだのか……?」
「うん、流行り病だよ……?」
何だろう、お父様のこの聞き方、なんか胸騒ぎがする……。
「フィオナにも当時まだお腹の中に居たお前にも、結界に似た加護を掛けてある。お前の分はまだ機能しているようだ。それは汚れた空気を寄せ付けない加護。流行り病の病原体など吸い込むはずがない」
「えっ!?」
私は頭が真っ白になった。だって、確かにこの目でお母さんが病気になって衰えていく所を見てきた。お医者様も流行り病と同じウイルスに感染してるって、そう言ってた。
「私、嘘吐いてないよ! この目でちゃんと見て……それで……お母様は……!」
当時の何も出来ずに悔しい気持ちを思い出し、涙をにじませる。そんな私の頭を、お父様はそっと撫でてくれた。
「分かっているよ。お前が嘘を吐いていない事など、私が一番良く分かっているんだ」
そっか、お父様には嘘を見抜く能力があるって。
「じゃぁ、どうしてお母様は、その加護があるのに、流行り病に……」
お父様は、怒りに震えながらこう言葉を絞り出した。
「空気感染ではなく、誰かが故意にフィオナの身体の中にウイルスを入れたんだ……」
「『そんな……!』」
私もタニアも目を見合わせて固まった。そんな酷い事を出来る人間がこの世にいるのか。そう思うと、私に中に殺意にも近い怒りが込み上げて来るのを感じた。
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