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2 不審人物

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 そのあと、乙葉と柚子は、互いに裸であるということも忘れ、ふざけながらも、たのしく水をかけ合い続けた。
 そんな平和な時間を過ごしていた時、急に、ドターンという大きな音がどこかから聞こえ、乙葉と柚子はビクッと体を震わせた。そしてすぐに、なにかから体を隠すようにして、水の中に潜った。
「えっ⁉︎」
「なっ、なに?」
 動揺した二人は、水の中で自身の体を抱きしめながら、次々と声を出した。
「なんか、あそこの中から聞こえたような気がするんだけど……」
 柚子はそう言うと、噴水の広場のすぐ近くにある、建物を指さした。
「きょ、京一たち……?」
 乙葉が言った。
「そんなわけないわよ。だってあの、まじめな京一くんよ? 女子の裸をのぞきに来るくらいなら、剣道の練習をしていた方が、マシだっていうと思うわ、多分……本当のところはわからないけど」
 口元に手を当てながら、柚子は恥ずかしそうに、モゴモゴと言っている。
「それに、あの気の弱い久遠さんだって、のぞきに来る度胸なんて、ないに決まってるわよ。まあ、ルーカスは、覗きというより、おもしろがって来る可能性は、ちょっとあるかもしれないけど、それならきっと、小屋から出る前に、京一くんたちが止めているはずだし」
「そうね、たしかに言われてみれば」
 乙葉はすぐに納得した。
「じゃあ、あの物音は——?」
 物音の正体を考えた途端、二人の顔は、サーッと青白くなっていった。
「はやく出よう、お姉ちゃん。私、もうここにいるのこわくなってきた」
 怯えた様子の柚子が急かした。
「ええ……すぐに着替えて、京一たちのところへいきましょう」
 乙葉が言うと、不安そうに、柚子はうなずいた。
 昨日もおなじように、風もなにもないのにゴミ箱が倒れ、大きな物音がしたことはあった。しかし、その時は服を着ていた。いまはなにも身につけていない、まるで無防備な裸の状態だ。
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