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3 隠し部屋

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 苦々しい顔をしながら、柚子が言った。
「そうか?」
 なぜだかおどろいたような顔をして、京一が言った。
「俺は意外と、美味うまいと思うんだけどな」
「いや、それはありえない」
 両手を前に出して、きっぱりと柚子が否定した。
「まあ、そうやって生き長らえる方法もあるんだ。だから、希望を失うのはまだ早いぞ」
 そう言うと、京一は微笑んだ。
「うん……言われてみれば、たしかにそうね」
 柚子が言った。
 京一に言われて、柚子はずっと不安で仕方なかった気持ちが、すこしだけ軽くなったような気がした。
 その時、京一の肩越しに、なにか黒い影が、ササッと揺れ動くのが見えた。途端、口を開けて青ざめた顔になった柚子は、京一にそのことを伝えようと思い、急いで影が動いた場所に向かって、指をさした。
「い、いま! なんか動いた!」
「え?」
 いぶかりながら、京一は後ろを振り向いた。
「別になにも見えないが?」
「でも、たしかに動いてた!」
 柚子はなんとか、京一にわかってもらおうとして、身振り手振りを加え、さきほど見た影を再現しようとしながら、
「こーんな、すこし大きめな、人の影みたいなの」と伝えた。
「気のせいじゃないか?」
 顔をしかめながら、京一が言った。
「本当よ!」
 京一に信じてほしいあまりに、必死な顔をして、柚子が言った。
 その様子を見た京一は、さすがにただごとではないと判断したのか、ようやく、
「わかった。そこまでいうなら、いってたしかめてみよう」と言った。
 二人は警戒しながら、影が動いた場所まで移動した。京一は、万が一の時のためにそなえ、見つけたばかりの刀をベルトループからはずし、かまえながら歩いていた。
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