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3 隠し部屋

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 そしてついに、そのタイミングはきた。
「えいっ!」
 かけ声と同時に、勢いよく、ルーカスが木の棒で球を突いた。
 それはまるで一瞬の出来事のように、黄色の球は、銀色の球に、カキンという気持ちのいい音を立てて、ぶつかった。そしてぶつかった銀色の球は、ゴロゴロと素早く転がって、右端の穴の中に入っていった。
 華麗かれいな打ち方とは言えないが、上手い。乙葉は思わず感心してしまった。
「ねえ乙葉、いまの見てた?」
 褒めてほしそうな顔をして、ルーカスが乙葉を見た。
「僕、すっごくカッコよくない? 最高にクールだよね!」
「あんまり認めたくないけど……うん」
 躊躇ためらいがちに乙葉が言った。
「カッコよかったわ、ルーカス」
 褒められたルーカスは、自分が見事穴に入れられたポケットした場面を乙葉に見てもらえたことがうれしくて仕方がないようで、小躍りをはじめた。
 乙葉は浮かれたルーカスを放っておいて、銀色の球がビリヤード台の中をとおっていく様子を、しばらく見た。そのあと、それほど時間がかからずに、銀色の球は、リターンボックスへと戻ってきた。
 三角の形をしたリターンボックスを見ると、なぜか真ん中に丸いくぼみがあった。どうなるのかじっと様子を見ていると、銀色の球は、ゆっくりと穴に近づいていく。そして、すっぽりとちょうどよく、穴の中にはまった。
 すると、そのことが引き金になったのか、リターンボックスの中が、急に光りはじめた。
「えっ!」
 興奮しながら乙葉が言った。
「この中、光ってる!」
 ルーカスは、まだ小躍りを続けていて、乙葉が言っていることが、まるで耳に入っていないようだ。
 乙葉は、話を聞いていないルーカスをいちべつだけして、またビリヤード台に視線をもどした。
 ビリヤード台は中でガタガタと、きしんでいるような音を立てている。
 なにが起こっているのか、乙葉にはさっぱりわからず、ただただ混乱するばかりだった。
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