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3 隠し部屋

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 おそるおそる、乙葉が聞いた。
「もちろん」
 当然だというように、ルーカスが言った。
 乙葉は、高い場所がそこまで苦手なわけではなかったが、一歩踏みちがえば、真下に落っこちてしまうのではないかと危惧きぐしていた。
「じゃあ乙葉、僕の手を握ってて」
 ルーカスはそう言うと、乙葉に手を差し出した。
「あ、うん」
 てっきり、自分で下りるのだとばかり思っていた乙葉は、想定外のことでおどろいたが、素直に従い、ルーカスの手を握った。
 ルーカスの力で下まで下りるのなら、落下の心配もないし、疲れることもない。乙葉はすっかり安心しながら、ルーカスに身をゆだねた。
 二人はそのまま、穴の下までゆっくりと浮きながら下りていった。
 下りている間、乙葉は自分とルーカスが浮かんでいる姿を、鏡のようなステンレスを通して、終始、ぼんやりと眺めていた。
 なんだか不思議の国のアリスに出てくるアリスになった気分だ。見えるものすべて、ステンレスの壁とはしごだけだけど。
 そんなことを思いながら下りていると、徐々に地面が見えてきた。上から十メートルは下りただろうか。やっとのことで、二人は、ふわりと地上におり立った。
 地面を足で踏んだ感触は、布を踏んでいるような感じがしたが、下になにがあるのか知りたくても、周囲が暗いせいで、なにも見えない。
「電気つけるね」
 ルーカスはそう言うと、近くの壁までいき、そなえつけてあるスイッチを押した。すると、たちまち天井にいくつかの明かりがつき、ステンレスの壁に反射して、一瞬きらりと光った。
 周囲が明るくなったところで下を見ると、古くなって所々黒く汚れている、ほこりだらけの臙脂色えんじいろをしたベルベットの絨毯が敷かれていることに気づいた。なぜか、さきほどいた地下とちがって、ここだけ掃除がされていないことがわかる。
 それから、その絨毯をたどって見ていくと、一番奥にある、扉まで続いていることがわかった。道はそれほど長くはない。
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