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5 地獄行きジェットコースター

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 柚子がカフェを指さして言った。
 カフェを見た京一は、すこし考えるそぶりを見せると、
「カフェか。よし、早速いってみよう」と言った。
 早朝の、まだ明るくなりきっていない空の下、四人はすぐに、カフェの中に入った。
「おーい、誰かいる?」
 歩きながら、乙葉が呼びかけた。
 その横では柚子が、
「銀司ー、四郎ー」と、大声で言った。
「権太さーん、出てきてくださーい!」
 二人に続けて、久遠も声を張り上げた。
 厨房に向かっていると、なにやら床に、赤色のペンキのようなものと、片方しかない脱ぎ捨てられた靴が、異様にまき散らされている光景が、突然、目に飛び込んできて、乙葉は思わず足を止めた。
「ねえ、ちょっと、あそこになにかある……」
 おそれながら乙葉が言った。
「え? なにがあるの?」
 柚子が不思議そうに言った。
 ふたりのやりとりを聞いて、異変を感じたのか、京一は先に立って、厨房の奥へと入っていった。
「あ、京一、ちょっと待ってよ」
 なんだかとても胸騒ぎがしながらも、京一を追いかけて、乙葉も厨房の奥へと急いだ。
 誰よりも先に、厨房に近づいた京一は、ハッとしたような顔になると、
「これは一体、なにごとだ……」と呟いた。
「えっ……」
 続いて厨房に向かった乙葉は、おどろきのあまり、言葉に詰まった。
 目の前に広がっていた光景は、見るも無残なものだった。赤色のペンキだと思っていたものは、棚の近くで倒れている、人間の腹から流れていた血で、その当の人間は血だらけになって、あらぬ方向に、体をねじ曲げられている。
「うっ」
 血の生臭い匂いと、小便のような匂いが混じって、厨房に充満じゅうまんし、強烈な刺激臭が、鼻の中を通過したのと、異様な姿で倒れている人間の、残酷なありさまを見て、気持ち悪くなった乙葉は、吐きそうになって、思わず口を覆った。
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