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5 地獄行きジェットコースター

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 そしてその三人が見守る、とても緊迫した状況の中、久遠は小声でぶつぶつと、
「これが停止ボタンで、これが速度調整ボタン…」と言いながら、台の上で指さし確認をおこなっていた。
「本当に大丈夫かなあ」
 柚子が不安げに言った。
「しつこいぞ。すこしは久遠を信用しろ」
 京一がするどく叱責しっせきした。
「まあでも、もしかしたら、このモニターに書いてあることは、実はすべてはったりで、なにも起こらないかもしれないし、ね?」
 自信がなさそうに、柚子が言った。
「そうとも限らないぞ」
 意味深げに京一が言った。
 乙葉はここまできたら、もうどうにでもなれ、という思いでいた。
 いずれにしても、このジェットコースターを止めないかぎりは、鍵があるかどうか確認できない。それなら、もはややってみるしかほかに手段はない。だから望みをかけるべきだ。
(久遠くんを信じるしかない)
 強い思いで、乙葉は久遠を見つめた。
 しばらくすると、モニターに映っていた静止画は消え、最初の時とおなじように、動いている車両の座席の様子が映し出された。
「よし、じゃあやってみます」
 確認が終わったのか、久遠が覚悟を決めたように言った。
 途端に、その場にいた全員が息をんだ。
 久遠は備えつけてあるレバーを右手でゆっくりと引くと、メーターを確認した。そして左手では、ひし形の小さな緑色のボタンを人さし指で慎重に押し、しばらくレバーを引いたままで、今度はモニターをじっと見ていた。
 乙葉たちは久遠が操作しても、いまのところなにも起きないことを察し、みんなで長い息を吐いた。
 そのあともボタンを押したり、モニターを確認したりと、久遠はせわしく操作をつづけた。
 久遠がボタンを押す時には必ず、乙葉の心臓がドクドクとはげしく動き、爆発するのではないかと、いてもたってもいられない気持ちになった。しかし、目の前でがんばっている久遠のことを考えて、なんとか耐えた。
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