ルーカスと呪われた遊園地(下)

大森かおり

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4 死闘

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「これでよし、と」
 久遠と銀司、それぞれの手当てが終わった、柚子が言った。
「うまく手当てできているかわからないけど、なにもしていないよりかは、マシだと思うわ」
 柚子の言うとおり、久遠たちに巻かれた包帯は、少し不格好だった。しかし、二人はそんな包帯の巻き方でも、満足しているように見えた。
「ありがとうございます、柚子さん」
 久遠が座りながら、柚子に礼を言った。
「おかげで、すこし楽になった気がしますよ」
「ああ、俺もだ。これも嬢ちゃんのおかげだな」
 続いて隣にいた銀司が言った。
「サンキュー」
「べ、別に、当たり前のことをしただけだし。二人とも、すこし大げさよ」
 二人に礼を言われて、思わず照れた柚子が、素っ気なく言った。
「それよりよ、安心したら、なんか腹減ってきたなあ」
 銀司があぐらをかきながら言った。
「ああ、それならさっき、ムムが持ってきてくれた、水と果物があるわよ」
 柚子が言った。
「マジかよ!」
 うれしそうに、銀司が声を上げた。
「ええ。そこにある袋の中に入ってるわ」
 柚子が袋を指さして教えると、銀司は早速、部屋の隅の方で、床にじか置きされている白い袋を手にとり、中をまさぐりはじめた。
 すると、リンゴや桃などの果物がいくつかと、水筒に入っている水が出てきた。
「本当だぜ。おい、はやいとこ、みんなで食べようぜ」
 銀司が急き立てた。
 三人は袋のまわりに集まると、それぞれ果物をとって食べはじめた。
「なんか、生き返った感じがします」
 モモを食べながら、久遠がしみじみとそう言った。
「お、おえも」
 銀司は両手にりんごを持ちながら交互にかじり、頬をパンパンにふくらませて言った。
 それを見て、柚子は呆れた顔をすると、
「あんた、ちょっと食べすぎじゃない?」と言った。
 銀司は口の中のものを、一気に飲み込んでから、
「別にいいだろうが、腹減ってたんだから」と言った。
 そうして三人は、ムムの持ってきた果物を夢中になって食べつづけた。みんなお腹が空いていたせいで、やがてたくさんあった果物が、あっという間になくなってしまった。
 それですっかり、胃の中が満たされた銀司は、お腹を叩きながら、
「ふー、食った食った」と、満足そうに言った。
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