Mediocre Magic

猫町氷柱

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第1章過去編

第2話 地獄絵図

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リリユスの盾から先ほど吸収した火が溢れ出した。だが色はどす黒い紫色に変貌している。圧縮した炎が口から物凄い勢いで吐き出された。その炎は拡散していない分一点に力が集まっているため貫通力が高い。
 「マザー、どうか私の後ろに隠れていてください」

 「ええ……」
エドヴァンの背後に寄り添うマザー。紅一点の一撃は堅牢な砦の弱所をついてきた。僅かに開いている隙間に見事に入り込むように向かってきた。
 それは本当に一瞬、隙間から入り込んだ光はエドヴァンとマザーの間を通り抜けると時間差で地面が吹き飛び2人は爆炎に巻き込まれ吹き飛ばされた。
 叫び声が部屋に木霊する。エドヴァンは身に纏った鎧が割れ、額から血が滴り落ちた、マザーは足の骨が折れ床にうずくまった。
 彼女のどこにこれほどの魔力があるというのだろうか。性格はおとなしく、つい先日までは簡易魔法もままならなかった。だが、信仰心はとても強くマザーの事を慕っていた。あのふくよかで心優しい彼女はどこへ行ってしまったというのか……

 予想以上に激しい一撃であばら骨が折れ、意識が朦朧としてきていた。
だが、マザーをお守りするためにもここで死ぬわけにはいかない。よろよろと立ち上がったエドヴァンはマザーの周りに結界を張った。治癒能力を秘めた結界を……マザーは病気でもある。もう戦うには限界である。
 リリユスは愛情を注いできた孤児の1人であるが今は四の五の言っている暇はない。禁書が渡ってしまえば世界に混沌を招く恐れがある。それだけは何としても防がなければならない。
 心苦しいがあれを呼ぶしかない。あまりに強力な荒くれ者を……だが、呼ぶまでに少し時間を要する。
 「エドヴァン、どう……やら精霊を呼ぶのです……ね。ですが呑まれないで下さい。あ……なたも致命傷、精霊は弱者には従順ではありませんから」
消え入りそうな声でマザーは心配の眼を向けた。
 
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