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第4章:幾多の呼び名を持つ者
第31話:恩知らず
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※ ※ ※ 《回想》 アリアンナ邸 ※ ※ ※
アリアンナ邸の大広間では現在、白熱した勝負が繰り広げられていた。
ブレゴとフィリップが緊張した面持ちで向かい合っている。
「えっと…、ミカエル様…なのでは?」
フィリップは辿り着いた答えを、自信なさげに口にした。
するとブレゴの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「外れ!」
チンピラ達は大喜びである。
彼らにようやくこの完璧な執事に、知恵で勝てることが見つかったのだから。
「よくやった、ブレゴ!」
「今日だけは言ってやる!お前は最高だ!」
ブレゴはチンピラ達にとってヒーローだ。
ようやく頭脳でこの執事を上回ったのだ。
「いやいや、年は取りたくないものですね。では誰なんですか?クラウ・ソラスの最後の所有者は?あれはミカエル様の剣だったのでは…?」
「爺さん、それはな・・・。」
ブレゴがもったいぶる。
とっておきの問題の、とっておきの答え。それは…。
「バルベリスだ。」
クイズの答えを明かしたのは、たった今現れたティモシー・アリアンナ伯爵であった。
「魔王の中でも出自が明らかにされてなく、非常にしぶとかった。奴がクラウ・ソラスの最後の所有者だったんだ。」
「言わないでくれよ、ボス!」
折角の美味しいところを伯爵に持ってかれてブレゴはすね気味のようだ。
いくら彼が偉いとはいえ、人の楽しみを横取りするのは良くない。
「知恵比べをしてるのか。まさかフィリップに勝つとは。素晴らしいぞ、ブレゴ。よくやった。」
ブレゴは天に昇るような気持ちだ。
いつも馬鹿にされてきた人生でようやく褒められたのだ。しかもボスに。
「ありがとう、ボス…!滅茶苦茶嬉しいぜ…!」
「楽しみを奪ってすまなかった。お詫びに私と勝負だ。いくらでも難問をぶつけるといい。」
その後の伯爵とブレゴのうんちく対決に勝負がつくことはなかった。
※ ※ ※ 《現在》 アリアンナ邸 中庭 ※ ※ ※
「…。」
ブレゴは無言で水を抜いた噴水の掃除をしていた。
悪臭を放つ大量の藻や虫の死骸を素手でひたすらかき出している。
「楽しかったな、あの時は…。」
楽しかった時間は過ぎ去ってから、いかに貴重なものか気づく。
何故、もっとあの時間を大切にしなかったのかと。
「道具使えよ。猿か、お前は。」
噴水の中に一本のシャベルが投げ込まれる。
ブレゴに声をかけたのは彼を散々、罵った飲んだくれ野郎だった。
「何しに来たんだよ。」
「ボスから逃げるためだよ。俺にもやらせろ。」
今の伯爵は何をやらかすか分かったものではない。
留守番組は掃除でも、なんでもいいから仕事をやって距離を取っているわけだ。
ブレゴと飲んだくれ野郎は黙って、噴水の掃除を始めた。
「お前、逃げねぇのか?」
「何だよ、急に。」
飲んだくれ野郎の唐突な質問にブレゴはちんぷんかんぷんだ。
「呪いだか、なんだか知らんがもう天使のうんちく勝負に付き合ってくれるようなボスはいない。それでもここに居続けるのか?」
「理由なら色々あるけど…、1つは爺さんの為だ。」
それはブレゴに敬意を持って接してくれた数少ない人の為であった。
「俺なんかでも手下にいねえと、爺さんが引退出来ねえだろ。楽しい余生を過ごしてほしいんだよ。」
「滅茶苦茶まともな理由じゃねえか。」
飲んだくれ野郎は言葉を失った。
いつも馬鹿にしていたブレゴのあまりに高潔な理由に。
「じゃあ、お前はなんで逃げないんだよ。」
「他に行く当てがねえんだ。それだけだ。」
実際、屋敷のチンピラが出ていかない理由は大抵これだろう。
飲んだくれ野郎の明かしたここに居つく理由に2人は笑い合うのであった。
「悪かったな。捨てられ野郎とか呼んで。」
「なんなんだよ、さっきから。どうしたんだ、お前?」
飲んだくれ野郎の唐突な行為の連続にブレゴは戸惑うばかりだ。
手伝い、質問、謝罪。訳が分からない。
「俺のこと、お漏らし野郎って笑わないからな。」
これこそブレゴの所に来た真の理由だ。
皆がピリピリしている状況で、お漏らしによって彼は恰好の笑いの的になってしまったわけだ。
「だったらニブチンも…、ん?」
ブレゴと飲んだくれ野郎の会話を、遠くから聞こえる叫び声が中断させた。。
なにやら正門の方が騒がしい。
「どうか、どうか伯爵様に会わせてくれぇ!」
「だからさあ、止めといた方がいいって。」
非常事態かと剣を持って門に来た2人であったが拍子抜けである。
正門の見張りと対峙しているのは、1人の老人だけだ。
「わしらが原因なんじゃ!伯爵様がご乱心なされたのは!どうかその責任を取らせてくれぇ!」
老人は必死だ。
悪そうな足を地面に着けて必死に縋りついている。
「どうかしたのか?」
「ブレゴとお漏らし野郎か。このジジイ、村の長老なんだが度々屋敷に来ててよ。お嬢様に家督を譲るようボスを説得させてほしいってお願いしに来るんだよ。」
伯爵の乱心の噂が広まった時からであった。
家族を心配させてまでやってきてはここで懇願していた。
「いい加減にしとけよ。特に今のボスはすこぶる機嫌が悪いんだ。んなこと言ったら、豚の餌にされるぞ。」
「若き世代のためなら命など惜しくない!お嬢様は未熟じゃが、必ず良き統治者になれるはずじゃ!どうか悲劇が生まれぬ内に家督相続を!」
幼き日の恐怖は老いたる日々に強烈な遺恨となる。長老は忘れられないのだ。先先代が敷いた圧制を。
「うるせえんだよ、ジジイ!とっとと帰れ!」
「ひいいっ!」
ブレゴが慣れない脅しを叫ぶと、老人は怯えて逃げかえるのであった。
足を引きずりながら、ゆっくりと。
「脅し方が下手だな。また来るぞ、きっと。」
「だろうな。」
進言したところで伯爵が聞き入れるはずがない。
脅しで救える命があるなら救うべきだ。
「んっ?」
馬に乗った口元にスカーフを巻いた男が屋敷に向かってやってくる。
領主の屋敷の前にしながら不遜な動き、そしてその風貌。明らかに怪しい。
「ジジイ、景気づけにくたばりな!」
「助けてっ!」
そいつはすれ違いざまに、長老に向かって馬上から剣を振り上げた
しかし、間一髪のタイミングで門番の放った矢が悪党の首を射抜く。
「応援を呼べ!」
門番は角笛を吹いて、屋敷中の仲間に知らせる。
今が緊急事態であることを。
「さっさと来い!」
「ひゃあああ!」
ブレゴは長老の元へ走ると、襟を掴んで門まで引きずった。
助けたなら最後まで、伯爵の教えだ
「敵襲か!?」
角笛を聞いた仲間たちが武器を持って門に集まってきた。
約10人。これが屋敷にいる人員の全てだ。
「他の連中は?バズラは?」
「ダメだ、賊の捜索に出かけてる。」
敵が次々と屋敷の前に群がってくる。
こちらの倍以上の人数がいる。明らかに劣勢だ。
「こいつら、知ってるぞ。都に巣食ってたギャングだ。」
間違いない。
かつてこのギャング連中と小競り合いが起こしたからだ。
「よう、伯爵の取り巻きども。都で一悶着があって、壊滅寸前でな。起死回生といきたくてこの屋敷の金銀財宝が欲しいんだ。よこしな!」
悪夢は突如、起こった。
騎士団や便利屋によってお頭も幹部も捕まり、根城も失った。
泣く子も黙るギャングはあっという間に行く当てのないゴロツキ共に成り下がったのだ。
「引き返せ!うちにはまだまだ仲間が…!」
「もういねぇよな!間違いねぇ。この屋敷にいんのはこいつらだけだ!」
背後から聞こえるその声。
聞くだけでも虫唾が走る。
「なんでお前がここにいる!?」
その声の主は泥まみれで、汚らしい大きな袋を引きずっていた。
そいつのことを知っていて当然だ。かつての仲間だったのだから。
「ベンズ!ボスの金で飯食って、酒飲んで、女抱いて挙句はギャングと舞い戻るなんざどういうことだ!?」
ベンズ。
娼婦の顔を傷つけ、ブレゴがアマンダに捨てられる理由を作ったクソ野郎だ。
「言っただろ、仕返しするってな。あらよっと。」
ベンズは引きずっていた袋の中身をぶちまけた。
ブレゴ達は引きつり、ギャングは口笛を吹く。
「こりゃすげぇ!本当に伯爵は人を食ってたのかよ!」
おびただしい量の人骨。10人、20人なんてものではない。
ベンズはその中に転がる骨をつまみ上げて、掲げた。
「この小指と親指のない手はバリダンだな。屋敷のメイドを手を出そうとした。これは村人の顎を砕いた歯無しのビス。この親指だけの足はタフザ、使用人を刺しやがった。骨ならまだまだあるぜ、100人分はある!みんな制裁された奴らだ!」
一通り、骨の検分を済ませるとベンズは恍惚に満ちた表情を浮かべた。
この時をどれほど待っていたか。
「これで分かっただろ!お前らはあいつにとっちゃ、ただの家畜なんだよ!俺らに加わってこの屋敷から根こそぎ奪って、伯爵をぶちのめそうぜ!」
「お前と一緒にすんじゃねえよ!この恩知らずが!」
チンピラに必須の技、脅しもろくにできないブレゴ。
しかし、この時ばかりは怒りを隠せなかった。
この男はブレゴの恩人、ティモシーの厚意を無碍にしたのだから。
「だったらしょうがねえ。伯爵共々、ぶっ殺して…。」
「命を拾っただけでは我慢出来なかったようだな?」
ベンズの背後からかかる声。
振り向くと、そこには最も吠え面をかかせてやりたい人物のご登場だ。
「随分と面白いことを起こしてくれているな。」
この地の支配者、チンピラたちのボス、ティモシー・アリアンナ伯爵だ。
アリアンナ邸の大広間では現在、白熱した勝負が繰り広げられていた。
ブレゴとフィリップが緊張した面持ちで向かい合っている。
「えっと…、ミカエル様…なのでは?」
フィリップは辿り着いた答えを、自信なさげに口にした。
するとブレゴの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「外れ!」
チンピラ達は大喜びである。
彼らにようやくこの完璧な執事に、知恵で勝てることが見つかったのだから。
「よくやった、ブレゴ!」
「今日だけは言ってやる!お前は最高だ!」
ブレゴはチンピラ達にとってヒーローだ。
ようやく頭脳でこの執事を上回ったのだ。
「いやいや、年は取りたくないものですね。では誰なんですか?クラウ・ソラスの最後の所有者は?あれはミカエル様の剣だったのでは…?」
「爺さん、それはな・・・。」
ブレゴがもったいぶる。
とっておきの問題の、とっておきの答え。それは…。
「バルベリスだ。」
クイズの答えを明かしたのは、たった今現れたティモシー・アリアンナ伯爵であった。
「魔王の中でも出自が明らかにされてなく、非常にしぶとかった。奴がクラウ・ソラスの最後の所有者だったんだ。」
「言わないでくれよ、ボス!」
折角の美味しいところを伯爵に持ってかれてブレゴはすね気味のようだ。
いくら彼が偉いとはいえ、人の楽しみを横取りするのは良くない。
「知恵比べをしてるのか。まさかフィリップに勝つとは。素晴らしいぞ、ブレゴ。よくやった。」
ブレゴは天に昇るような気持ちだ。
いつも馬鹿にされてきた人生でようやく褒められたのだ。しかもボスに。
「ありがとう、ボス…!滅茶苦茶嬉しいぜ…!」
「楽しみを奪ってすまなかった。お詫びに私と勝負だ。いくらでも難問をぶつけるといい。」
その後の伯爵とブレゴのうんちく対決に勝負がつくことはなかった。
※ ※ ※ 《現在》 アリアンナ邸 中庭 ※ ※ ※
「…。」
ブレゴは無言で水を抜いた噴水の掃除をしていた。
悪臭を放つ大量の藻や虫の死骸を素手でひたすらかき出している。
「楽しかったな、あの時は…。」
楽しかった時間は過ぎ去ってから、いかに貴重なものか気づく。
何故、もっとあの時間を大切にしなかったのかと。
「道具使えよ。猿か、お前は。」
噴水の中に一本のシャベルが投げ込まれる。
ブレゴに声をかけたのは彼を散々、罵った飲んだくれ野郎だった。
「何しに来たんだよ。」
「ボスから逃げるためだよ。俺にもやらせろ。」
今の伯爵は何をやらかすか分かったものではない。
留守番組は掃除でも、なんでもいいから仕事をやって距離を取っているわけだ。
ブレゴと飲んだくれ野郎は黙って、噴水の掃除を始めた。
「お前、逃げねぇのか?」
「何だよ、急に。」
飲んだくれ野郎の唐突な質問にブレゴはちんぷんかんぷんだ。
「呪いだか、なんだか知らんがもう天使のうんちく勝負に付き合ってくれるようなボスはいない。それでもここに居続けるのか?」
「理由なら色々あるけど…、1つは爺さんの為だ。」
それはブレゴに敬意を持って接してくれた数少ない人の為であった。
「俺なんかでも手下にいねえと、爺さんが引退出来ねえだろ。楽しい余生を過ごしてほしいんだよ。」
「滅茶苦茶まともな理由じゃねえか。」
飲んだくれ野郎は言葉を失った。
いつも馬鹿にしていたブレゴのあまりに高潔な理由に。
「じゃあ、お前はなんで逃げないんだよ。」
「他に行く当てがねえんだ。それだけだ。」
実際、屋敷のチンピラが出ていかない理由は大抵これだろう。
飲んだくれ野郎の明かしたここに居つく理由に2人は笑い合うのであった。
「悪かったな。捨てられ野郎とか呼んで。」
「なんなんだよ、さっきから。どうしたんだ、お前?」
飲んだくれ野郎の唐突な行為の連続にブレゴは戸惑うばかりだ。
手伝い、質問、謝罪。訳が分からない。
「俺のこと、お漏らし野郎って笑わないからな。」
これこそブレゴの所に来た真の理由だ。
皆がピリピリしている状況で、お漏らしによって彼は恰好の笑いの的になってしまったわけだ。
「だったらニブチンも…、ん?」
ブレゴと飲んだくれ野郎の会話を、遠くから聞こえる叫び声が中断させた。。
なにやら正門の方が騒がしい。
「どうか、どうか伯爵様に会わせてくれぇ!」
「だからさあ、止めといた方がいいって。」
非常事態かと剣を持って門に来た2人であったが拍子抜けである。
正門の見張りと対峙しているのは、1人の老人だけだ。
「わしらが原因なんじゃ!伯爵様がご乱心なされたのは!どうかその責任を取らせてくれぇ!」
老人は必死だ。
悪そうな足を地面に着けて必死に縋りついている。
「どうかしたのか?」
「ブレゴとお漏らし野郎か。このジジイ、村の長老なんだが度々屋敷に来ててよ。お嬢様に家督を譲るようボスを説得させてほしいってお願いしに来るんだよ。」
伯爵の乱心の噂が広まった時からであった。
家族を心配させてまでやってきてはここで懇願していた。
「いい加減にしとけよ。特に今のボスはすこぶる機嫌が悪いんだ。んなこと言ったら、豚の餌にされるぞ。」
「若き世代のためなら命など惜しくない!お嬢様は未熟じゃが、必ず良き統治者になれるはずじゃ!どうか悲劇が生まれぬ内に家督相続を!」
幼き日の恐怖は老いたる日々に強烈な遺恨となる。長老は忘れられないのだ。先先代が敷いた圧制を。
「うるせえんだよ、ジジイ!とっとと帰れ!」
「ひいいっ!」
ブレゴが慣れない脅しを叫ぶと、老人は怯えて逃げかえるのであった。
足を引きずりながら、ゆっくりと。
「脅し方が下手だな。また来るぞ、きっと。」
「だろうな。」
進言したところで伯爵が聞き入れるはずがない。
脅しで救える命があるなら救うべきだ。
「んっ?」
馬に乗った口元にスカーフを巻いた男が屋敷に向かってやってくる。
領主の屋敷の前にしながら不遜な動き、そしてその風貌。明らかに怪しい。
「ジジイ、景気づけにくたばりな!」
「助けてっ!」
そいつはすれ違いざまに、長老に向かって馬上から剣を振り上げた
しかし、間一髪のタイミングで門番の放った矢が悪党の首を射抜く。
「応援を呼べ!」
門番は角笛を吹いて、屋敷中の仲間に知らせる。
今が緊急事態であることを。
「さっさと来い!」
「ひゃあああ!」
ブレゴは長老の元へ走ると、襟を掴んで門まで引きずった。
助けたなら最後まで、伯爵の教えだ
「敵襲か!?」
角笛を聞いた仲間たちが武器を持って門に集まってきた。
約10人。これが屋敷にいる人員の全てだ。
「他の連中は?バズラは?」
「ダメだ、賊の捜索に出かけてる。」
敵が次々と屋敷の前に群がってくる。
こちらの倍以上の人数がいる。明らかに劣勢だ。
「こいつら、知ってるぞ。都に巣食ってたギャングだ。」
間違いない。
かつてこのギャング連中と小競り合いが起こしたからだ。
「よう、伯爵の取り巻きども。都で一悶着があって、壊滅寸前でな。起死回生といきたくてこの屋敷の金銀財宝が欲しいんだ。よこしな!」
悪夢は突如、起こった。
騎士団や便利屋によってお頭も幹部も捕まり、根城も失った。
泣く子も黙るギャングはあっという間に行く当てのないゴロツキ共に成り下がったのだ。
「引き返せ!うちにはまだまだ仲間が…!」
「もういねぇよな!間違いねぇ。この屋敷にいんのはこいつらだけだ!」
背後から聞こえるその声。
聞くだけでも虫唾が走る。
「なんでお前がここにいる!?」
その声の主は泥まみれで、汚らしい大きな袋を引きずっていた。
そいつのことを知っていて当然だ。かつての仲間だったのだから。
「ベンズ!ボスの金で飯食って、酒飲んで、女抱いて挙句はギャングと舞い戻るなんざどういうことだ!?」
ベンズ。
娼婦の顔を傷つけ、ブレゴがアマンダに捨てられる理由を作ったクソ野郎だ。
「言っただろ、仕返しするってな。あらよっと。」
ベンズは引きずっていた袋の中身をぶちまけた。
ブレゴ達は引きつり、ギャングは口笛を吹く。
「こりゃすげぇ!本当に伯爵は人を食ってたのかよ!」
おびただしい量の人骨。10人、20人なんてものではない。
ベンズはその中に転がる骨をつまみ上げて、掲げた。
「この小指と親指のない手はバリダンだな。屋敷のメイドを手を出そうとした。これは村人の顎を砕いた歯無しのビス。この親指だけの足はタフザ、使用人を刺しやがった。骨ならまだまだあるぜ、100人分はある!みんな制裁された奴らだ!」
一通り、骨の検分を済ませるとベンズは恍惚に満ちた表情を浮かべた。
この時をどれほど待っていたか。
「これで分かっただろ!お前らはあいつにとっちゃ、ただの家畜なんだよ!俺らに加わってこの屋敷から根こそぎ奪って、伯爵をぶちのめそうぜ!」
「お前と一緒にすんじゃねえよ!この恩知らずが!」
チンピラに必須の技、脅しもろくにできないブレゴ。
しかし、この時ばかりは怒りを隠せなかった。
この男はブレゴの恩人、ティモシーの厚意を無碍にしたのだから。
「だったらしょうがねえ。伯爵共々、ぶっ殺して…。」
「命を拾っただけでは我慢出来なかったようだな?」
ベンズの背後からかかる声。
振り向くと、そこには最も吠え面をかかせてやりたい人物のご登場だ。
「随分と面白いことを起こしてくれているな。」
この地の支配者、チンピラたちのボス、ティモシー・アリアンナ伯爵だ。
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