恋ごよみ

酒田愛子(元・坂田藍子)

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10.ケンカ

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 なんとなくふてくされた気分で、夕食の支度をしているとバイクのエンジン音が聞こえて止まった。

 間も無くカギを開ける音がするとヘルメットを横抱きにしたしょーたが入ってきた。

 ふと当たり前のように引っ越しの時に合鍵を渡した私って、バカ?
しかも来るかも聞いてないのに、しょーたの分のごはんまで作っているし…

 付き合っていないと片思いだとみんなに言いながら、私のアパートに入り浸りの状態は、おかしいのだろうとは思う。

 もちろん大学近くに住む友達の家に転がり込むなんて同性の友人なら、あるあるだから、しょーたにとって、それと同じなのかもしれないが。
ただ、私は同性じゃないけどね。

「歌音、腹減った。今日は何?」

「生姜焼き。あとはひじきの煮物とほうれん草の白和えが冷蔵庫にあるから出して。」

「了解っ。」

 狭いワンルームのローテーブルに並べて、2人で食べる。

「「いただきます。」」

「今日は、バイト?」

「ああ。月曜だから飯食ったら、佐竹さんちの家庭教師。」

 しょーたは、中学生の家庭教師で2人見ている。
家まで帰ると時間が中途半端になるからと月曜から木曜日は早めの夕食を私のアパートで取り、8時から10時まで週2で家庭教師をしてから帰宅。
金、土曜日は短期のイベントバイトを入れたり、学科の友達と遊んだりしているらしい。

 日曜日は、私と映画に行ったり、買い物に付き合ってくれることもあるが、それだって毎週じゃない。

 私って、都合のいい女?
しょーたは、私を女とも思っていない?

「歌音、今週の土日はうちの学科のメンバーで旅行行くから、映画は来週でもいいかな?」

 食事も終わりかけの頃、しょーたが、ついでの事のように言い出した。

 映画の約束は、2週間前からしていた。
 それに日曜日、5月18日はしょーたの19歳の誕生日だから、色々考えていたのに…

「しょーたは、私のところに来るより今日一緒にいた女の子たちと旅行に行きたいんだ…」

「んなこと言ってない。教授のツテで小学生対象の体験ツアーに補助員で参加させてもらえるから、みんなで行こうって決まったんだ。」

「な、んで…私の方が先に約束したじゃない。」

「歌音、あっちは予定が変えられないけど映画は来週でも行けるだろ?」

 私は、ぐちゃぐちゃな頭で考えがまとまらないまま、しょーたに言葉を投げつけてしまった。

「彼女面して、すみませんでした。
もう、ここには来なくていいから。
私も合コン誘われたし、合鍵返して!」

「合コン?なんだよ。聞いてないぞ。」

「別に彼氏でもないんだから、報告する必要ないでしょ?帰って!」

 私が、そう言うと

「わかった…帰るわ。」

そう言って、しょーたは鍵をテーブルの上にそっと置いて出て行った。


 自己嫌悪、後悔…
私は一晩中泣きながら、しょーたが戻ってきてくれないかとあるはずのない事を期待して落ち込んでいた。
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