雪の国の花

里中一叶

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サーディス辺境伯

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 戻りの時間が遅くなってしまったので、庭園の隅にあるバラ園の横を建物に沿うように急ぎ足で歩いていると前から歩いてきた人とぶつかりそうになり、抱きとめられた。

「大丈夫か。」

「前をちゃんと見ていなくて、申し訳ございません。」

顔を上げるとがっしりした体躯を質の良いシャツで包んだ金髪碧眼の男性がいる。どことなくシャルロットに似ているが、優しいというより精悍という方が合うだろうと思って気づく。この家で今まで会った事がなくこの条件に合う人はひとりしかいない。

「だ、旦那さま。失礼致しました。」

フェリアは慌てて礼を取る。

「レリアが言っていた新入りの侍女か。名前は?」

「シャルロット様付きの侍女でフェリアと申します。」

「その様子だと休暇でのんびりし過ぎて、慌てて部屋に戻るところか。レリアにはあとで、俺から言ってやるから、ちょっと付き合え。」

カインの発言に戸惑っているといきなり肩を抱かれ、恋人のようなエスコートで庭を散策するはめになった。

「あ、あの旦那様、これは?」

「実は...」

カインが説明しようとした時、目の前にきらびやかなドレスをまとったキツめな女性が現れた。

「カインさま。探しましたのよ。
ん?その方は?」

媚びるような笑顔が、フェリアの肩を抱くカインの手を見て、引きつっている。

「グレイン伯爵令嬢。何度も言ったが、私には大切な女性がいるのだ。すでに正式に伯爵にはお断りを入れているし我が家まで来ていただいて申し訳ないが、お引き取りを。」

「カインさまが大切な女性がいるとおっしゃるわりに王都でエスコートしている姿を見たことがなかったから、ただの言い訳だと思っていましたけれど、爵位もないこんな田舎娘でしたの?私でしたら、王都の屋敷でしっかりと務めを果たせ」

「彼女の事を悪く言うな!」

鋭い目で睨まれ令嬢はすくみ上がって、慌てて立ち去った。

あまりの迫力にフェリアもすくんでいるとカインはすまなそうな顔になった。

「ごめん。怯えさせてしまったな。あの伯爵令嬢がしつこくて、断ってもついて来てしまったので、助かった。」

「旦那様は、婚活に行ったのではなかったのですか?」

フェリアが尋ねるとカインはため息まじりに答えてくれた。

「母上はそのつもりでいたらしいが、俺は陛下に会いに行くために王都へ行っていたんだ。まぁそろそろ結婚しなくてはと思ってはいるが、昔たった一度会ったというか垣間見た女性が忘れられなくて。巻き込んで悪かったな。」

カインは侍女の自分にも真摯に対応してくれているのだが、未だに抱かれている肩にドキドキが止まらない。

トムとのデートでは、温かな気持ちだけだったが、カインといるとこちらの顔が火照って、落ち着かない気分になる。



「旦那様。そろそろ失礼いたします。」

なんとか赤い顔を見られずにフェリアは、部屋に戻ることができた。




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