雪の国の花

19

侯爵夫人

　カインが知り合いと話し始めたので壁際のいすに座り、ひと息ついていると黒髪に真っ赤なドレスの派手な女性が近づいてきた。

「フェリシアさんと言っていたけど、あなたフェリア・ボーテじゃないの？」

フェリシアの手が震え冷や汗がでる。彼女は間違いなくエルザ。ガードナー侯爵家で母屋にいたジェームズの最愛の人だ。

「実家に帰らず出奔したらしいと聞いたから、修道院にでも入ったかと思えば、ちゃっかり辺境伯を捕まえるなんて相変わらず図々しいわね。」

言葉を返せず困ったいるとカインが来てくれた。

「どうかしたか？フェリィ。」

カインが背中を支えてくれたら、勇気が出てくる。

いまの私はやっかいものの押し付けられた侯爵夫人じゃない。

「すみません。話がわからないのですが。私はサーディス辺境伯領内で商会を営むベルドの姪でフェルと言う名前です。今回ご縁がありカインさまに嫁ぐことになりまして、ホレスト公爵家に養女となった者です。そんなにお知り合いに似ていますか？」

そこまで言うと

「あら、そうなの。他人の空似だったのね。失礼。」

と去ってくれた。

フェリシアは、ほおっと息をはきだした。なんとかやり過ごせたようだ。

「今のがガードナー侯爵夫人か。がんばったな。侯爵の方は、フェリィの顔を見ても表情が変わらなかったから大丈夫だろう。今日はボーテ子爵は呼ばれてないから会うこともないしな。」

とりあえずフェリシアがフェリアとは別人と思ってもらえたようだ。エルザがジェームズを除けば一番フェリアを知っていたのだから、今後ほとんど領地から出る事のない辺境伯夫人ならもう関わることもないだろう。

2週間の滞在後、領地に戻ることになった。

「お養父さま、お養母さま。お世話になりました。結婚式にはぜひサーディス領に来てくださいね。」

「もちろん楽しみにしているよ。」

ホレスト公爵夫妻に別れを告げ、もう二度と来るはずのない王都に別れを告げた。