たもっちゃんは帰りたい

えごま

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第一章 ニルゲイア編

第四話 コイン集め

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「グスッ……グスッ……そんな感じで我は捨でられで……じもうだのじゃ……」

 狐娘、己が境遇、涙ながらに語る。
 みな、顔浮かず。
 
「ワーン!! タモちゃーーん!! 辛かったね、辛かったねヨシヨシ」

 ヒナ、感極まり狐娘に抱き付く。
 狐娘、これに誘発。
 共に抱き合い、おいおいと泣かん。
 それ、さらに上からヒカリ無言で抱きしめん。

「そのー……あれだ。なんて言葉をかけてやったらいいか分かんねぇけどよ……この国には少なくとも嬢ちゃんの遭遇したような、物騒なバケモンはいねぇからよ。一緒に暮らしていこうぜ? 俺達で協力するからよ! なぁみんな! キツネの嬢ちゃんがこの町に住んだって文句ねぇし協力してやれるよなぁ!?」

「当たり前だ!」
「ずっとこの町に居たっていいぜ!」
「ここの住人になっちまいな!!」

 店主が声掛けに客共、歓声をあげる。
 これに狐娘、感極まりて泣かん。

「ダ、ダメな我、じゃが……よ……よろじぐ……だのむのじゃぁぁぁぁ」

「よーし! 今日は我らがアイポツ共和国にキツネの嬢ちゃんこと、たまもちちゃんが来てくれた事を祝って祝賀会をするぞ!! 今日の勘定は良いから飲んで食って、みんな、たまもちちゃんと仲良くなってくれ!!」

「気前がいいじゃあねぇか!」
「よし! なら酒持ってこーい!」
「たまもちちゃんにもプリン持ってきてやれ!!」

「……ありがとなのじゃ」
「タモちゃん何か言ったー?」
「なんも言うてないわい! よーし飯じゃ! 飯にするんじゃ!」

 この日狐娘。
 生を受け、初めて人に感謝の言葉発す。
 先に起きたことを忘れるためが如く狐娘、身を委ねん。
 灯りの消えぬ夜に。

 ――それから一か月。

「もー! タモちゃん! そろそろ働いてよー!」
「うっさいのぉ! 我は働かんぞ! 意地でも働かんぞッ!! 我に『ここに住もうていい』と申したのはお主らなんじゃからな? 我はその言葉通り住もうてやってるだけで労働は当初の条件に含まれていないのじゃよ。ゆえに、我は働かん」

 狐娘、ヒカリが家にあり。
 しかし、働かず。
 穀潰しと成り果てる。

「はぁ~、タモちゃんホントに頑固な上に口達者なんだよなぁ~。それを活かせる仕事があればきっとタモちゃんは大金持ちになってるだろうね」
「だ~ッハッハッハ!! そんな稼ぎがある訳がなかろう!! もしもあるなら是非とも紹介して貰いたいもんじゃわい!!」

 狐娘、寝転び腹を抱えて笑い、煽るが如くヒナを見上げん。
 そんな職業ある訳がないと勝ちを確信。
 尾を使い、『あっちへ行け』と態度が横柄。
 
 だが、この日。
 例外は突如、突然。

「じゃあ、タモちゃんには働いて貰うからね!」
「なんじゃと!?」
「はいこれ、見てみて」

 狐娘、ひったくるようにヒナより紙取る。
 その内容たるや、いかに。

『このたび、アイポツ共和国が国王、アディアムの名においてコイン集め大会の開催を宣言する。

 ルールはシンプル。
 白金貨はっきんか一枚でアイポツコイン一枚と交換ができる。
 そのコインを五月一日から五月末日までに何枚所持しているかでランキングを作り、優秀な人材を周知することが目的だ。
 コイン獲得にあたり、自身でこれが我がスキルだと思うものであれば、殺人、盗みを除き自由にそれを振る舞う権利を有する。

 不正に対する厳罰は我らが神の裁量に委ねるものとする。
 なお、このランキングはアイポツ共和国のみならず、イサーキャ、ユーロマイノ連邦、ビノザディの三国を含めた四国での合同のものとする。
 無論、三国発行のコインの価値とアイポツコインの価値は同等のものとする。

 賞金は、一から十位までの人物に獲得したコインの枚数分の金貨を進呈する。

 参加者間のコインの譲渡、売買、賭け事は可能。
 自身で引き換えたコインは己の集めたコインとしてカウントできない。
 なお、上記の例として、自身の集めたコインを他者に渡し、それを自分に再度渡す行為などがあげられる。

 以上』

 狐娘、これに反応を示す。
 気だるそうなその眼たるや、みるみるうちに爛々らんらんと大きくなれり。
 読み終え、ヒナへ開口一番。

「つまりコインを寄越せと申し歩けば良いという事じゃな!」

 狐娘が眼、迷い無し。

「そうそう、くれくれ言って町を練り歩けば……って! ちがーう! 何かを人にしてあげて、その人がそれにイイねって思ったらコインが貰えるんだから! もうやっぱりタモちゃんはぶれないなぁ! タモちゃんの場合なら、おしゃべりとかで誰かの暇な時間を潰してあげるとかかなぁ?」

 ヒナ、提案す。
 しかし、よくよく思えば、珠保が才をヒナは知らぬ。
 無論、その本人も何が才なのかを知らぬ。

「うむ、ヒナよ。良くやったのじゃ。善は急げ、我は少し散歩をしてくるからの! 行ってくるのじゃ!」

 狐娘、勢いよくドア蹴飛ばし町へと繰り出す。
 その様子見届けるヒカリとヒナ。

「お母さん、私心配だからタモちゃんの事、コッソリ見守ってくるね」
「晩御飯までには帰りなさいよ。後、タモっちゃんの度が過ぎたらちゃんと頭下げてきてあげな」
「はーい、行ってきまーす」


 ――その日の晩。


「グスッ……グスッ……なにゆえ誰も……我にコインをくれんのじゃぁぁぁ!!」
「いやいや、タモちゃんに貰える要素、一個も無かったからね!!?? それに貰ってないって言うけど一応貰ってるからね!!??」
「あんなもん貰ってもアイポツコインじゃあ無いから意味なんて無い……って!? なんじゃ! お主! 我をつけとったのか!! なのに助け船すら出してくれぬとはどういうことなんじゃぁぁ!!」
「なんでだァァァ!! 助け舟を出してもらえるような場面も無かったからねッ!!」

 娘二人、食卓を前に言い合う。

「今日も二人はにぎやかだねぇ。うちにもどんな様子だったか教えてよ」
「お母さん聞いてよ。えっとね、まず……」


 ――時を遡る事、数時間。


「はぁ……はぁ……こういう時だけタモちゃん早いんだよなぁ……あッ!! タモちゃんいたぁ!!」

 ヒナ、狐耳と五本の尻尾頼りに背後から駆け寄る。

「コイン~、コインを寄越すのじゃ~。みなで我を楽にさせるのじゃ~。信じる者は救われるのじゃ~」
「うわぁ……ストレートだなぁ……」

 ヒナ、物陰より珠保を見守る。
 狐娘、首から箱をぶら下げ、声を大にして乞食に励む。
 何かしら貰えると確信しているのか頬、赤らめ満面の笑みで町を闊歩。
 ヒナ、発見から数分程たち。

「うむぅ、なにゆえ誰もくれんのじゃろうか……我はこうみえて体や顔には自信がある。それにも関わらず人共はコインをくれるどころかニコニコと会釈をするだけで何もしてくれぬ……」
「お! ついにタモちゃん、くれくれだけじゃコインを貰えないことに気づいたのかな! いいぞいいぞ! 成長するんだタモちゃん!」

 狐娘、ベンチに座り、往来する人共を見つめ顎に手をあてる。
 しばらくして、手を叩く狐娘。

「そうか! わかったぞ! この我に足りなかったモノがッ!」
「自分で考えれて偉いぞタモちゃん!」

 狐娘、ベンチから勢いよく立ち上がる。

「おい! そこの老いぼれ! この我にコインを恵むんじゃ! 早くしろォッ!!」
「って、恐喝してるゥゥゥゥ!! タモちゃんさっきの分かったような雰囲気はなんだったのォォォ!!」

「ふぉっふぉっふぉ。お嬢ちゃんは、このじじいがそんな大金を持っているように見えるのかい?」

 そのご老人、服にほつれや破れあり。
 杖付き、体に震えあり。

「んなもん知らんわ。聞いてみるまで持っているかどうかなぞ、分からんのじゃ」
「いやまぁ、正論だけども!! タモちゃんそれ無差別恐喝と変わんないよぉぉ! カツアゲだよぉぉ!!」

「なるほど、分からないから聞く。それは良いことですなぁ」
「お爺ちゃん! そこ褒めるところじゃないから!」
「ほぅ、話の分かる老いぼれじゃな! ほれ! 持っておるなら寄越すのじゃ!」

 狐娘、首から下げた箱、突きつける。
 それを見たご老人、懐に手を。

「せっかく話しかけてくれたこれも何かの縁。白金貨一枚で交換できるアイポツコインはじじいも生活があるゆえ難しいモノがあるが、その代わりお嬢ちゃんの勇気に金貨一枚を進呈しよう」
「いや! あげるんかーい!」

 ご老人、懐から取り出した金貨を箱へ納める。

「なんじゃ? アイポツコインじゃあ無いならいらんのじゃよ」
「お嬢ちゃん、小銭を侮る事なかれだ。今くれた金貨は十枚で白金貨……つまりはアイポツコイン一枚と同価値。どう使うもお嬢ちゃんの好きゆえ、自由に使ってくだされ。それでは、ふぉっふぉっふぉ」

 狐娘、労せず金貨一枚を取得。

「たったの一枚なんて、羽振りの悪いじじいじゃのぉ」
「金貨一枚って私の二日分のバイト代なのにぃ……」

 狐娘、金の価値知らず。
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