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第二章 人にきびしく……
第11話
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復活してから二日が経ち、俺はすっかりやさぐれていた。
なんせ若返ったはいいが、両腕がない。この状態で出来ることと言えば口を動かすぐらいだ。
ちなみに、下の世話はクロードにやってもらっていたが、知り合いに尻を拭かれるのはさすがに俺だって恥ずかしい。
それならせめて三歳児くらいで復活したかったぜ。
けっきょく外を出歩くのも面倒で、俺は再開したクロードの酒場で自暴自棄になりかけていた。
「チクショウ、やってられん! クロード、酒だ酒!」
「バーカ。誰が未成年に酒出すかっつーの」
「中身はアラフォーのおっさんだ、バーロォーが!」
「あん? バカって言ったほうがバカなんだぞ?」
「そっちが先にバカって言ってきたんだろうがっ!」
「うっせぇ、バーカバーカ」
「ガキかっ!」
周りの客たちが「また始まったか」と噂し始めたが、どうやら俺はいまだにケイン・フォスターだと信じてもらえていないらしい。
しかもどうやら、俺はケイン・フォスターがどこぞの女を孕ませてつくった隠し子だというデマまで流れている。それはかなり信憑性が高いと噂されていたが、噂の出どころは
いちおうケインだと酒場の酔っ払い連中に訴えてみたのだが、
『その減らず口は親父似か?』
『確かに目元は親父似だなぁ~』
『つーか、ガキが酒場でうろちょろしてんじゃねぇ。帰ってママの◎△$♪×¥●&%#?!——』
と一蹴された。
ちなみに最後のやつに関しては途中でムカついたので思いっきりスネを蹴っておいた。
つーか、親父似どころか本人様だっつーの。
まあ、確かに若返るなんて現実感ないか……。
多少落ち込んでいたら、急にクロードが「はぁ~」と大きなため息をついた。
「……たく、若返ってちったぁ素直で可愛くなったのかと思ったらこれだもんな。いきなり反抗期か?」
「うっせ。俺には反抗期なんてなかったっつーの」
どうでもいい話だが、俺はガキのころに両親を亡くした。
孤児として育った俺には反抗する相手がいなかった。そのぶん反抗期真っ盛りのアリーゼにはだいぶ手を焼いたが、要するにクロードもつい最近までの俺と同じ気分なんだろう。
「悪かったな、親父……」
「……おい。その親父はどっちの親父だ? 酒場のか? それとも——」
「決まってんだろ? パパだよパパ」
「はぁっ⁉︎」
「だってしゃーねぇだろっ⁉︎ 俺がケイン・フォスターって名乗っても誰も信じてくれねぇもん!」
「知るか! お前みたいなクソ生意気なガキがいたら俺がモテなくなるだろっ!」
「……モテた試し、あるのか?」
「いや、ないけど……」
クロードは急に泣きそうな顔になった。
「とにかく、俺は認知しねぇからな」
こいつ、女ができて赤ん坊ができてもそう言いそうだな。
だからモテねぇんだよ。
「そこをなんとか頼むよ、クロード。いちおう保護者ってことで養ってくれ」
「堂々と養ってくれとか、ずいぶん太てぇ野郎だな……」
クロードはチラッとなくなった俺の両腕を見た。
「——たく、わーったよ! じゃあギリ俺の親戚ってことで妥協しておいてやる!」
まあ、なんだかんだ言って悪いやつじゃない。
早く嫁さんもらえよ、とは思うがそれこそ余計なお世話か。
「で、苗字は『ウェイバー』でいいとして、これからはお前のことなんて呼べば良いんだよ?」
「じゃあケインの『ケ』の字を変えて『カイン』で」
「はぁ? それだけはやめとけ」
「なんで?」
「これだから無神論者は……」
クロードはやれやれと呆れていた。
「いいか? 教会のありがたい教典には、カインってぇのは『反逆者』って意味で載ってんだよ」
「なんで?」
「なんでって……なんでだろうな?」
「俺に聞くなよ、信徒……」
俺からも呆れ返しておいた。
理由もよく知らずに「ダメ」というのは親として嫌われるぞと教えておいたが、「だったら結婚なんて一生しねぇ」と言い返された。……できないの間違いじゃなくて?
とりあえずカインって名前は教会的には良くねぇってことか。でも——
「いいな、気に入った。やっぱカインでいくわ」
「あっそ。べつにいいけど、教会から白い目で見られんのお前だからな?」
「そんときは頼む!」
「頼むなよ。自分でなんとかしろよ。見た目は子供、中身はオッサンなんだから」
やれやれとクロードが呆れていると、店の扉を開く音がした。
「——ここ、宿もやってる?」
「ああ。いらっしゃい、お嬢さん」
クロードが営業スマイルで言うと、「じゃあ宿をとりたいわ」と言ってその娘は入ってきた。
見たことのない十六、七の娘だった。アリーゼよりはちょっと上くらいか。
やけに重たそうなリュックを担いでいたが、それをドンと俺のそばに置くと、どっかりと隣に腰掛けた。
俺とクロードはなにも言わず目を合わせ「誰?」「さあ?」とやりとりをする。
すると娘はいきなり「水」と言ってクロードを睨んだ。
「ああ、すまねぇな」
クロードが慌ててグラスを手に取った。
いちおう肝っ玉は座っているようだが、このふてぶてしい態度や勝気な顔はどことなくアリーゼに似ているが、それよりも堂々としているというか、落ち着きすら感じられる。
「よお、姉さん、旅の人か?」
「なにアンタ? まだ成人してないよね?」
「ああ。俺はここの酒場の親父の親戚筋でカイン・ウェイバー。カインでいい」
「ふ~ん。ウェイバー坊やね……」
そこでクロードが水の入ったグラスを娘に差し出した。よほど喉が乾いていたのか、娘は一気にゴクゴクと水を飲み干す。俺とクロードはその様子を見て、また目配せした。
「ふぅ~、落ち着いた。——親父さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
空になったグラスをカウンターに置きながら、娘はクロードに話しかけた。
「ちょっと待て」
「なに、ウェイバー坊や」
「まず俺はウェイバー坊やじゃねぇ。カインだ」
「あっそ。で、なに? カインくん?」
「俺は名乗った。次はお前さんの番だろ?」
俺が大真面目にそう言うと、いきなり娘は「ぷははははっ!」と吹き出した。「え?」と思いつつクロードを見ると、やれやれと俺の顔を指差した。
「お前さんって、アンタ、まるで話し方がオッさんだよ、それ!」
悪かったな。中身はオッさんだっつーの……。
「なんだっていい。そっちも名乗るのが礼儀だろっつってんの」
「アンタね、先に名乗られたからって、おいそれと自分の素性を明かす旅人がどこにいんの?」
なんだ、よくわかってんじゃねぇか。
「気に入ったぜ」
「え?」
「いや、すまねぇ。つい若い娘の旅人を見るとからかいたくなっちまってな」
「からかう?」
「あんたの言う通りだ。もしここで素性を明かしたら面倒なことになるってぇのは旅の常識だ。だから偽名を騙る。——ま、そのあたりただの生娘じゃねぇってことがわかって安心したぜ」
「生娘……」
「だから気に入った。ここは俺の奢りだ。——おい、クロード。この娘さんに水をもう一杯やってくれ。それとも酒にするか?」
俺がそう言うと、また娘は大笑いし始めた。
俺が狐につままれた顔をしていると、クロードがまたやれやれと両手を上げて、また俺の顔を指差す。
……なるほどな。
見た目と話し方のギャップってやつか……。
確かに見た目十三くらいの俺が使うような言葉じゃないな。
しっかし、腕はねぇし、若いってだけで舐められるし、ほんと不便なことばっかだな……。
なんせ若返ったはいいが、両腕がない。この状態で出来ることと言えば口を動かすぐらいだ。
ちなみに、下の世話はクロードにやってもらっていたが、知り合いに尻を拭かれるのはさすがに俺だって恥ずかしい。
それならせめて三歳児くらいで復活したかったぜ。
けっきょく外を出歩くのも面倒で、俺は再開したクロードの酒場で自暴自棄になりかけていた。
「チクショウ、やってられん! クロード、酒だ酒!」
「バーカ。誰が未成年に酒出すかっつーの」
「中身はアラフォーのおっさんだ、バーロォーが!」
「あん? バカって言ったほうがバカなんだぞ?」
「そっちが先にバカって言ってきたんだろうがっ!」
「うっせぇ、バーカバーカ」
「ガキかっ!」
周りの客たちが「また始まったか」と噂し始めたが、どうやら俺はいまだにケイン・フォスターだと信じてもらえていないらしい。
しかもどうやら、俺はケイン・フォスターがどこぞの女を孕ませてつくった隠し子だというデマまで流れている。それはかなり信憑性が高いと噂されていたが、噂の出どころは
いちおうケインだと酒場の酔っ払い連中に訴えてみたのだが、
『その減らず口は親父似か?』
『確かに目元は親父似だなぁ~』
『つーか、ガキが酒場でうろちょろしてんじゃねぇ。帰ってママの◎△$♪×¥●&%#?!——』
と一蹴された。
ちなみに最後のやつに関しては途中でムカついたので思いっきりスネを蹴っておいた。
つーか、親父似どころか本人様だっつーの。
まあ、確かに若返るなんて現実感ないか……。
多少落ち込んでいたら、急にクロードが「はぁ~」と大きなため息をついた。
「……たく、若返ってちったぁ素直で可愛くなったのかと思ったらこれだもんな。いきなり反抗期か?」
「うっせ。俺には反抗期なんてなかったっつーの」
どうでもいい話だが、俺はガキのころに両親を亡くした。
孤児として育った俺には反抗する相手がいなかった。そのぶん反抗期真っ盛りのアリーゼにはだいぶ手を焼いたが、要するにクロードもつい最近までの俺と同じ気分なんだろう。
「悪かったな、親父……」
「……おい。その親父はどっちの親父だ? 酒場のか? それとも——」
「決まってんだろ? パパだよパパ」
「はぁっ⁉︎」
「だってしゃーねぇだろっ⁉︎ 俺がケイン・フォスターって名乗っても誰も信じてくれねぇもん!」
「知るか! お前みたいなクソ生意気なガキがいたら俺がモテなくなるだろっ!」
「……モテた試し、あるのか?」
「いや、ないけど……」
クロードは急に泣きそうな顔になった。
「とにかく、俺は認知しねぇからな」
こいつ、女ができて赤ん坊ができてもそう言いそうだな。
だからモテねぇんだよ。
「そこをなんとか頼むよ、クロード。いちおう保護者ってことで養ってくれ」
「堂々と養ってくれとか、ずいぶん太てぇ野郎だな……」
クロードはチラッとなくなった俺の両腕を見た。
「——たく、わーったよ! じゃあギリ俺の親戚ってことで妥協しておいてやる!」
まあ、なんだかんだ言って悪いやつじゃない。
早く嫁さんもらえよ、とは思うがそれこそ余計なお世話か。
「で、苗字は『ウェイバー』でいいとして、これからはお前のことなんて呼べば良いんだよ?」
「じゃあケインの『ケ』の字を変えて『カイン』で」
「はぁ? それだけはやめとけ」
「なんで?」
「これだから無神論者は……」
クロードはやれやれと呆れていた。
「いいか? 教会のありがたい教典には、カインってぇのは『反逆者』って意味で載ってんだよ」
「なんで?」
「なんでって……なんでだろうな?」
「俺に聞くなよ、信徒……」
俺からも呆れ返しておいた。
理由もよく知らずに「ダメ」というのは親として嫌われるぞと教えておいたが、「だったら結婚なんて一生しねぇ」と言い返された。……できないの間違いじゃなくて?
とりあえずカインって名前は教会的には良くねぇってことか。でも——
「いいな、気に入った。やっぱカインでいくわ」
「あっそ。べつにいいけど、教会から白い目で見られんのお前だからな?」
「そんときは頼む!」
「頼むなよ。自分でなんとかしろよ。見た目は子供、中身はオッサンなんだから」
やれやれとクロードが呆れていると、店の扉を開く音がした。
「——ここ、宿もやってる?」
「ああ。いらっしゃい、お嬢さん」
クロードが営業スマイルで言うと、「じゃあ宿をとりたいわ」と言ってその娘は入ってきた。
見たことのない十六、七の娘だった。アリーゼよりはちょっと上くらいか。
やけに重たそうなリュックを担いでいたが、それをドンと俺のそばに置くと、どっかりと隣に腰掛けた。
俺とクロードはなにも言わず目を合わせ「誰?」「さあ?」とやりとりをする。
すると娘はいきなり「水」と言ってクロードを睨んだ。
「ああ、すまねぇな」
クロードが慌ててグラスを手に取った。
いちおう肝っ玉は座っているようだが、このふてぶてしい態度や勝気な顔はどことなくアリーゼに似ているが、それよりも堂々としているというか、落ち着きすら感じられる。
「よお、姉さん、旅の人か?」
「なにアンタ? まだ成人してないよね?」
「ああ。俺はここの酒場の親父の親戚筋でカイン・ウェイバー。カインでいい」
「ふ~ん。ウェイバー坊やね……」
そこでクロードが水の入ったグラスを娘に差し出した。よほど喉が乾いていたのか、娘は一気にゴクゴクと水を飲み干す。俺とクロードはその様子を見て、また目配せした。
「ふぅ~、落ち着いた。——親父さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
空になったグラスをカウンターに置きながら、娘はクロードに話しかけた。
「ちょっと待て」
「なに、ウェイバー坊や」
「まず俺はウェイバー坊やじゃねぇ。カインだ」
「あっそ。で、なに? カインくん?」
「俺は名乗った。次はお前さんの番だろ?」
俺が大真面目にそう言うと、いきなり娘は「ぷははははっ!」と吹き出した。「え?」と思いつつクロードを見ると、やれやれと俺の顔を指差した。
「お前さんって、アンタ、まるで話し方がオッさんだよ、それ!」
悪かったな。中身はオッさんだっつーの……。
「なんだっていい。そっちも名乗るのが礼儀だろっつってんの」
「アンタね、先に名乗られたからって、おいそれと自分の素性を明かす旅人がどこにいんの?」
なんだ、よくわかってんじゃねぇか。
「気に入ったぜ」
「え?」
「いや、すまねぇ。つい若い娘の旅人を見るとからかいたくなっちまってな」
「からかう?」
「あんたの言う通りだ。もしここで素性を明かしたら面倒なことになるってぇのは旅の常識だ。だから偽名を騙る。——ま、そのあたりただの生娘じゃねぇってことがわかって安心したぜ」
「生娘……」
「だから気に入った。ここは俺の奢りだ。——おい、クロード。この娘さんに水をもう一杯やってくれ。それとも酒にするか?」
俺がそう言うと、また娘は大笑いし始めた。
俺が狐につままれた顔をしていると、クロードがまたやれやれと両手を上げて、また俺の顔を指差す。
……なるほどな。
見た目と話し方のギャップってやつか……。
確かに見た目十三くらいの俺が使うような言葉じゃないな。
しっかし、腕はねぇし、若いってだけで舐められるし、ほんと不便なことばっかだな……。
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