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第二章 人にきびしく……
第15話
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『これでなにか英雄クラスのスキルがあればなー? 【道具精製】だっけ?』
『それは言わないであげて。【道具精製】だって天から授けられた立派なスキルよ?』
そんな感じで俺のことを馬鹿にして笑っていたアルフレッドとクルル——その二人のあいだに生まれた子供はアルフォンスというらしい。
クロエから聞いた話だと、両親の名に恥じない高潔な人物とのこと。
ただまあ、その両親はパーティーの中では俺を荷物持ちと言って嘲笑っていたやつらだ。
アリーゼと同い年。
今年兵士訓練場に行くってことは、二人は同期生になるというわけだ。
いや、訓練場ですでに二人は会っているのかもしれない。
しっかしアルフレッドとクルルの息子——蛙の子は蛙って言うけど、アリーゼが平民の出だってことで馬鹿にされなきゃいいけどな。
——ぶっちゃけ、兵士訓練場はそういうところだ。
俺が行っていたころは、だいたい三分の一が貴族の出って感じで、残りが平民の出。
ガキがガキガキしている中で、くだらない上下関係みたいなのが存在する。
貴族の子供は平民出と分けられ、優遇されるっていうのが当たり前で、そういう中では平民出ってだけで馬鹿にされる。
じゃあスキルが強ければいいかと言えば、べつにそういうわけでもない。
むしろ平民が貴族よりも強いスキルを持っているだけで嫉妬の対象になりやすいって感じで、強いスキル持ちの平民こそ、立場を理由にいじめられる。
これについては、はっきり言っちまうと貴族のくだらないプライドってやつだ。
ちょっとでも貴族より優秀な部分を見せたら「なにあいつ、調子にのってんの?」みたいな空気になるのが当たり前。
親がちょっと貴族だからって、自分が強くなった気でいる貴族のガキは多い。まあ、そういう風にしつけられてきたというのなら、教育してきた親に責任があるのだろうが……俺もアリーゼのことで人に言えないな。
で、ガキンチョは容赦がない。
自分の手を汚さず、平民の子に金を握らせて仲間内から嫌がらせするようなことも、俺はすでに経験済みだ。
とにかく容赦がない上に、小賢しい知恵だけが回るので余計にタチが悪い。
とりあえず、俺が兵士訓練場にいたときは、嫌がらせしてくる貴族連中を教官に見えないところでボコボコにしておいた。俺はやられたら倍にして返すタイプだ。
まあ、あとでいろいろ面倒なことにはなったが、別段その当時の俺には奪われて困るものって言えば金くらいだったので、「訓練中のミスでーす」と言って平気な顔をしておいたが。
そういえば、俺が【暁の団】にいたころも、俺以外は全員貴族だっていうので、最初から仲間だと認められていなかった感もある。
……嫌われる原因が、俺のこの性格うんぬんは、とりあえず置いといて。
——ま、そういうもんだ。
アリーゼは俺に似て気が強いから大丈夫だと思うが、それでもやっぱ心配。——もちろん貴族の子供が。
蛙の子は蛙なら、アリーゼは俺と同じように訓練場で貴族連中を容赦無くボコボコにしてしまうだろう。
まあ、もちろん血は繋がっていないけど、アリーゼならやりかねない。
あのじゃじゃ馬に、どっかの貴族のボンクラがちょっかいを出したら怖いな——って、親父になるってこういうことか……。娘のことでつい気をもんじまう。
「——ちょっとカインくん、聞いてる?」
おっといけねぇ、忘れてた。
「は、はい? なんでしょうクロエさん?」
「さっきから上の空だね? なにか考え事?」
「あ、いえ。昨日はあんまり眠れなかったので、朝からぼーっとしちゃって……」
クロードのところでクロエからウィンチェスター家の事情を聞いた翌朝。
俺はクロエが住むかもしれない場所に連れて歩いていた。
「それで、なんの話でしたっけ?」
「だから、これから連れていくって場所。本当に空家なの?」
「ええ……」
まあ、空き家というよりは俺の、俺とアリーゼの家のことなんだが……。
「ふ~ん。前の住人はどんな人だったの?」
「……親娘で二人暮らしでした。娘のアリーゼ・フォスターは兵士訓練場に入るために上京して、父親のほうは——」
——ケイン・フォスターは死んだ。そういうことになっている。
ただまあ、それだとちょっとだけ寂しいので、
「——この町を守った英雄になったみたいですよ?」
と皮肉まじりに言っておいた。
英雄の条件——もちろん功績を残すことだが、もう一つある。
それは、困難に立ち向かって見事に命を落とすこと。
ま、なぜかこうして若返って生きているわけだが、俺も腹を括ってケインではなくカインとして生きていくのもいいかもしれないな……。
——ただ、クロエの見解は違っていた。
「なにそれ、バッカじゃない?」
「え……?」
「ようは町を守るために犠牲になって死んだってことでしょ?」
「ま、まあ、そういうことみたいですが……」
「犬死にじゃない、そんなの……」
「このロックスの人たちが非難するための時間を稼いで、それでも犬死にですか?」
クロエはむっとした表情を浮かべた。
「いい、カインくん。自分の命と引き換えに誰かを守ったとして、残された人の気持ちはどうなるの? 家族や、大事な人の気持ちは?」
——んなもん知るか……とは言えないよな、やっぱ。
「まあ、そうかもしれませんが……」
「本当の英雄だったら、人の命も、自分の命も守り切るはず。困難に打ち勝って、笑って凱旋する、そんな人をアタイは英雄だと思うけど?」
「人の命も、自分の命も……?」
「アタイら鍛冶師はね、持ち主の命を守るために命がけで槌を打ってるんだ」
「持ち主の命を守るため……」
クロエはふっと笑った。
「——ま、これは親父の請け売りだけどさ、やっぱ生きてて欲しいじゃん。じゃないと、アタイら鍛冶師は死ににいくための剣を打ってることになっちゃうからねぇ。剣が墓標になっちまったら悲しいだろ?」
俺はクロエの話を聞いて、なんだか救われた気分になった。
正直、あのまま死んじまっても良かったと思ったが、今こうして生きていると、やっぱりダサい死に方だったんじゃないかと俺は迷っていた。
アリーゼにバカ親父呼ばわりされて死んでいくのも癪だし、やっぱり俺はアリーゼの誇れる親父になりてぇ……。
そして、俺は生きてるんだぞってことを、あいつに知ってもらいてぇな……。
「——なんてね? 鍛冶師見習いがなに言ってんだって感じ……あれ、どうしたの、カインくん?」
「……いえ、感心してしまって」
「え?」
「クロエさんのこと、尊敬します」
「ば……バカ! 大人をからかうなってぇの!」
——こいつは、本物だ。
やっぱり俺は、この人に仕事を頼みたい。
恥ずかしそうにそっぽを向くクロエを見ながら、俺は固くそう思った。
『それは言わないであげて。【道具精製】だって天から授けられた立派なスキルよ?』
そんな感じで俺のことを馬鹿にして笑っていたアルフレッドとクルル——その二人のあいだに生まれた子供はアルフォンスというらしい。
クロエから聞いた話だと、両親の名に恥じない高潔な人物とのこと。
ただまあ、その両親はパーティーの中では俺を荷物持ちと言って嘲笑っていたやつらだ。
アリーゼと同い年。
今年兵士訓練場に行くってことは、二人は同期生になるというわけだ。
いや、訓練場ですでに二人は会っているのかもしれない。
しっかしアルフレッドとクルルの息子——蛙の子は蛙って言うけど、アリーゼが平民の出だってことで馬鹿にされなきゃいいけどな。
——ぶっちゃけ、兵士訓練場はそういうところだ。
俺が行っていたころは、だいたい三分の一が貴族の出って感じで、残りが平民の出。
ガキがガキガキしている中で、くだらない上下関係みたいなのが存在する。
貴族の子供は平民出と分けられ、優遇されるっていうのが当たり前で、そういう中では平民出ってだけで馬鹿にされる。
じゃあスキルが強ければいいかと言えば、べつにそういうわけでもない。
むしろ平民が貴族よりも強いスキルを持っているだけで嫉妬の対象になりやすいって感じで、強いスキル持ちの平民こそ、立場を理由にいじめられる。
これについては、はっきり言っちまうと貴族のくだらないプライドってやつだ。
ちょっとでも貴族より優秀な部分を見せたら「なにあいつ、調子にのってんの?」みたいな空気になるのが当たり前。
親がちょっと貴族だからって、自分が強くなった気でいる貴族のガキは多い。まあ、そういう風にしつけられてきたというのなら、教育してきた親に責任があるのだろうが……俺もアリーゼのことで人に言えないな。
で、ガキンチョは容赦がない。
自分の手を汚さず、平民の子に金を握らせて仲間内から嫌がらせするようなことも、俺はすでに経験済みだ。
とにかく容赦がない上に、小賢しい知恵だけが回るので余計にタチが悪い。
とりあえず、俺が兵士訓練場にいたときは、嫌がらせしてくる貴族連中を教官に見えないところでボコボコにしておいた。俺はやられたら倍にして返すタイプだ。
まあ、あとでいろいろ面倒なことにはなったが、別段その当時の俺には奪われて困るものって言えば金くらいだったので、「訓練中のミスでーす」と言って平気な顔をしておいたが。
そういえば、俺が【暁の団】にいたころも、俺以外は全員貴族だっていうので、最初から仲間だと認められていなかった感もある。
……嫌われる原因が、俺のこの性格うんぬんは、とりあえず置いといて。
——ま、そういうもんだ。
アリーゼは俺に似て気が強いから大丈夫だと思うが、それでもやっぱ心配。——もちろん貴族の子供が。
蛙の子は蛙なら、アリーゼは俺と同じように訓練場で貴族連中を容赦無くボコボコにしてしまうだろう。
まあ、もちろん血は繋がっていないけど、アリーゼならやりかねない。
あのじゃじゃ馬に、どっかの貴族のボンクラがちょっかいを出したら怖いな——って、親父になるってこういうことか……。娘のことでつい気をもんじまう。
「——ちょっとカインくん、聞いてる?」
おっといけねぇ、忘れてた。
「は、はい? なんでしょうクロエさん?」
「さっきから上の空だね? なにか考え事?」
「あ、いえ。昨日はあんまり眠れなかったので、朝からぼーっとしちゃって……」
クロードのところでクロエからウィンチェスター家の事情を聞いた翌朝。
俺はクロエが住むかもしれない場所に連れて歩いていた。
「それで、なんの話でしたっけ?」
「だから、これから連れていくって場所。本当に空家なの?」
「ええ……」
まあ、空き家というよりは俺の、俺とアリーゼの家のことなんだが……。
「ふ~ん。前の住人はどんな人だったの?」
「……親娘で二人暮らしでした。娘のアリーゼ・フォスターは兵士訓練場に入るために上京して、父親のほうは——」
——ケイン・フォスターは死んだ。そういうことになっている。
ただまあ、それだとちょっとだけ寂しいので、
「——この町を守った英雄になったみたいですよ?」
と皮肉まじりに言っておいた。
英雄の条件——もちろん功績を残すことだが、もう一つある。
それは、困難に立ち向かって見事に命を落とすこと。
ま、なぜかこうして若返って生きているわけだが、俺も腹を括ってケインではなくカインとして生きていくのもいいかもしれないな……。
——ただ、クロエの見解は違っていた。
「なにそれ、バッカじゃない?」
「え……?」
「ようは町を守るために犠牲になって死んだってことでしょ?」
「ま、まあ、そういうことみたいですが……」
「犬死にじゃない、そんなの……」
「このロックスの人たちが非難するための時間を稼いで、それでも犬死にですか?」
クロエはむっとした表情を浮かべた。
「いい、カインくん。自分の命と引き換えに誰かを守ったとして、残された人の気持ちはどうなるの? 家族や、大事な人の気持ちは?」
——んなもん知るか……とは言えないよな、やっぱ。
「まあ、そうかもしれませんが……」
「本当の英雄だったら、人の命も、自分の命も守り切るはず。困難に打ち勝って、笑って凱旋する、そんな人をアタイは英雄だと思うけど?」
「人の命も、自分の命も……?」
「アタイら鍛冶師はね、持ち主の命を守るために命がけで槌を打ってるんだ」
「持ち主の命を守るため……」
クロエはふっと笑った。
「——ま、これは親父の請け売りだけどさ、やっぱ生きてて欲しいじゃん。じゃないと、アタイら鍛冶師は死ににいくための剣を打ってることになっちゃうからねぇ。剣が墓標になっちまったら悲しいだろ?」
俺はクロエの話を聞いて、なんだか救われた気分になった。
正直、あのまま死んじまっても良かったと思ったが、今こうして生きていると、やっぱりダサい死に方だったんじゃないかと俺は迷っていた。
アリーゼにバカ親父呼ばわりされて死んでいくのも癪だし、やっぱり俺はアリーゼの誇れる親父になりてぇ……。
そして、俺は生きてるんだぞってことを、あいつに知ってもらいてぇな……。
「——なんてね? 鍛冶師見習いがなに言ってんだって感じ……あれ、どうしたの、カインくん?」
「……いえ、感心してしまって」
「え?」
「クロエさんのこと、尊敬します」
「ば……バカ! 大人をからかうなってぇの!」
——こいつは、本物だ。
やっぱり俺は、この人に仕事を頼みたい。
恥ずかしそうにそっぽを向くクロエを見ながら、俺は固くそう思った。
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15年後には拘束されない
ケインもこの2つの技を使って強くなってほしい
白井老师(尺v尺)